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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
最終章 エメとルゥの幸せのかたち
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休暇……ではない

アレン殿下は二日の滞在の後、王都へ戻っていかれた。出発の日の朝は、僕とエメは並んで殿下を見送った。


「ソフィアが落ち着いて過ごせる環境を用意したら迎えを寄越す。今度は時間を掛けて準備をしたいと思うから、その間は、ここフィレイナードでゆっくりと過ごしてほしい」


「ありがとうございます。アレン様もお気をつけて」


二人は叔父と姪の関係ではあるが、僕と同い年の殿下は、エメと三つしか年が離れていない。向かい合ってお互いを気遣い話す様子は、仲の良い兄妹のようにも見えた。


そして、その仲のよい様子に少し嫉妬しながら一歩離れて立っていた僕にも、殿下はにこやかに仰った。


「リュウ・シュライトン、ソフィアがここに滞在中の護衛を命じる」


そう少し仰々(ぎょうぎょう)しく僕に任務を命じ、満足そうに馬車に乗り込まれた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


さて、こんなに嬉しい任務があっていいのだろうか?


僕はエメの過ごす客間に立っていた。


最初はエメの側にいるとソワソワしてしまっていたのが、数日が経ち、僕も慣れてきた。



エメの部屋の扉の前には、フィレイナード騎士団の兵が交代でやってきて、常に二名以上は立っている。そして、庭は屋敷の警備兵が巡回し、僕はそれほど気を張っている必要はない。


実際のところ、僕はいらないんんじゃないかと思わなくもないが、マークが言うには、襲われたあの日からエメが一人でこの屋敷で過ごした間の彼女の心の傷は深いはずだから、それを癒す必要があると。


「森の家でお前を待ってる間、息もできないほど不安そうだったぞ。せっかくここでゆっくり過ごせるのなら、お前はただ側にいるだけでいいから、思いっきり甘やかしてあげればいい」


とはいえ、僕までのんびりするわけにもいかないと思い、任務の時間を朝食後から夕食前までと決め、きちんと近衛兵の制服を着てエメの側についた。


エメは、僕がずっと側に立っているのが嬉しいと言ってくれ、本を読んだり、刺繍をしたりする合間ににこっと笑顔を向けてくれた。


「ルゥ、座ったら?」

「画集を貸していただいたの。一緒に見ない?」

「ん!このクッキー美味しいわ。ルゥも食べる?」


「いえ、任務中ですので」


エメは、僕が断るとわかっていて色々と声を掛けてくる。そして「ルゥの意地悪」などと言って、頬を膨らませてわかりやすく拗ねてみせる。


可愛いその仕草一つ一つに僕は顔が緩みっぱなしだ。


エメの立場を考えると、万が一のことを常に頭に入れて警戒はしているが、公然とエメの側にずっといられる幸せを噛み締めていた。



___コン、コン、コン


扉がノックされ、ラリーが入ってきた。今は、僕とエメの予定を管理してくれ、僕らに関する屋敷内の連絡も取り仕切ってくれている。


「エメ様、奥様とのお約束の時間です」


「はい、お待ちしていました」


エメは、こげ茶色のリボンベルトでウエストをキュッと締めたクリーム色のドレスを着て、髪も結い上げて用意をしていた。


色は落ち着いているが、袖やスカートの裾のフリルとそれを縁取る生成りの小花のレースが華やかなで可愛らしい印象を作っていた。


僕が右手を差し出すと、エメは嬉しそうに彼女の手をそれに重ねて「行きましょうか」と微笑んだ。


扉を出ると、部屋の前で警備をしていたエドウィンとあと二人の兵が立っていた。部屋から出る時は、一人だけ僕と一緒にエメについてきてくれるが、エドウィンが「俺が行ってくる」と他の兵に告げていた。


「エドウィンさん、こんにちは。皆さんもいつもありがとう」


皆、エメの笑顔にデレっとして、「エメ様、こんにちは」と挨拶を返した。



母上の部屋に向かって歩き出すと、エドウィンがエメに話しかけてきた。


「こんにちは。私は、エメちゃんの護衛でここにおります。私に対して『さん』はいりませんよ」


「でも…」


急に立場が変わり、エメが戸惑っていることがわかる。


「エメが呼びにくいようなら『さん』くらいはつけてもおかしくないよ。エドの方こそ、エメちゃんって…」


「私が呼び方を変えないでってお願いしたの」


「でも、エメ()()()って呼ぶのはエドくらいだろう」


僕がその図太さに呆れて笑うと、エメが小さな声で言った。


「あの、マーク様も…」


―――ああ、呼び方、変えなそうだね。


僕が諦めたように笑うと、エメも首をすくめて笑った。困ったような、でも嬉しそうな。



そのあと、エメはラリーに今日の予定を確認を始めた。すると、エドウィンが僕に小声で話してきた。


「エメちゃん、元気そうでよかったよ」


「ああ、皆に温かく見守ってもらえて、エメも安心できているようだ」


「お前も休暇でずっとエメちゃんの側にいてあげられるしな」


「失礼な。僕は休暇じゃ…」


「ないっていうのか?」


「ない……、と思ってるけど」


僕の歯切れが悪いのを、エドウィンは楽しそうに笑った。


「それはそれは。なんとも幸せな任務だな」


「ははは…、そこは否定しないよ」


エメは僕らが何を話しているのかまでは聞こえないようで、首を小さく傾げてこちらを振り返った。


僕はエメに微笑み、エドウィンも横でヒラヒラと手を振ると、エメはにっこりと可愛らしく笑った。

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