屋根裏で恋するおふだ
気付いた時には、君を目で追っていた。
右へ左へ、浮遊する君を。
君と同居するようになって、どれくらいの月日が流れたことだろう。
相変わらず君は、若くて美しいままだ。
時が止まっているようで、ずっと変わらない。
君はいつも、この屋根裏で、誰かを待っている。
きっと愛する誰かを待っているのだろう。
その横顔は、どこか寂しそうだった。
君は夜になると、窓から夜空の星座を眺め、嬉しそうにしている。
何故そんな君が、人間に煙たがられなければならないのか、僕には分からなかった。
人間は見えないものを怖がって、君を化け物のように扱う。
とても酷い話だ。
君が一体何をしたというのだ。
でも、残念ながら僕も、人間の味方だと君に認識されている。
だって僕は、君を祓うために貼られた“おふだ”なのだから。
だから君は、絶対に僕に近づかない。
いつも僕を、険しい顔で睨み付ける。
そして、僕も感じている。
これ以上、君に近づいてはならないと。
互いにとって、良くないことが起きてしまう気がするからだ。
僕は自分の力を自分で抑え込んでいる。
君に迷惑をかけたくないからだ。
僕が力を全て発揮してしまったら、君はきっと消えてしまうだろう。
もうその横顔も、睨み付ける表情も見られなくなってしまう。
僕は君を守りたいけれど、君に近づくことはできない。
庭のひまわりが咲き乱れる夏、屋根裏はとても暑かった。
でも君は、ひんやりと冷たそうだ。
「好きな人のところに行きたいんだ」
ある夏祭りの夜、君が不意に口を開いた。
夜空には花火が上がっていた。
「わたしの好きな人はね、天才天文学者だったの」
えっ……?
「わたしが先に死んじゃって。でも、もうそれも何十年も前の話だから、ここで待っていても、彼がこの場所に来ることはないの」
僕は、ショックを受けていた。
やっぱり、知りたくなかったのだろう。
「星と量子力学を愛する人だった。わたしよりもね」
僕ならこの場所で、君だけを見ているよ。
僕じゃ、ダメなのかな……?
「会いたいな」
君は、珍しく、僕を睨み付けることなく見つめた。
「今日、わたしの命日なの」
僕は、自分の想いを飲み込んだ。
僕が君にできることは、彼に会いたいという君の願いを叶えることだ。
この不毛な時間は、もう終わらせなければならない。
僕は君を抱きしめた。
君は、花火のように儚く散り、僕の前から消えた。
どうか愛する人のもとへ、たどり着けますように。
屋根裏には、力を失った僕が、ひらりと落ちた。




