表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第1章 エメとルゥ
10/115

恋なのか、何なのか

翌日、部屋が明るくなって目を覚ますと、隣の部屋からエメが覗いていた。すぐにこちらに来ないのは、倒れたことを後ろめたく思っているのだろうか?僕のせいで、あんなに疲れたのだろうに。


昨日は日が暮れる前にラリーと数人の家の者が、ベッドやマットレスなど一式を持ってきていた。


エメがベッド代わりにしていたソファは、部屋から運び出されて、今は玄関扉の横に置かれている。それは寝転がるにはあまりに小さくて驚いた。二人並んで座ったら、肩がピッタリくっ付いてしまうような小ささで、肘置きを枕にしたとしても、エメはそこに体を丸くして寝ていたなんて。ベッドも大きいものではないが、横になって少しはゆっくり休めただろうか。


なぜか遠慮がちに扉の陰に隠れているエメが可愛らしくて、思わず笑ってしまった。


「エメ、大丈夫?」


エメは僕が笑ったのを見てホッとしたように部屋から出てきて「大丈夫」と頷いた。


「ルゥは?」


「……んー、あ、昨日より痛くないかも!」


体が少し軽くなった気がして起きあがろうとしたら、痛いところはまだあちこちあった。


「いたたたた…」


エメが慌てて駆け寄って、僕の背中にクッションを入れてくれた。


「大丈夫、ルゥ?」


「っうぅぅ…、だ、大丈夫」


「本当?」


エメが呆れた顔をして笑っている。僕も笑った。もう情けないのも開き直ってきた。



「かあさんは、今朝早くに家に帰ったわ。また夕方に様子を見に来てくれるって」


そう言いながら寝台の横の椅子に座ったエメの頬に、僕は右手を伸ばし、包帯が巻かれていない人差し指と中指の背でその頬にそっと触れた。


「よかった、熱は下がったんだね」


「うん、街の人に会うのは緊張するの…。もちろん、ラリーさんやお医者さまは悪い人達じゃないってわかってるけど……昨日は緊張しすぎて熱が出たみたい」


そう言ってエメは気まずそうに笑った。僕はエメの頬に触れていた右手を下ろした。


「エメ…、僕がここにいるのも緊張する?それなら…」


「ルゥは緊張しないわ。一緒にいるとなんだか安心する」


エメはにっこりと微笑むと、両手で僕の右手をそっと持ち上げ、僕の指の背に彼女の頬を優しく押し当てた。


「ルゥの指、ひんやりして気持ちいい」


エメは目を閉じてその感じを確かめているようだった。「昨日は心配かけてごめんね」と目を閉じたままそう言う彼女の頬も指も柔らかくて温かくて、僕はなんだかドキドキして落ち着かなくなった。


「ぼ、僕の指なんて、ゴツゴツしてるだろう」


何を慌てているのだろうか。先に彼女の頬に手を伸ばしたのは僕の方なのに。そんな僕の内心のドキドキなんて気づいていない様子のエメは、僕の手に視線を落としたまま顔を少し上げ、添えていた両手で僕の右手、包帯が巻かれた部分をそっと包み込んだ。


「ルゥの怪我、早く治るといいね」


エメは何の気なしに僕の手を取っているんだろうけど、僕の心臓は大きく跳ね、緊張までしてきた。


返事のない僕を不思議に思ったようにエメが僕の方を見た。そして驚いた顔をして立ち上がり、今度は僕の両頬をエメの手で包んだ。


「ルゥ、大変!熱があるみたい!」


鏡を見ずとも、顔が熱く、真っ赤になっているのがわかる。


「…だ、大丈夫だよ、エメ。少し休んだら落ち着くから」


「うん、横になって休んで」


エメの手を借りて僕が寝台に横になったら、エメはまたストンと寝台の横の椅子に腰を掛けた。椅子を寝台から少し離して、マットレスに頬杖をついて僕のことを見るものだから顔が近い。エメは僕の顔がなぜ赤いのか、全然わかってない。


「ルゥ……、大丈夫?」


「大丈夫だよ。ごめんね」


「ううん、まだまだあちこち痛そうだもの。ゆっくり休んで。あっ、おでこを冷やすタオル取ってくるね」


エメがパタパタとキッチンの方へ走っていった。寝台に一人残された僕は、正直ちょっとホッとしていた。心配してくれるエメには悪いが、体の不調で顔が赤いわけではない。


これが友人達が楽しそうに話している「恋」というものか僕にはまだよくわからないけど、エメのことを意識しているのは明らかだった。


「はぁ……」


右手で顔を覆ってため息を吐いたところで、エメが水を張った桶とタオルを持って戻ってきた。


サイドテーブルに桶を置いて、タオルをぎゅーっと絞りながら、心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。


「かあさんを呼んできた方がいい?」


「いやっ、ジュディさんに来てもらうほどじゃないよ」


そうエメに言われて、僕はドキッとしてしまった。ジュディさんが見たら、僕の気持ちなんてすぐにバレてしまうだろう。


「そうね、一人で待つのは心細いものね。私、ここにいるわ」


「………?」


―――エメは何を言っているんだろう?


と思った僕は、自分の右手を見て、更に赤面した。エメのエプロンの裾を掴んでいる。


ジュディさんにこの気持ちを知られるかもと焦った結果だが、まるでエメにここに居てくれと引き留めているようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