足跡
空が赤かった。
それは、ちょっと不気味で、怖い感じがした。
少年は、うつむきながら歩いた。
誰かの足跡を踏まないように。
自分の足跡を残さないように。
いつも、うつむきながら歩いていた。
僕は、学生時代はずっと下を向いて生きてきた。
人の輪にも入れず、ひっそりと生きてきた。
社会人になると、そういうわけにはいかない。
「仕事」となると、色々な人と関わらなければならない。
「仕事」となると、ある程度は慣れてくる。
でも、根本的な部分は残っていて、未だに友達がひとりもいない。
休みの日は、一歩も外に出なくても平気。
ひとつ変わったことといえば、仕事で部下がいるようになったことぐらいだ。
ときどき、目を閉じて考える。
上司のあるべき姿を。
自分の中では決まっている。
それは、新入社員だった頃に初めてついた上司。
その人から、数えきれないくらいの事を教わり、助けてもらった。
いつも、うつむきながら歩いていた少年を、育ててくれた。
その人は、僕の心に大きな足跡を残してくれた。
それが、今の僕の原動力になっている。
責任と決断。
色々な人の下で仕事をしてきたけど。
やっぱり最初の上司が忘れられない。
僕が仕事で大失敗したとき。
笑って僕の心に足跡を残してくれた。
そういうときこそ、上司のオレの出番だ。
これから殺されにいくような、そんな顔をするな。
ひとつ、大切なことを教えよう。
仕事の失敗で命をとられることはない。
どんなことでも、大体は謝れば済むから。
それを聞いたとき、本当に、目から鱗が落ちる事ってあるんだと思った。
あれからずいぶん月日が経った。
僕は、いつも考えている。
そして、何かを決断している。
チャレンジ精神を忘れないように。
自分の感性を大切に。
決断した以上は、その責任は全て僕がとる。
リスクと責任を自分が負うことで、次の世代が育つ。
たまに、責任が結構重いかもと感じるけれど。
そういうときにこそ、誰かにしっかりした足跡がつくと思うんだ。
人は加齢とともに、保身に走る傾向にある。
守るものが増えると、その一歩を踏み出す勇気が出ない事もある。
でも、それはきっと逆で。
誰かが責任を背負うことで、大切なものを守ることが出来るんだと思うんだ。
だって、みんな誰かが背中を押してくれるのを、待っているんじゃないかな。
空が赤かった。
それは、とても清々しく、懐かしいにおいがした。
僕は、前を向きながら歩いた。
誰かの足跡を踏みながら。
自分の足跡を残しながら。