祭りの裏側2
城下町に来ると、昨日の雰囲気とは一変しどこもかしこもカップルだらけだった。
もちろん、それ意外の人々もいるが大半が桃色の空気を纏いながら歩く2人組だ。
町を歩く中、出店にもカップル向けのおまじないだや、お揃いの品物が売られているのがちらほら見える。
私たちの後ろを護衛の為に付いてきているコルテとナキさんも、先程からそういった商品を手に取りながらカップルを装っているがコルテに関しては本当に楽しそうだ。
コルテもエミル様が用意してくれた民族衣装に身を包んでおり、それを見たナキさんが動揺する姿を見て1番喜んだのは私かもしれない。
そして実はもう1人、私の隣を歩く人物がいる。
「ルナ様、その格好を王様は許されたのですか?」
「あら、許可を取る必要ありまして?」
大きく開いた谷間に、股下もギリギリなのではないか。女の私が見てもドキリとする。
光沢のある真紅の布地にはいくつものビジューが縫い付けられ白い肌が良く映えている。
エミル様の髪と同じ色の赤い宝石が太陽の光を含み煌めいていた。
「……だいぶ、攻めた服装ですね」
「こうでもしなければ、見てくださりませんもの」
そう話すルナ様は私の胸元に目線を向けた。
胸のサイズを気にしているようだが、華奢なルナ様の方が私は憧れる。
お互い無い物ねだりなのかもしれない。
城下町には私たち以上に大胆な格好の人々も多いのだが、身分を隠すため私たちがかぶった黒のカツラのせいでルナ様の色香が増してしまい、先程からスレ違う人が2度見をしている。
「はぁ~、眼福だな」
エミル様が私たちを両側に侍らし、下心満載で呟くと今すぐ回れ右して城に戻りたくなった。
「冗談だって! 帰ろうとするなよ」
城に向かおうとする私を慌ててエミル様は止めるが、それすらも楽しそうだ。
「次、変なことを言い出したら帰らせてもらいます」
「へいへい、ほら機嫌直せよ」
いつの間にか用意されたのか、彼の手には虹色のフワフワした綿のような物があった。
綿には棒が刺さっており、甘い香りも漂ってくる。
「……わたあめ」
「お、マリはこれを知ってるのか?」
意外な顔をしながら、私に虹色の綿あめをくれた。
口の中で一瞬でとろける感覚が懐かしく、しばらく味わっていると横でエミル様が笑っていることに気付く。
その視線の先は目をキラキラさせながら綿あめを食べているルナ様だった。
「甘いですわ」
ルナ様が1口ずつ大切に食べる様子を、愛しそうに見つめるエミル様。
こんな彼の表情を見るのは初めてで、私の中の認識が覆る。
エミル様はルナ様のことを避けていたように見えたが、本当は本意ではないのかもしれない。
それくらい彼のルナ様に向ける視線は優しかった。
「おいルナ、髪に付いてるぞ」
「あら」
ルナ様が食べている最中に髪に付けてしまった綿あめをそっとエミル様が取っている。
ただそれだけなのに美男美女がすると、それさえも美しい絵画の1場面のようだ。
そんな2人に癒されていると、見知った人影が狭い路地に入っていくのが見えた。
いつも私を叱る度に揺れていた少し癖のある栗色のマッシュショート。
見間違えるはずがない、アルベルト様やコルテと同じくらい一緒にいる時間が長かったのだから。
ラルフだ。
「あの私少し用事を思い出しまして、お先に城へ戻らせていただきます!」
「おい! 勝手に1人で動くな!」
エミル様が慌てて私の腕を掴み止めようとしたが、その手をスルリとかわし私は走り出す。
「大丈夫です! ここはまだ入口が近いですし、すぐに待機している馬車に着きます」
「ちょ、マリ様っ!?」
コルテがすぐさま私の後を追ってこようとする。
「コルテはルナ様の護衛も兼ねてるでしょ? 私は大丈夫、彼女についてあげて。 ナキさんとのデートも楽しんで」
