8
コンコン
太陽の光も沈み始めたという頃、部室内に扉を叩く音が響いた。
「はーい……って、理事長ですか」
「……もう。そんな残念そうに私を迎えるのは、西城くんだけよ?」
残念だったわけではないのだが、たしかに「なーんだ理事長ですか」みたいに理事長を迎える人などいないだろう。
しかし理事長も怒っている風ではないので、少し笑ってごまかしておいた。
「秋川さんは?」
「用事があるとかで帰っちゃいましたよ」
「そう。由香ちゃんは?」
「今は寝ちゃってます」
「面倒見てもらって悪いわね」
「本当ですよ。ところで、結局僕たちは何をすればいいんですか?」
この際なので、はっきりと聞いておく。
「そうね……由香ちゃんのわがままに付き合ってもらう部活……かしらね」
なんだそれは。
「自分で付き合ってあげましょうよ」
「もちろんしてるわよ?でも、私も忙しいからいつでもっていうわけにはいかないじゃない?」
「施設に預ければいいじゃないですか」
「それはいやよ。手元に置いておきたいもの」
「つまり、理事長のわがままに付き合う部活ってことですね」
「……西城くん、面白いこと言うじゃない」
そう言う理事長は、まったく面白くなさそうな顔をしていた。
「やだなぁ……ちょっとした冗談じゃないですか……」
「ええ。本当に愉快な冗談だわ。気に入っちゃった」
なぜだろう?
理事長みたいな美人に気に入られたというのに、まったくうれしくない。
「明日からが楽しみね。うふふ」
理事長はぐっすり眠っている由香ちゃんを回収していくと、奇妙な笑い声を漏らしながら部室を去っていった。
面倒をかけられたのだから少しやり返してやろうと思ったのだが、どうやら更なる面倒事を呼び込んでしまったらしい。最悪だ。
「帰るか」
一人部室に取り残された僕も、帰りの支度を済ませる。
……明日は学校を休もうかな。