【コミカライズ決定】笑顔で人の婚約を破棄させていただけなのに、第一王子に溺愛されました。
「サーニャ! 君との婚約は破棄させてもらう!」
「そんな! どうしてですか!」
「君がカナリアを裏で虐げていたことは全て聞いた! そんな心汚い女と結婚できるか!」
「誤解ですわ!! そんなことしていません!」
学園の大広間で、目の前の男女のそんなやり取りが繰り広げられています。
それを私はニコニコとした表情で見守り続けます。
今しがた婚約破棄を申し出た男性が私を見たので、私は咄嗟に、表情を悲しみの顔に変えました。
「そうだろう、カナリア!」
「ええ。この命に替えても誓います。サーニャが虐めてきた女学生は数知れず。証言書もちゃんとありますことよ」
私の名前はイルミナ辺境伯領第一子女、カナリア・ディアーナ。
この世界──「乙女ゲーム、マジカルメモリー」の悪役令嬢キャラ……ですわ。
前世……といっても思い出したのはつい二年ほど前。とにかく、私はこの世界が別の世界ではゲームであることを思い出しましたの。
恋愛ごとの多い学園生活にて、私がぶち壊した婚約は数知れず。
正直、もう見飽きたと言ってもいいですわ。
サーニャという女性は、わあっと泣き崩れ、やがてその場を去ってしまいました。
私の主な行動パターンは決まっています。
辺境伯爵家の名を利用して人脈を作り上げる。
狙いを定めた令嬢の悪評を立てる。
そして、男性側に申し立て……婚約を破棄させる。
慣れっこです。
サーニャを見送った男性は、スッキリとした表情で私の前に立ちます。
「ありがとう、カナリア。君がいなければ僕は間違いを犯すところだった」
「いえ。私は正義に従ったまでです」
「折り入って君に話がある。君の正義心に胸打たれたんだ。僕と婚約して欲しい」
ああ、それと……
最後の行動は私が自分の意思で決めた、本来のゲームにはない行動。
「嫌、ですわ」
にっこりと微笑み、婚約を断る。
私は必ず最後に、男からの申し出を断ります。
断られると思っていなかった男性は、ショックを受け、ワナワナと震えたあと大広間を立ち去ってしまいました。
一人残された私は、ふうっと息を吐く。
「だって、私……あなたの家が破滅を迎えることを知っていますもの」
私は悪役令嬢を演じながら、密かなる願望を叶え続けているのです。
それは……推し令嬢の未来を救うこと!
前世の私がどうだったかなんて知りません。
ただ私は、可愛らしい女の子が男で泣くのに耐えられないんです。
借金まみれの爵位家、浮気性な未来の当主、顔だけいいボンクラ息子、違法な商売をしている伯爵家。あげだしたらキリがない。
そんな恐ろしい家柄に、私が密かに応援する可愛い可愛い女の子たちが行くわけにはいきません!
私がターゲットとして狙うのは、そんな悲惨な未来を迎えるであろう令嬢ばかり。
またダメな男を選んでいたら、何度でも壊します。その為なら、悪役万歳。
「……それでも、少し疲れるわね」
地盤はしっかり固めているとはいえ、ここ最近は女学生から恨みの目で見られることが増えてきました。
裏では「男を使い捨てるアバズレ女」「破談の魔女」と呼ばれていることは知っています。
大好きな令嬢たちから忌み嫌われるのは、誤魔化しても心が苦しい。
……寂しい。
「こんなんじゃ、私が結婚出来ませんわね」
それでもいいんです。
一人でも、救われる子達がいるのなら、私は生涯悪役令嬢で構いません。
本来のゲームの中の私は、そうそうに奪った婚約者と結婚し、一緒に人生の破滅を迎える予定でした。
それもなくなった現在、自分の未来がどうなるのか不透明もいいところです。
「いいえ、弱気になってどうするの、カナリア。しっかりなさい、ご令嬢たちはきっと将来笑える未来を過ごすのだから」
パンパンっと頬を叩いて、自分に気合を入れ直します。
確か、次のターゲットは二つ下の男爵令嬢だったはず……。
なんて、キャラクターの容姿をぼんやりと考えていると、頭上から笑い声が聞こえてきました。
螺旋階段を登った先の、二階。
そこから、一人の男性が私を見下ろしていました。
「やあ。君が噂の破談の魔女かい?」
「あなたは……フィナミス王国第一王子、アルドーレ・クリスティア様」
艶やかな黒髪に、右に出るものがいないほど整ったお顔立ち。
容姿端麗、文武両道。まさしく、才色兼備の権化。
同い年ではありますが、彼は王族。通う校舎も違えば、お目にかかったのは初めてです。
どうしてこちらの校舎に?