「そんなことできません!」
「え?」
コルテはナキさんに短い言葉を告げると、そのまま私を追いかけてくる。
「ルナ様にはマリ様の何倍もの護衛が付いてますので、私はマリ様に付いて行きます!」
「コルテ……」
「何かあったんですね? この国に来てからマリ様の様子が変わったので心配していました」
コルテが私に追い付き、にっこりと微笑んでくれる。
いつも優しく労ってくれる彼女に目頭が熱くなってきたが、泣いてる場合ではない。
「さっき、ラルフが路地に入って行ったのを見たの。
私やルナ様の護衛と聞いてたんだけどめっきり姿を見なかったから、不思議に思って……」
実は昨日の地下室で精霊王の他に微かだが魔力が残っていた。
気のせいかと思っていたが、今ラルフを追いかけみて確信した。
この生命を育む温かい魔力は地下室と同じ土魔法のものだ。
「実はラルフはマリ様の護衛の他に、この国の偵察も任せれていたんです。 そのせいで中々会えなかったんじゃないでしょうか?」
久しぶりに全力で走り、話す余裕がなくなってきたが隣のコルテはまだまだ余裕だ。
「ヴェルナードに雨が消え、その代わりにコルタリアに雨が訪れたのは偶然ではないと王は考えています。 なので今回は内側から探れる絶好のチャンスなんです」
この世界に来たばかりの私さえ思うのだから、そう考る人は少なくないだろう。
以前アルベルト様から雨の降らない原因が分からないと聞いてる。
もう後に引けないヴェルナードは、今回の来日で何か掴むため優秀なラルフに任せているのだろうか。
そう考えれば納得がいくが、じゃあ何故ラルフの魔力が地下室に残っていたのだろうか。
もしかして、ラルフも何か掴んでいた?
私達が彼を追うことは仕事の邪魔になってしまうかもしれないが、どうしても先程見た表情が気になるのだ。
城でも時折そんな表情の彼を見かけた、今にも泣き出しそうな苦しそうなラルフの姿を。
「マリ様、ラルフの様子が変です。 まるで私達をどこかに誘い出すような……」
しばらく走っているがラルフに追い付くことはできず、付かず離れずの距離を保ってる。
それがコルテには異様に感じるようで、彼女は追うのを辞めようと持ち掛ける。
「そうだね、一旦止まって考えても良いかも」
そろそろ体力も限界に近く1度追うのを辞めようとした時、街路地が急に終わり目の前に緑が広がった。
「ここは……」
草原が広がる先には、視界に収まりきれない程の広い湖が太陽に照らされて水面がキラキラと光っている。
「罠です、今すぐここから逃げないと!」
隣にいるコルテが真っ青な顔をして私の手を取り来た道を振り返ったが既に遅く、道を塞ぐようにユミル様と兵が剣を構えていた。
「マリ様、逃げてください」
すかさずコルテも剣を抜き守るように私の前に立つ。
頭か追い付かない。
ラルフを追っていただけなのに、何故今ユミル様に追い詰められているのだろう。
「マリちゃん、素敵な格好だね~。 兄さん良い趣味してる」
ユミル様がうっとりした表情で、1歩また1歩と近付いてくる。
「早く逃げてください!! 水乙女になりたいんですか!?」
「マリちゃんが逃げたら、緑の髪が似合うこの子がなるけどね~。 ほらラルフも手伝ってよ」
ユミル様がそう言うと、武装する兵の中から軽装のラルフが姿を現した。
「ラルフなんで……」
「大人しく捕まっていてください」
ラルフが片手を上げれば、私とコルテの周りだけに息もできないほどの風が吹き荒れる。
私も魔法で対抗しようとしたか、手から出た水などすぐに吹き飛ばされてしまう。
コルテが空に向けて何か打ち上げていたのを最後に目の前が真っ暗になった。




