15
僕たちが保育部を始めてから数週間が経った頃、一つの事件が起こった。
集中力も落ちかけてくる三限目の授業中、突然校内放送が流れだしたのだ。
『一年B組西条優成。一年B組西条優成。至急事務室まで───』
教師とクラスメイト全員が僕を見る。
───ああ、この感覚も懐かしい。
なんて馬鹿なことを考えながら、僕は事務室へと向かっていった。
「さいじょー!」
事務室で僕を出迎えたのは、由香ちゃんだった。
「え?なんでここに由香ちゃんが?」
思わず疑問が口に出る。
そんな僕の疑問に答えたのは、事務員の人だった。
「裏庭の清掃をしていたら、由香ちゃんが迷子になっていたんですよ。話を聞いたら、西条くんを探していたみたいで……」
「僕を?」
「はい」
今までは授業中は部室でおとなしく待ってくれていたのだが、何の用事があったのだろうか?
それを聞くと、由香ちゃんは恥ずかしそうに理由を語った。
「あのね、ゆめこちゃんのね、ふぃぎゅあがほしいの」
「?」
由香ちゃんが何を言っているのか、何もわからなかった。
しかし、ここはこちらがくみ取ってあげなければならない。ここ数週間保育部をやってきた中で、学んできたことだ。
「ゆめこちゃんって、あの魔法少女のだよね?」
「うん!」
「もう持ってるでしょ?」
「あたらしいのがでるの!」
「なるほど……」
しかし、もちろん僕はそんなものを買えるほどのお金は持っていない。
「とりあえず、ママに聞いてみよっか?」
「やだー。ままはだめっていうもん」
なるほど。だから僕を頼ってきたわけか。
しかし、僕にどうしようもないということに変わりはないので、理事長に話をする必要はある。松原家の教育方針というものもあるだろう。
「とりあえず、部室に戻ろっか」
「うん」
由香ちゃんがここでぐずりだしてしまっては迷惑なので、ひとまず部室に退避することにする。
少なくとも、今日の午前の授業はもう受けられないだろう。