と思うまもなく、彼は私の元へ降りてきます。
「イルミナ辺境伯領第一子女、カナリア・ディアーナ。噂は聞いているよ」
「……良い噂ではなさそうですわね」
「ああ。どんな縁談も破滅させてしまうと、ついにはこっちの校舎でも有名だ」
王族や侯爵家の令息令嬢が通う校舎にまで私の噂が届いてしまったとは。
これは、さらに動きづらくなってしまいましたね。明日からどうしましょう、と頭の中で考えます。
そんな私の脳内をつゆ知らず、アルドーレ様は私に右手を差し出してきました。
「カナリア。君に頼みがあるんだ」
「……はい?」
「どうか、俺の婚約破棄を手伝ってくれないか?」
何をこの人は仰ってますの?
アルドーレ様と言えば、未来の国王陛下。
人柄・地位・名声・将来。何一つ問題がない方ですわ。
この方に迎えられる女性は、幸せの道が決まっています。破滅させる理由がひとつもありません。
「先日、父の勝手な暴走で無理やり婚約相手を決められたばかりなんだ。俺は自分が愛した女性と結婚したい。決められた婚約なんてごめんだ。
しかし、相手に落ち度がないまま婚約破棄を申し出れば、王族の顔に泥を塗ることになる。
そこで、カナリア。君が上手い具合に俺が婚約破棄できる理由を作ってくれ」
二度聞いても、意味がわかりませんことよ。
いや、その心意気はわかりますけども……。
はて? アルドーレ様の結婚相手って……どなただったかしら?
乙女ゲームでも、私はこの方と繋がりがありません。というか、目の前の令嬢たちが大好き過ぎて、この国の王子になんか興味がありませんでした。
「相手は、公爵令嬢のソフィア・ナタリーだ」
あっ。と、私は思わず口を押えました。
ソフィア・ナタリー。
史上最大の悪女として歴史に名を刻む、極悪非道の女ですわ。
彼女はアルドーレ様と結婚した後、三人の息子をもうけます。
そして、彼女による……息子を使った独裁政治が始まるのです。
真っ先に殺されるのは、現行の国王陛下。暗殺に見せかけた毒殺ですわ。アルドーレ様は傷心も癒えぬまま、最年少の国王として激務に追われます。
そして、心身ともに疲れ果てたアルドーレ様を城の塔に呼び出し……突き落とすのです。
自殺に見せ掛けた、殺人ですわ。
残されたのは、まだ幼い彼女の息子たち。
王位を継がせたことをいいことに、元老院すら取り込んで黙らせ、生涯尽きるまで、この国を地獄の時代へ導くのです。
この件がきっかけで、フィナミス王国は彼女が老衰で死んだあとも衰退が止まらず、百年後に滅亡してしまいますわ。
私……今まで散々不幸な運命を辿る令嬢を助けてまいりましたけど……不幸な運命を辿る男を助けるのは初めてですわ!
「頼めるかい、カナリア」
ああ! 整ったご尊顔が困った顔で私を見つめてきます!
断れない! こんなイケメンを前にして、断れませんわ!!
「いいですわよ」
私は勢いで了承してしまいました。
私は悪役令嬢、カナリア・ディアーナ。
相手も悪役令嬢、ソフィア・ナタリー。
悪役令嬢vs悪役令嬢。
負ければ、私の名前に傷がつき、今後令嬢を救う活動に支障が出かねない。
ぜったいに……負けませんことよ!!
