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『第4回 下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞』

屋根裏で恋するおふだ

作者: 佐藤そら
掲載日:2022/12/08

 気付いた時には、君を目で追っていた。

 右へ左へ、浮遊する君を。

 

 君と同居するようになって、どれくらいの月日が流れたことだろう。

 相変わらず君は、若くて美しいままだ。

 時が止まっているようで、ずっと変わらない。

 

 君はいつも、この屋根裏で、誰かを待っている。

 きっと愛する誰かを待っているのだろう。

 その横顔は、どこか寂しそうだった。

 

 君は夜になると、窓から夜空の星座を眺め、嬉しそうにしている。

 何故そんな君が、人間に煙たがられなければならないのか、僕には分からなかった。

 

 人間は見えないものを怖がって、君を化け物のように扱う。

 とても酷い話だ。

 君が一体何をしたというのだ。

 

 でも、残念ながら僕も、人間の味方だと君に認識されている。

 

 

 だって僕は、君を祓うために貼られた“おふだ”なのだから。

 

 

 だから君は、絶対に僕に近づかない。

 いつも僕を、険しい顔で睨み付ける。

 

 そして、僕も感じている。

 これ以上、君に近づいてはならないと。

 互いにとって、良くないことが起きてしまう気がするからだ。

 

 僕は自分の力を自分で抑え込んでいる。

 君に迷惑をかけたくないからだ。

 

 僕が力を全て発揮してしまったら、君はきっと消えてしまうだろう。

 もうその横顔も、睨み付ける表情も見られなくなってしまう。

 

 僕は君を守りたいけれど、君に近づくことはできない。

 

 

 

 庭のひまわりが咲き乱れる夏、屋根裏はとても暑かった。

 でも君は、ひんやりと冷たそうだ。

 

 

「好きな人のところに行きたいんだ」

 

 ある夏祭りの夜、君が不意に口を開いた。

 夜空には花火が上がっていた。

 

「わたしの好きな人はね、天才天文学者だったの」

 

 えっ……?

 

「わたしが先に死んじゃって。でも、もうそれも何十年も前の話だから、ここで待っていても、彼がこの場所に来ることはないの」

 

 僕は、ショックを受けていた。

 やっぱり、知りたくなかったのだろう。

 

「星と量子力学を愛する人だった。わたしよりもね」

 

 僕ならこの場所で、君だけを見ているよ。

 僕じゃ、ダメなのかな……?

 

「会いたいな」

 

 君は、珍しく、僕を睨み付けることなく見つめた。

 

「今日、わたしの命日なの」

 

 

 僕は、自分の想いを飲み込んだ。

 僕が君にできることは、彼に会いたいという君の願いを叶えることだ。

 この不毛な時間は、もう終わらせなければならない。

 

 僕は君を抱きしめた。

 

 君は、花火のように儚く散り、僕の前から消えた。

 

 

 どうか愛する人のもとへ、たどり着けますように。

 

 屋根裏には、力を失った僕が、ひらりと落ちた。

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― 新着の感想 ―
奇想天外な発想。それでいて切なさが半端ない。淡い感じがとてもいい。
[良い点] なるほど、面白い視点ですね。 近づいたら良くないことが起こると予感し、近づくことを避けていたのに、彼女の想い知って、その想いを叶えるために身を挺する様は儚くて切ないです。 どうか、愛する人…
[良い点] 悲しいけれどおふだの女性に対する愛の深さを感じました。 どんな表情も愛する相手なら愛おしいと思うんですよね。
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