光ってたらだいじょうぶ
おでこに乗せた濡れタオルがひんやりと気持ちがよかった。タオルで目元まで隠しているのも手伝って、少しずつ落ち着いてきた。
「ふぅぅぅ…」
緊張が抜けて、息を吐いた。するとエメの心配する声が聞こえた。
「ルゥ、どこか痛む?」
「ごめん、エメ。痛いんじゃなくて、タオルが気持ちよくて息を吐いただけだよ」
「そう、それならよかった」
その声が近くてタオルを右手で少し上げて覗くと、エメがまたマットレスに頬杖をついて僕を見ていた。
またドキドキがぶり返しそうで、すぐにタオルを戻した。
「そういえば…」
エメが思い出したように話し始めた。
「どうしてルゥはあんな斜面を歩いていたの?」
「えっ……、どうしてって…」
「だって、あんな所、危ないでしょ?」
僕はタオルの隙間からエメの顔を見た。眉をひそめて怪訝そうな顔をしている。まあ、確かにあんな所、自分で選んでは歩かないだろう。
「………石が光ってたんだ」
「石って、あのルゥの石?ちょっと待ってて」
そう言ってエメは隣の部屋へ行って、すぐに戻ってきた。
「これ?」と言って差し出した手のひらには、見慣れた丸い小石が乗っていた。
「そう、これ!どこにあったの?」
歩いている時は手に持っていたから、崖を転げ落ちた時に失くしたと思っていた。
「ルゥが倒れてた横に落ちてたの。確かに、その時は光ってたわ。何を探していたの?」
「………」
「ルゥ?」
「………エメを」
「えっ?」
こんなカッコ悪い再会を思うと、本人に白状するのは恥ずかしくて、エメの顔も見ずに早口で一息に言った。
「石が光る方へ行ったら君に会えると思ったんだ」
「私に…、会いにきてくれたの?」
エメの顔を見ると、綺麗な青い瞳を大きく開いて僕の方を見つめていた。この澄んだ瞳が忘れられなかったのかもしれない。
「昔、僕が迷子になった時、エメが助けてくれて、すごく嬉しかったんだ。もう帰れないかもって心細かったから。
いつかまた会いたいと思っても、森には入ったらいけないって言われてたから、なかなか来られなくて…」
「じゃあ、今回はどうして?」
「間違って、いつの間にか森に入っちゃったんだ」
「ラリーさんが、柵が壊れてたって言ってたわね」
「そう、それで森に入ったって気づいた時に、エメに会えるかもって思いながらこの石を出してみたら光ってたんだ」
「ルゥも私のこと、覚えていてくれたのね」
「……エメも僕に会いたいって思ってくれてたの?」
エメは少し照れたように頷いた。
「でも、また森に来てくれるなんて絶対にないと思ってた」
「来てよかった。怪我せず会えたらもっとよかったんだけど…。いっぱい迷惑かけてごめんね」
「迷惑だなんて思っていないわ。でも…、もしかして、あの石が一番光る方へ歩いたんじゃ…」
「うん、光る方に行けばエメに会えると思って」
「やっぱり…」
エメが困ったように笑った。
「やっぱりって?」
「ルゥ、石は人が歩きやすいかどうかは教えてくれないのよ」
「えぇ……」
「一番光る方が一番近道なんだけど、危ないと思ったら薄く光る方へ行けば、遠回りだけど歩きやすい道があると思うの」
「………光ってたらだいじょうぶ」
不意にエメが言ってた言葉を思い出した。昔、あの光る小石をくれた時にエメがそう言っていた。
「そうよ。……ルゥ、どうかした?」
「『光ってたらだいじょうぶ』ってそういう意味だったんだ。エメ、昔、僕が迷子になった時、まっすぐ行けば森の出口の所まで連れて行ってくれたの?」
「……?よく覚えてないけど……そうだと思うわ。明るく光る方へ歩ける方がわかりやすいから。でも、大きな木があると、どうしても曲がらないといけないから、光ってたら大丈夫って言ったんじゃないかしら」
あの時、エメは5歳くらいか。よく覚えてないのも無理はない。
それより、5歳の子供でも危なければ遠回りすることを知っていたのに、僕はなぜあの道を進んでしまったんだろう…。
改めて「はぁぁぁ……」と大きなため息を吐いたら、エメはおかしそうに笑った。
「ルゥ、頑張って来てくれたんだね」
エメは嬉しそうにそう言った。僕としては、思いっきり空回りしたんだけど。




