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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
最終章 エメとルゥの幸せのかたち
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婚約披露(後編)- 予想外と未来への思い

一通り招待客と話をすると、会場の隅で演奏をしていた楽隊の演奏が少し大きくなり、ダンスが始まることを告げていた。


招待客達は少し壁寄りに動き、大広間の真ん中に空間ができた。そこで、最初に僕とエメが二人で踊る。


僕がエメに手を差し出すと、エメはまた大人びた笑顔で背筋を伸ばし、その手を取った。その雰囲気の切り替わりに、僕の心臓は跳ねた。でも、緊張している時ではない。エメのダンスをリードしなければ。


エメと踊るのは最初の一曲だけ。彼女の安全も考え、今回はエメが僕以外と踊ることはなく、その曲が終われば僕らは踊りの輪を外れることになっている。


その一曲だけだが、僕はとても楽しみにしていた。


初めてエメと踊ったのは、僕が崖から落ちてまだ怪我が治っていない小屋でのこと。エメの辿々(たどたど)しい動きが可愛かった。


次はオルゴールを贈った時に、エメの家で。何度も繰り返しオルゴールのねじを巻いて、暖炉の前でダンスの練習をした。だいぶ上手になったのに、僕の足を踏みそうといつも心配していた。


この屋敷に来てからは、ダンスの練習をする機会がなかった。でもエメとはリズムが合い、とてもリードしやすく楽しいから、今日、また彼女と踊れることが嬉しかった。


エメの手を取って広間の真ん中まで行き、僕が左手をそっと彼女の背中に添えると、エメも僕のその腕に彼女の手を置き、僕を見上げた。


エメのどんな宝石よりも綺麗な青い瞳が僕を見つめてくれていることに幸せを感じ、彼女をきっと幸せにしてあげたいと思った。



まもなくダンスの一拍目がくる。


僕が一歩目を踏み出し、わずかにエメが遅れて……


―――えっ?ん?あれ?


二拍目、三拍目も……、エメはズレることなく僕と同じタイミングでステップを踏んだ。


ひらひらと舞う蝶のように、僕のリードを頼ることなく踊っている。たっぷりの生地を使ったドレスがエメの動きに合わせて大きく揺れて、その動きがより優雅に見えた。


僕が驚いてエメを見下ろすと、エメが得意げな笑顔で見上げていた。


僕は小声でエメに話し掛けた。


「いつの間に……こんなに上手に…」


「ふふふ、驚いた?」


「ああ、すごく…」


エメは優雅に踊りながら、僕が驚く様子を楽しそうに笑った。


「お義母(かあ)様がね、ルゥを驚かせましょうって、ダンスの先生を呼んでくださったの」


「母上が、なんて?僕を…?」


「上手になっていたら驚くでしょうって」


―――ああ、驚いた。エメが急にダンスが上達していたのも驚いたが、それ以上に、母上が僕を驚かそうとしたことが。


「あっ!僕がいつも追い返されてたのって、これを内緒に練習するため?」


エメは、にっこり笑った。


踊りながら視界に入った母上を見たが、いつも通りのツンと澄ました顔をしている…。


「母上が…」


驚きが収まらない。


「ふふふ、お義母様も楽しそうね」


「???」


僕は首を振ってまで母上を見てしまった。


「ルゥ…、そんなに振り返らないで。大笑いしてしまいそうよ」


動揺を隠せずにいる僕を見て、エメが必死に笑いを(こら)えている。ターンをしてまた母上が視界に入ると、母上は扇子で口元を隠していた。


―――えっ⁈もしかして母上は笑っているのを隠してるのか?


僕以上にエメが母上と気持ちが通じ合っているのが、驚くというか、なんだか嬉しかった。


曲が終わり、エメがスカートをひらりとつまんで優雅にお辞儀をした。僕も胸に手を当てエメに一礼した。


その手には、僕の鼓動が大きく響いていた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


すぐに次の曲が始まり、皆が大広間全体に広がると、色とりどりのドレスがクルクルと舞い始めた。



僕はエメを広間の壁際の少し高くなったところに用意された椅子までエスコートした。


二人で並んで座ると、すぐに給仕が飲み物を持ってきてくれた。それを一口飲んで、ふぅっと大きくため息を吐くと、エメが横でクスッと笑った。


「ルゥがあんなに驚くと思わなかった」


「エメが上手になったのも驚いたし…」


「お義母様がルゥを驚かしましょうって言ったのが驚いたの?」


「ああ、母上がそんな楽しい人だとは思ったことなかったんだ」


「そうなの?とても優しくて、皆が楽しく過ごしやすいようにって、いつも考えていらっしゃるのよ。そうだ、このドレスと髪飾りの色もお義母様が勧めてくださったのよ。近衛兵の制服に合うでしょうって」


「本当だ……、気づかなかった…」


確かに、白地に銀の刺繍が施された制服に紺のマントの僕に対して、エメは紺色のドレスに白い真珠とシルバーの髪飾りという装いで、こんなに色を合わせて選んでくれたことに気づかなかった自分に驚いた。


「ふふふ、お義母様は『いつリュウが気づくか楽しみですね』って仰ってたわ。ダンスの後に気づきました、ってご報告しないといけないわね」


「いや…、エメが教えてくれなかったら、僕は最後まで気づかなかったかも…」


「だって、誰も色がお揃いですねって言ってくれないんですものね」


バツが悪そうにする僕を、エメは楽しそうに笑った。


「それにしても、エメが母上とこんなにも打ち解けているなんて驚いたよ」


「私も。最初、お義母様には『本当の娘のように指導します』って言われて緊張してたの。でも、いろんなことを教えていただいてとても楽しかったわ」


エメがにこっと笑って続けた。


「お義父(とう)様とお義母様を見ているとね、ルゥが強くて優しい理由がわかる気がするわ」


「理由?」


「お二人とも厳しいことを仰るけど、きっとできると思って信頼してくださった上でのことだと思うの。私のこと、最初は自分でできるように見守ってくださって、本当に困った時や失敗した時は、そっと助けてくださったわ。きっとルゥにも同じようにされていたんだろうと思って」


「そうかな?……いや、そう…だね、きっと」


エメに言われて、これまでの両親のことを振り返ってみた。


「僕…、自分の力でできてると思ってた。気にしてなかったけど、エメの言う通り、確かに二人ともいつも見守ってくれてたね…」


僕にとっては、両親のそんな態度が当たり前になってたけど、改めて考えてみると見守るって大変そうだ。思わず手を出したり、危なっかしいと止めてしまいそうだが、彼らはそうしないで、僕ができるまで待っててくれた。


今まで気づかなかったことを思い返していると、エメが呟いた。


「私も将来、そんな母親になれるかしら…」


「えっ?」


「あ、気が早いわね。ふふふ」


エメは照れて頬を少し赤らめて笑った。その顔を見て、僕もつられて照れてしまった。


―――エメとの子供…、きっと可愛いんだろうな。


まだ婚約が決まったばかりだというのに、本当に気が早い。


でも、願っても叶わないと思っていた未来を、エメと並んで想像できるようになったことに心から嬉しく思った。

いつも読んでいただきありがとうございます。


明日は、本編をお休みして、アレン王子視点で少し前のことを振り返りつつ、次の場面へのお話を書きたいな、と思っています。お付き合いいただけましたら嬉しいです。

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