■
二ヶ月間、ナタリーの情報を調べ尽くした私は、自室で頭を抱えていました。
「だめですわ……隙が一つも無い」
完璧。そうとしかいいようがない女性でした。
ゲームで未来を知っていなければ、彼女を疑う者など一人もいないのは当たり前。
今まで私は自分の地位にものを言わせて好き勝手やれましたけれど、相手は公爵令嬢……。
「無理ですわー!! 下手したら、私の実家ごと消し飛びますわ!!」
困り果てた私は、一度アルドーレ様に相談に行くことにしました。
「……え? 俺が付きまとわれているふりをしてほしい?」
「ええ。私はアルドーレ様の恋人気分で常日頃ベタベタします。それをソフィア様に見せるのです。あわよくば、彼女が私を嫌って虐めてくださいますわ」
「君はそれでいいのか……?」
「虐めなんて、計画だとわかっていれば辛くもなんともありませんことよ」
アルドーレ様は心配しながらも、私の提案を呑んでくださいました。
そこから、私は日中これみよがしにアルドーレ様にベタベタします。
ですが、ここでも問題がひとつ。
「か、カナリア……もう少し上手く出来ないのか?」
「そんなこと言わないでくださいまし!! なんたって、私……殿方に触れるのは初めてなんですこと!!」
何を隠そう、私はエセ悪役令嬢。
噂にあるアバズレでもなんでもない。
なので、アルドーレ様に触れようとすると……
「また手と足が一緒に出ているし、体が震えているよ」
「慣れですわ……慣れですわ……」
ガタガタと必死にアルドーレ様の腕を掴みます。それを見て、アルドーレ様は堪えきれなくなった笑い声をあげました。
「あはは! 本当に君は……噂話が信じられないくらい、ウブな子だね」
「馬鹿にしないでくださいまし!」
「ほら。こうやって抱きつくんだよ」
アルドーレ様は私の腰を引き寄せ、ぴったりと体を寄せ合いました。
「ひぃい!」
アルドーレ様の心臓の音が聞こえます。
耳まで真っ赤に染めた私は、悲鳴をあげることしか出来ませんでした。
「どうだい。これで少しは、俺の事を好きな女性の振る舞いに見えるよ」
見上げたアルドーレ様は……眩しいほどにお美しかったですわ……。
そうした苦労のかいあってか、ついに私はソフィア様に呼び出しをくらいました。
場所は校舎裏。
タコ殴りにするには、うってつけの場所ですわね。しっかり証拠を取るために、カメラも木の上に設置しました。
右手に隠し持ったボタンをポチポチと押せば、証拠写真の完成です。
「貴方が、カナリアさん?」
「はい。お初お目にかかります、ソフィア様」
ソフィア様は挨拶を交わすなり、悲しそうに目を伏せました。
「カナリアさんは……アルドーレ様のことがお好きなんですの?」
「ええ。心の底からお慕いしております」
「あなたは別校舎の女学生だから知らないかもしれないけれど……私と彼は婚約を交わしていますの」
ええ、存じ上げております。
普通の人ならば、ここで恐れ戦き、ひれ伏して謝罪することでしょう。
それは私の悪役令嬢としてのプライドが許しませんことよ。
ですから、私は笑って答えます。
「はい。だからどうされたんですか?」
「どうって……ここまで言って分かりませんこと?」
「私、アルドーレ様の第二夫人でもいいですわ。実際、彼は私を好意的に見てくれていますし。もしかして、ソフィア様……最近アルドーレ様が構ってくれなくて、お怒りなんですか?」
ピキっと、彼女の脳の血管が軋む音が聞こえた気がしましたわ。
おお、流石本物の魔女。圧だけで息が詰まりそうです。
ですが、すぐにソフィア様は元の柔らかな笑みに戻られました。
「そう。安心しました」
「……何がですか?」
「貴方が、【第二夫人】で満足するお方で。どうぞ、ご自由に」
……これは、完敗……ですわ。
この方きっと、将来私を毒殺する方法でも考えてますわ。
これでは、アルドーレ様とイチャイチャ作戦があまり意味を成しません。第一夫人の余裕を見せつけられて終わっただけです。
魔女の尻尾を炙り出すに至りませんでした……。
私はなにか手がかりはないかと、立ち去ったと思わせてソフィア様の後をつけます。
ソフィア様は宿舎には帰らず、人目を気にしながら校舎へ向かいました。
あれ? もう今日の授業は全て終わったはず。
誰もいなくなった校舎で何を?
不思議に思ってあとを追いかければ、ソフィア様は下駄箱に何かを入れていました。
一つだけでなく、何個も、開けて閉めてを繰り返しています。
そして、一通り終わったのか帰っていかれました。
「何をしていたのかしら?」
私は気になって下駄箱を開けます。
すると……中にはメモ書きが残されていました。
【作文、月末まで】
【研究論文、今週中】
【スピーチ原稿、二日以内】
どれもこれも、依頼文です。
「ソフィア様の今までの学業の功績は……全て他人が代行したもの?」
そして、依頼文の最後には「必ず破いて焼却炉に」とありました。
見つけました……!
これですわ、これがソフィア様の尻尾です!!
