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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
最終章 エメとルゥの幸せのかたち
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《幕間》王子の回想(前編)

「王子の回想(前・後編)」は、アレン王子視点のお話です。

「第6章 生き写し」辺りのお話を王子の視点で振り返りつつ、この後のお話につながります。

宰相ブルックら、国王陛下や第一王子夫妻に毒を盛って排して国政を我が物にしようとした者達を処罰し、国王派/皇太子派などと呼ばれた対立がなくなってから三年後の平和なある日のこと―――



王城の皇太子執務室、その部屋の中央の大きなテーブルで、次々に運び込まれる新たな書類を確認し、必要な補足資料を鬼のような勢いで添えていく男がいる。


私は、自分の机の上に積まれた書類に順に目を通してサインを書き込みながら、その様子を見て楽しんでいた。


この十日間程、私の業務が立て込んでいるため、信頼できる者を借りてきた。その彼が、いつも以上に真剣に書類に向かっているのには訳がある。仕事が早く片付けば、今日は彼の大好きな婚約者と一緒に帰れる予定らしい。最近忙しくて、一緒に帰れそうなのは久しぶりだという。まあ、彼が忙しいのは私のせいなのだが…。



彼らは婚約して三年経ち、春になれば結婚式を予定している。


彼――リュウ・シュライトンは、私の学生の頃からの友人だ。皇太子という私の立場に上手に配慮しながらも、遠慮なく接してくれる貴重な心を許せる相手の一人だ。


そして、彼は私の大切な姪ソフィアの命の恩人であり、彼女の婚約者でもある。


彼ら二人が出会ったのは小さな子供の頃、そして再会して心を通わせ合うようになって五年以上が経つらしいが、私がソフィアが生きていると知ったのは、ちょうど三年前のことだ。その時の緊迫した時のことを、ふと思い出した___


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


三年前の冬、ウィンター・キャンドル・セレブレーションに訪れた客人との面会を終え、城内を歩いていた。廊下の向こうから楽しそうな笑い声が聞こえたのでそちらに目を()ると、リュウとその友人と思わしき者が話していた。誰かは知らないが、親そうなその様子から、古くからの仲であろうことが伺えた。


「リュウ、楽しそうだね」

「おお、リュウ。警備は終わったのか?」


私が声を掛けるのと同時に、反対側からリュウと私の共通の友人であるディーンの声もした。


「アレン殿下、こんにちは。ディーン、僕は警備の担当は終わったよ」


さっきの笑い声が嘘のようにリュウの顔は険しく、私達にぶっきらぼうに返事をすると、「ちょっと失礼」と言って、友人の肩をがっしりと掴んで廊下の端へ寄ってひそひそと話し始めた。笑い声が聞こえてからほんの数歩の間に、何があったのだろうか?


ディーンはその二人の背後へ息を潜めて近づき、聞き耳を立てようとしていた。私は、リュウの真剣な顔が気になり、あとで聞いた方がいいだろうと、ディーンを咎めようとしたが……、


「……の皇太子殿下の…」


リュウの友人の声が漏れ聞こえた。


―――私の話か?


ディーンを止めようと思ったのも忘れて、私も話の続きを聞こうともう一歩近づいた。


「… に第一王子殿下御一家の肖像画が飾ってあってさ…」


「なに、コソコソ話してるんだ?」


「うわぁ」


ディーンが声を掛けると、私達が背後にいるとは思っていなかったリュウは飛び上がるほど驚いた。


「第一王子と聞こえましたが、兄がどうかしましたか?」


先に聞こえた『皇太子殿下』とは、私ではなく、兄上のことだったようだ。リュウとその友人との間で、兄上のことが話題に上がるなんて、その理由が想像できなかった。


でも、リュウはすぐには答えず黙り込んだ。何を口にするか慎重に選んでいるような…、そして、少し考えた後、私達をまっすぐに見た。


「殿下、ディーン、後から説明させてください」


リュウにとって、よほど大切なことなのだろう。取り敢えずは事の成り行きを見守ることにした。


「それでエド、そのことは誰にも話してないよね?」


エドと呼ばれたその男は、リュウの問いかけに答えられずに足元に視線を落とした。それを見たリュウの眉間には皺が寄り、声が一段低くなった。


「誰に……話した?」


その迫力に押されて、エドがおずおずと答えた。


「あの…、肖像画を見て驚いて声を上げてしまったんだ。そしたら近くにいた近衛兵の方になぜ驚いたのか聞かれて、つい……」


「つい?」


「地元に住む知り合いに似てる、って…」


リュウの顔が青ざめていく。


「エドが話した相手は誰だかわかるか?」



エドが記憶を辿(たど)る間の沈黙が長く感じた。


「確か…、ダグラスと名乗っていたな」


一瞬でその場が凍りついた。この王城で、私と宰相の対立を知る者が、その名を聞いてわからないはずがない。


「ダグラス・ブルック…」


誰より先に、私の口からその名が漏れていた。兄上に関わる事で宰相の息子ダグラスの名が挙がるなど、嫌な予感しかしない。


リュウも同じことを感じているのだろう。先程よりもさらに彼の顔は青ざめ、行き先も告げずに歩き出した。エドも慌てて後を追う。


さっきから『肖像画』と話しているが、そこに描かれた誰のことを言っているのだろうか。すぐに聞きたい気持ちをぐっと(こら)えて、リュウ達が向かう先へとついていった。



早足で歩く中、その答えはすぐにわかった。エドが、前を歩くリュウに尋ねた。


「リュウは、前皇太子妃殿下の肖像画は見たことなかったのか?生き写しってこのことかと思ったよ。あまりに似てて、驚かずにいられなかったんだ…」


前皇太子妃殿下―― クリスティーナ様…に生き写し?


―――兄上の娘、王女ソフィアのことか?


兄上の家族は全員、先の流行病で亡くなった()()()()()()


私の心臓は大きく跳ね、鼓動が早くなった。


ソフィアが生きているかもしれないことは知っていた。それを宰相側も探っていたことも、その目的も…。


ソフィアが生きているとして、その情報をダグラスも掴んだとして、何をすべきか、猶予はどれくらいあるのか、いろんなことがグルグルと頭の中を駆け巡った。


考えが纏まらないまま、少し遅れてリュウ達の後をついていく。どうやら肖像の間に向かっているようだ。そこで疑惑を確信に変えるだけで、嫌な予感からは逃れられないのだろう……

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