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未来へ向けて

エミル様を先頭に、私たちはコルタリア城へと向かっていた。民衆の目が届かなくなったところで、魔法を使い、一瞬にして大広間へと移動する。


ここは、先日パーティーが開かれた場所だ。幾何学模様が施された金の扉が私たちの後ろにそびえ立ち、ベルベットの絨毯が玉座まで続いている。

その先には、コルタリア王とお妃様、そしてお兄様方が伏し目がちに私たちを見つめていた。


私の体はアルベルト様の腕の中、人魚の姿のまま。今の状況では、逃げ出したくてもすぐに捕えられてしまうだろう。


「国王様の御前です。そろそろ下ろしていただけませんか?」


期待はしていなかったが、アルベルト様だけに聞こえるようにそっとささやいた。すると、返ってきたのは抱き上げる腕にさらに力が込められた感触。

こうなると彼は引かない。私はもう観念して、体を完全に預けることにした。


「え……」


アルベルト様の意外そうな声が漏れ、私を驚いた目で見つめる。その表情が少しおかしくて、張り詰めていた緊張が一気にほぐれた。

そして、気を取り直して前を向くと、いつの間にかコルタリア王たちは玉座から降り、深々と頭を下げていた。


「この度は本当にすまなかった」


王様の開口一番が謝罪の言葉だったことに驚いた。まさかこんなにもあっさりと謝られるとは思わず、私はアルベルト様と顔を見合わせる。

アルベルト様が一つ咳払いをして、静かに言葉を発した。


「コルタリア王、どうか顔を上げてください」


アルベルト様の声には感情がなく、きっと彼もまだ自分の感情をどう表現すればいいのか決めかねているのだろう。


「この国には魔力を持つ者が少ない。使える者がいても、その力はヴェルナードと比べればずっと弱い」


コルタリア王は目を細め、複雑な表情を浮かべた。

エミル様にとって祖父にあたるこの王は、全く魔力を持っていないと聞いている。もしかすると、地下室のことにも気づいていなかったのだろうか。


リアンの魔力は特殊で、水系統の魔力に敏感な人でなければ感じ取れない。それに加え、かなり強い魔力を持っていなければ、あのへそ曲がりな魔力を感じ取ることはできないはずだ。

私の考えが読まれたのかリアンが視線を向けてきたが、無視を決め込むことにした。


「王様は、お気づきではなかったのですね」


私がそう言うと、コルタリア王は一瞬エミル様を見つめ、何かを覚悟したように私に視線を戻した。


「正直に言おう。全く気付いていなかったわけではない。腐ってもこの国の王だ。エミルやユミルの不審な行動は知っていた」


王は小さく短いため息をつく。



「雨が降ったのじゃ」



その声はかすかに震え、瞳には涙がにじんでいた。


「やっと……やっとこの地に、雨が降ったのじゃ」


その言葉の重みが、王様の涙と共に伝わってきた。


「たった五日間降っただけでも、大地が潤い、小さな芽が顔を出したのだ。何十年も試みて枯れていたオアシスが、あっという間に甦った」


王の声はさらに震え、彼の両手は軽く震えていた。彼は目を閉じ、続けた。


「エミルとユミルが何をしていたのか、予想はついていた。しかし、私はそれを黙認してしまった。長年の干ばつに、この国の民は限界じゃった。国を支えるため、どうにか希望を与えたかったが、結果的には取り返しのつかないことをしてしまった……」


王様の言葉には、深い後悔がにじんでいる。決して王様一人の決断ではなかったのだろうが、それでも自らがその責任を背負おうとしているのが伝わってきた。


王様が苦しそうに目を伏せたまま言葉を続けようとしたその瞬間、アルベルト様が一歩前に進み、穏やかな声で言った。


「王様……ヴェルナードは、確かに恵まれています。魔法を使える者がおり、精霊たちが我々の国を好んで加護を与えてくれました。国民たちの努力もありましたが、それが運が良かったと言えば嘘にはなりません」


その言葉に、王様がゆっくりと顔を上げる。エミル様もまた、アルベルト様の言葉に驚いた表情を浮かべていた。


「我々は、その運に頼り過ぎていたのかもしれません。私たちが精霊たちに力を借り、人魚たちに守られて繁栄できたことを誇りに思う一方で、近隣の苦しみに深く寄り添うことができませんでした。そして、結果としてコルタリアに十分な支援を行えなかったこと……深くお詫び申し上げます」


アルベルト様は静かに、しかし力強く言葉を紡いだ。彼の目には、単なる後悔だけでなく、未来を見据えた強い決意が宿っていた。


「しかし、今からでも遅くはない。コルタリアとヴェルナードは共に手を取り合い、私はこの困難な時代を乗り越えていきたい。単なる支援者ではなく、共に未来を築く仲間として、新たな道を歩んでいきましょう」


王様は一瞬言葉に詰まり、再び涙を拭った。


「わしはどんな断罪でも受け入れる覚悟じゃ。ただ……どうか国民だけは守ってほしい。この国は、ヴェルナード王国への忠誠を誓おう」


その言葉と共に、大広間にはほのかな安堵の空気が流れた。コルタリアとヴェルナードの未来は、この瞬間、新たな一歩を踏み出したのだ。



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