今すぐこれを回収してしまっては、依頼をこなせなかった被害者たちが泣く羽目になるでしょう。
私は苦しい心をグッと押え、メモを元通りに戻して校舎を後にしました。
■
アルドーレ様。見つけました。
そう報告したのは、メモを見つけてから一週間後。
「本当か!」
「ええ。ですが、証拠がまだです」
「どうやって証拠を集めるんだい?」
「秘密です。それも、お任せ下さい」
今日の夜、しっかり集めますわ。
アルドーレ様はほっと安心した顔をして、私に笑いかけます。
「ありがとう、カナリア。きみのおかげだ」
「いいえ、まだ安心はしないでください」
「だとしてもだよ。今日はお礼をさせてくれないか」
「お礼ですか?」
アルドーレ様は私を学校の外へと連れ出します。
そして、王族のみしか入れない秘密のカフェへと案内してくれました。
「ここなら、誰にもバレないよ」
「こんな場所に私なんかを……」
「好きなだけ寛いでくれ。出会った当初、君に酷いことを言ってしまった謝罪も兼ねて」
破談の魔女のことですわね。
ひとつも気にしていないのに、やはりこの人は優しいですわ。
心置きなく、アルドーレ様と沢山お喋りをしました。幸せでした。
寂しかった学生生活も、アルドーレ様のおかげでスリル満点の毎日を過ごせましたから。
誰かと腹の探り合いをすることなく話せるのは、こんなにも楽しいことでしたのね。
時間を忘れてカフェに居続けた私は、ハッと気づいて窓の外を見ます。
すっかり暗くなっているどころか、小雨まで降っていました。
「いけない!」
「カナリア?」
「すみません、アルドーレ様。今日は失礼します。本当に楽しかったですわ!
明日必ず、証拠品をお届けに参りますので!」
私は傘も差さずにカフェを飛び出し、校舎に向かって走り続けました。
息切れが酷い。運動不足ですわね。
体の辛さを感じつつも……私は校舎の近くに備え付けられている焼却場に辿り着くことが出来ました。
焼却炉は二つ。そして、その後ろには一週間溜まりに溜まった学校中のゴミが山になっています。
毎週、決まった日の午前……ゴミは燃やされてしまいますわ。そうなってしまえば、ソフィア様の証拠は闇の中。
あのソフィア様ですわ。私が探っていることにすぐ気が付きます。
もうメモの手段を使ってくれないかもしれません。
これが、最初で最後のチャンスなんです。
私は制服をまくしあげ、ゴミの山の中に足を進めました。
雨は次第に強まります。
「ダメ……濡れてはダメよ……」
暗がりの中、必死に漁ります。
もう全身、生ゴミやらなにやらの匂いで酷いものです。
見つけたい、絶対にアルドーレ様を助けたい。
必死になって探す私の元へやってきたのは、まぎれもなくアルドーレ様でした。
「何をしているだ、カナリア!」
ああ。こんな姿見られたくなかったから、秘密にしておいたのに……。
「どうしてここが……」
「君はここ一週間、ずっとこの場所を気にしていただろう? まさかと思って来たんだ」
「どうしてそれを知っているんですの?」
「ずっと、君を見ていたからだ! 君の些細な変化に気づくくらいに、君を見ていた!」
一瞬、時が止まりました。
いま、なんと?
いいえ、私の思い違いですわ。
アルドーレ様は、傘を捨てて私と同じようにゴミ山の中に入ってきました。
「俺もやる。ここにソフィアの悪行の証拠があるんだろう?」
「王子ともあろう方が何を! すぐにお戻りください!!」
「断る。君だけが……いつだって、君だけが苦しい思いをしているじゃないか」
アルドーレ様は私を真っ直ぐに見つめ、悲しげな顔をします。
「君のことは調べた。どんな男を相手に婚約破棄をさせていたのか。調べれば、君のやろうとしていることなんてすぐに分かったよ」
「わ、私はただ……心美しい令嬢たちが泣く未来が耐えられなくて……」
「君の自己犠牲は、確かに美しい。だけど……もっと自分を大切にしてくれ。人のためなら虐められても構わないなんて、言わないでくれ」
ほろり、と雨に紛れて涙がこぼれました。
そうなんです。
私ずっと、苦しかったんです。
誰よりも令嬢方と仲良くしたいのに、令嬢のためとはいえ私が原因で泣く皆様を見るのが辛かったんです。
それでも、それでも人のためだと思って悪役を続けてきましたわ。
「俺が……俺が大切にしたいと思う女の子が苦しむ姿は耐えられない。せめてどうか、分けてくれ」
「アルドーレ様……」
「だから、俺も一緒に探していいかい?」
「……はい!」
私とアルドーレ様は、月が天井を超えてもメモの残骸を探し続けました。
そして夜明け……。
「ありましたわ!!」
「こっちもだ!」
ついに、メモが見つかりました。切れ端なんかではありません。
粉々になった一つ一つを拾い上げ、組み合わせれば一つのメモになるんです!
