雪だるまと人魚2
騒音と共に現れた雪の塊に人が続々と集まり始めた。
今日は国上げての祭の最終日。
1番盛り上がる日の祭の中心である城で雪の塊が落ちてきたのだ。
何かのイベントだと思った人が押し寄せる。
「マリ達の姿が見られるのはまずいな……」
アルベルト様が私やサラ様をさりげなく物陰に誘ってくれる。
確かに、この国では今まで人魚の目撃情報はなかったはずだから人魚の姿なんて見られたら大変なことに……。
「ねぇねぇママ、足がお魚の人がいるよー」
そう言って幼い男の子が私を指差す。
聞き慣れないその言葉と、男の子の声がよく響いてしまったこともあって一瞬にして私とサラ様に視線が集まった。
「あれは、人魚じゃないか」
「この国に人魚はいないはずじゃあ……」
ざわめきが大きくなり、私たちの行く手にも人だかりができ囲まれてしまった。
「あれ、あの赤い尾びれの人魚はどこかで見たことがあるような」
アルベルト様も下手に発言できず困っており、リアンはいつの間にか姿を消している。
アルベルト様と私、そしてサラ様を見ながら良からぬ憶測も飛び交いそうな時だった。
「道をあけろ! この3人はヴェルナード王国からの客人だ」
高らかな声のした方を見れば、人垣が避け人1人通れる道が出来上がっていた。
その道の先には、日に照らされて煌めく金の髪を持つ長身の男性がいる。
早足にこちらへ向かってくる彼の後ろに、同じ髪色をなびかせながらピタリと離れず付いてくる人影が見えた。
「マリ、良かった……。 本当に」
「ルナ様……!」
エミル様の後からルナ様が飛び出すように私の手を握る。
今にも泣き出しそうな彼女に驚くと同時に、申し訳ない気持ちが生まれる。
氷の姫と呼ばれるルナ様がこんなに感情を見せるとは、本当に私のことを案じてくださっていたのだろう。
「心配をおかけしました、色々ありましたが見ての通り私は元気です!」
ふふ、と微笑むと隣にいるエミル様もほっとした顔をした。
「さて、話は後にしてとりあえずこの雪だるまをどうするか?」
「エミル様、わたくしに考えがありますわ。 この特別な雪を使えばもしかしたら……」
ルナ様が私からそっと手を離し、両手を雪の塊に向け何か呪文のようなものを唱えている。
小さくて聞こえないが、彼女の魔力が大きくなるのを感じた。
「参りますわ」
ルナ様の両手からは粉雪が舞い始め、雪の塊をあっという間に飲み込んでしまった。
周りからは歓声が上がり、真夏の太陽にも負けない雪がキラキラと反射してとても幻想的だ。
「なるほど、さすがルナだ」
エミル様は何かに気付いたようで、口元に笑みを浮かべる。
ルナ様渾身の魔法なのだろう私には到底真似ができない。
彼女は一仕事を終えたように深く息をはくと出来上がった物を品定めするような目付きで見ている。
「ルナ、上出来だ! これでしばらくはコスタリアの水不足は解消されるだろう」
「良かったですわ」
一体何の話だろうか、今はもうこんなにも水が豊かな国になっているのに。
いや、それよりも前に突っ込むところが……。
雪の塊を包んでいた粉雪がゆっくりとなくなると、そこにあったのは先ほどの塊の倍はあるだろう雪だるまだった。
「ゆ、ゆきだるま? ただの雪だるまじゃないのは魔力で分かりますが」
「美しい雪の彫刻にしようと思ったのですが、マリ様の魔力が強くこのような形になりましたわ。ここを捻るとほら水が出ますのよ。 以前、話してくださったでしょう? ジャグチというものはこういった使い方をするのですよね」
ルナ様は納得のいかない様子だが、この雪だるまの用途を簡単に説明してくれる。
どうやらこれは国民の為の飲み水や、生活用水になるらしい。
その話を聞いてやはり疑問が浮かぶ。
だってこの国はもう水不足で困ることなんてないなはずなのに。
「この国からは徐々に雨が失われていく、全ては私の……。」
腑に落ちない私にエミル様が何とも言えない表情で話しかけてきた。
「エミル、その話は後だ」
アルベルト様が珍しく強い口調でエミル様の言葉を遮る。
「そうだな、詳しい話は城で。 マリの顔色も悪い、すぐに移動しよう」
エミル様が私の頬に触れようとした寸前でアルベルト様が急に抱き上げてきたので、彼の手が私に届くことはなかった。
急なアルベルト様の行いに文句の1つでもと思ったが、あまりにも彼の表情が険しかったので大人しくすることに決め私たちはコルタリア城に向かったのだった。




