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プロローグ


 僕が三加北高校に入学して、約二か月が過ぎた。

 つい先週には中間テストがあり、最近はそのテスト返却でクラス内は大いに盛り上がっていた。


「次。西条―」


 順番通り、僕の名が呼ばれた。

 今回帰ってくる科目は、数学。自慢じゃないが、今回の中間テストはかなり力を入れて勉強した。

 数学に至っては、徹夜に徹夜を重ねたフルパワーだ。


「ま、頑張ったんじゃないか?」

「ありがとうございます!」


 答案返却と共に、お褒めの言葉が来る。しかも、相手は陰で鬼教師なんて呼ばれている数学の田中。

 きっと、100点とまではいかなくとも、80点や90点くらいは固いはずだ。

 そんな期待を込めて、点数を確認する。


 西条優成 43点。


「……」


 43点。言うまでもなく、100点中の43点だ。

 僕は頑張っても43点がっ限界程度の男ということだろうか。

 いや、絶対にこれは、あの悪魔のせいで───


「ああ、それとこれも」


 あまりの低スコアにショックを受けていると、田中先生から追加で一枚の紙きれを渡された。

 うなだれながらもそれを受け取ると、手に妙な質感が伝わった。どこかで触った覚えがあるような、ないような……

 改めてその紙きれを確認すると、そこには今の日本でもっとも人気といっても過言ではない人物───福沢諭吉大先生が描かれていた。


「今日は商店街だそうだ」

「……ありがとうございます」


 これっぽっちもそんなことは思っていないが、一応お礼を言っておく。

 田中先生は何も悪くないのだ。むしろ被害者といってもいい。

 ただし、田中先生の被害レベルを擦り傷とするなら僕の被害レベルは死傷だ。

 一万円を握りしめる僕を見て、クラスメイトたちがざわめく。


 いいなあ。ずるい。うらやましい。


 持っているのは一万円だというのに、そんな声はほとんど聞こえない。


 今日もか。お疲れさまだね。俺じゃなくてよかった。


 そんな声ばかりだ。

 一万円を受け取ったというのに、なぜこんなに同情されているのか?

 それは、この一万円が、悪魔の降臨を意味するものだからだ。


「さいじょーーー!」


 ああ、さっそく悪魔のお出ましだ。


「あそぼーーー!」


 その悪魔は、元気に叫びながら教室に乱入してくる。

 あの田中先生の授業でこんな狼藉を働くなんて、普通なら死刑になってもおかしくない。精神的な意味でだ。

 しかし、この悪魔だけは例外だった。


「西条。迷惑だから早く連れていきなさい」


 鬼だ!やっぱり田中先生は鬼だったんだ!


「さいじょー!はやくー!」


 僕は鬼と悪魔に押し出されるように、教室を出ていった。

 なぜこんなことが許されているのか?

 なぜ誰も注意をしないのか?

 それは、何を隠そう、この子が理事長の娘だからなのだった。



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