それが、五組も出来ました。
わあっと、私とアルドーレ様は思わず抱き合います。
「はは。お互いにゴミ臭くて敵わんな」
「ええ。すぐにお風呂に行きたいですわ」
「今日の昼、大広間で俺はソフィアに婚約破棄を申し込むつもりだ。君の仕事の集大成として、ぜひ見に来てくれ」
「はい。それを見守ってこそ、悪役令嬢のお仕事完了ですわ!」
私は興奮冷めやらぬままに身支度を整え、昼に備えました。
そして……ついに、アルドーレ様がソフィア様を呼び出します。
せっかくなので、二階の特等席から眺めることにしました。
「ソフィア。君に婚約破棄を申し込む」
「ど、どうしてですか? 何かアルドーレ様の気に障るようなことを?」
「これに、見覚えがあるだろう」
アルドーレ様は、テープで補強したメモをソフィア様に見せます。
ソフィア様は一瞬動揺した顔をしましたが、すぐに笑顔に戻りました。
「身に覚えがございませんわ」
「君の字だ。鑑定をすればすぐに分かる」
「誰かが私の文字を真似した。とも言えますわ」
「それは無い」
アルドーレ様は私を見上げます。
「カナリア」
「はい。もちろんありますわ」
私はこっそり撮影していた、ソフィア様が下駄箱にメモを入れる瞬間の写真をばら撒きます。
逃げ場を失ったソフィア様は、ワナワナと震えだしました。
「言い逃れはみっともないぞ、ソフィア」
「わ、私はただ……アルドーレ様に相応しい女性になろうとしただけで……」
「俺の心は変わらない。君との婚約は無しだ。父上にも俺が直接報告する」
ソフィア様は泣き崩れました。
そして、仲のいいお友達に支えられながら大広間を出ていきます。
私もスッキリとしました。
今日は授業をサボって寝ましょ。
帰ろうとした私に、アルドーレ様が声をかけます。
「カナリア」
「はい?」
「君に話がある」
「なんでしょう?」
もしかして、またあのカフェに連れて行ってくださるのかしら?
首を傾げる私の元まで来たアルドーレ様は、私の前で片膝を突きます。
「この二ヶ月、毎日君を見てきた。君は、噂されるような極悪令嬢なんかじゃない。誰よりも、人を思いやる心を持った子だ」
「そんな……私は……。それだけでは許されないことを数々してきましたわ……」
「自分の心を殺し、削ってだろう? 泣くまいと堪える君を、俺はもう見たくない。
君を、悪役令嬢から解放したい」
「……え?」
「誰よりも女性の幸せを願って人生を費やしてきた君へ……今度は俺が、君を幸せにしてあげたい」
これは……まさかまさか……婚約の申し込みですの!?
「カナリア。俺のフィアンセになってくれ」
ああ、私は悪役令嬢。
これは断らなければ……
あれ? 断る理由……どこにもありませんわ。
だって、私は……アルドーレ様のことが好きになったんですから。
思考と感情が合わさった瞬間、私は顔を覆って涙を流しました。
「悪役令嬢の私が幸せなんて……!」
「いいや。君はそんな存在じゃない。誰よりも幸せになるべき、一人の美しい女性だ」
「私で、いいんですか……」
「君がいい。君じゃないと嫌だ」
私はアルドーレ様から差し出された手を取ります。
その瞬間、アルドーレ様は私を抱き抱えました。
「きゃ!」
全身がアルドーレ様に包まれ……顔がどんどん赤くなります。
そんな私を見たアルドーレ様は、ニヤリと笑いました。
「さあ。これからはこれくらいで照れてもらっちゃ困るよ」
「ひ、ひ、酷いですわ!! 私はこんなこと、誰にもされたことありませんのに!」
「ああ。これから君が味わう全ての初めては、俺のものだ」
学園がひっくり返るほどの婚約でした。
それはそれは、私の両親も泡を吹いて倒れるくらいには。
私の名前はカナリア・ディアーナ。
世界で一番の……幸せ者の悪役令嬢です!
fin
戦う悪役令嬢……かっこいい!
このお話、書くの本当に楽しかった~!
どうでしたか?
この作品が好き! 気に入った! カナリア、いい悪役令嬢人生送ったね!
と思った方は、ぜひブクマ、高評価や感想を入れていただけますと幸いです。
追記
日間ランキング81位!?
嬉しい!!嬉しすぎます!!応援本当にありがとうございます!!
もっと上にカナリアが羽ばたけるよう、よかったらこれからも応援よろしくお願いします!!
【宣伝】
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名前:志波咲良
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