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祭りの裏側3


「マリ様、起きてマリ様ー!」


 私の名前を叫ぶ声でハッと目を開けると、先程遠くにあった湖の目の前にあった。

 透明度が高く風のほとんどない今、湖の中は数メートル先まで確認することができる。

 だいぶ深そうだ。


「いたっ……」


 ズキッと体に痛みが走り見れば、両手両足をキツく縄で締め上げられている。

 1人では立っていられない私の体を支えているのは、無表情のラルフだった。


 コルテは湖から離れたところで、武装した兵士達に捕まっており、涙で顔をぐしゃくじゃにしながら今でも私の名前を呼び続けている。


「自らここに来るなんて、本当に君は愚かだね」


 愉快そうにユミル様が笑う。

 その様子と状況から、私は今からこの湖に水乙女として投げ入れられるのだと悟る。


 この湖と城下町は走っても半日はかかるはずだ。

 簡単に来ることが出来たのは、きっとラルフが風魔法を使っていたのだろう。

 魔法に長けたラルフなら、私達に気付かせずに魔法をかけるくらい簡単なこと。

 

「ラルフ、何で……」


「……」


「誤解しないで欲しいが、仲間に入れて欲しいと言ってきたのは彼だからね」


 何も話そうとしないラルフに変わって、ユミル様が答える。

 言葉にならない私の反応を見ながら更に続けた。


「良く働いてくれるよ。 特にリアンを国に運び込む時には大活躍だったよね」


「ユミル様、それ以上は……」


 沈黙を貫いていたラルフがユミル様を止めようとするが、そんなことは気にせず話しは続く。


「ははっ。 ラルフ、君は本当に頑張っているよね25年間もアルベルトを騙し続けているんだから」


 ラルフが精霊王をコルタリアに?

 騙す?


 私の知っている、いつもアルベルト様を思い行動するラルフの姿とはかけ離れていて頭が追い付かない。


「あぁ、やっと言えたよ! ずっと誰かに言いたかったんだ」


 ユミル様が両手を広げ高笑いを始めた。


「はははは! さぁマリ、早く頼むよ」


 そう言うとユミル様はラルフに目配せをした。

 それに頷くとラルフは私を縛る縄を掴み、1度自分に引き寄せる。

 そして勢いをつけて私を湖の底へと突き落とした。


バッシャーン


 派手な水しぶきが上がり、打ち付けられた身体がズキッと傷んだ。

 まるで吸い込まれるように、私は湖の底へとずんずん沈んでいく。


 光が遠くなり始め上からはもう私の姿を確認できないことが分かると、私は身体を拘束していた縄を黙々とほどき始める。

 ユミル様に気付かれないよう、ラルフがいくつかの縄を切っておいてくれたのだ。

 更に彼は魔法で私の顔回りに空気を作ってくれたので、特に息苦しさもなかった。

 落ちる寸前、あの引き寄せられた時に息を吸えるようにすると言われ、私にも一応対策はあったが温存して彼の魔法に頼ることにした。


「ラルフ、一体どういうつもりなんだろう……」


 空気のおかげで話すことができるため、折角なので呟いてみる。


「ユミル様もサラが寂しくないようにって、どういうこと?」

 

「うーん、ユミルお兄様って変人だからね」


「確かに、ちょっと変わってるよね……っん?」


 静かな湖の中、私の呟きに返事が帰ってくる。

 少し驚いたが、どうせまた精霊かと思い声の方に目を向ければパッチリとした大きな黒い瞳と目が会う。


「まさかっ!」


「ふふふ、驚いた?」


 黒毛を高い位置で2つに結び、夕日色の瞳を持つ少女はクスクスと口に手を当てている。

 その雰囲気と顔つきがさっきまで会っていた2人によく似ていた。

 そして彼女の容姿は話しに聞いていたものと同じだった。


「もしかして、サラ様ですか?」


「うん、そうよ。 貴女は?」


「私はマリです」


「マリ、よろしくね」


 ハッキリと物怖じしない所は本当にエミル様そっくりだと感じた。

 ただ違うのは、ここが湖の底と言うことと、彼女の腰から下が魚のように鱗があり尾ひれがあること。


 深紅の鱗は、光りもないにもかかわらず美しく煌めいている。

 幻想的なその姿に言葉を失っていると、サラ様がまた笑い始めた。


「そんなに見とれて可笑しいわ、貴女だって私以上に素敵な尾ひれを持っているでしょ?」


 なんのことかと目をパチクリさせていると、サラ様が私の胸元にかかっている真珠のネックレスを指差した。

 母から貰ったものと、アルベルト様から預かっているものだ。

 言われて真珠に触れてみれば、ほんのりと温かい。


「だって真珠がマリを待っているもの。 ねぇ、ここに魔力を注いでみて?」


「これが私を待ってる? 何でそんなこと……」


「分かるのよ、だって貴女も私と同じ人魚だもの。 ふふ、ここって心地良いでしょ? 湖の底は特にリアン様の魔力で満ちてるのよ、だからほら見て」


 サラ様が今度は私の足元を指差すと、いつの間にか見慣れた自分の足はなくなり彼女と同じ尾びれがあった。

 真っ白な鱗に覆われた足だった所は、水の抵抗を感じず自由に動かすことができる。


「うそっ……」


 頭も心も追い付いつかず、ただただ自分の下半身を眺めるしかできない私を見てサラ様がクスクス笑っている。


「そんなに綺麗な白銀の鱗なのに、そんなにショックなの? 私の仲間がいたら怒り出すわよ、さぁさぁ真珠に魔力を……。」


 サラ様言葉に急かされて、感傷に浸る暇もなく真珠に魔力を込める。


 両手で真珠を包むと今までに感じたことのない魔力を2つから感じた。

 慎重にゆっくりと魔力を注いでいく。

 すると頭の中に次々と映像が流れ始めた。


「夢の中の男の子が……」


 繰り返し見る海の夢、そこに出てくる金髪の男の子を俯瞰ではなく自分の目線で見ている。

 男の子と無邪気に遊び、時には些細なことでケンカをしてとても仲が良いようだ。


 少しずつ音も加わってくる。


"アル、だいすき!"


 私の口から出た言葉に、男の子は赤面しながらも跪きそっと私の甲に唇を落とす。


"ぼくもだいすきだよ、マリーナ"


 にっこりと微笑むその姿は、幼いながらも王様の ようで……。

 違う、王子様なんだ。


「……思い出した」


 好きな時に人魚になれた私。

 内緒にしなければなかったのに、男の子に見つかってしまった。

 金の髪は王家の証。

 アルという男の子は王子でありながら、こっそりと城を抜け出しては私と一緒に海に潜っていた。


 楽しい日々が次々と甦ってくる。

 私が知っているよりも若い両親に、今よりも素朴なヴェルナードの城下町。

 海に入れば迎え入れてくれる人魚の仲間たち。


 楽しかった毎日だったが、突然終わりを迎えてしまった。




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