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その災害とは

モチベがなんか微妙に足りない


三章が長いのが悪い

ディアインの中腹へと少しずつ歩みを進める。子供の足跡は徐々に増え、複数の方向から合流したような跡すら見かけられた。


「あの洞窟ね」

「ええ、間違いありません」


苔むしたような洞窟。そこから発せられる恐ろしい気配が、魔力がルミナの肌を貫く。明らかに災害のような獣が存在する印だ。

それほどの気配や魔力が向けられて気づく、ルミナ以外の周囲には影響が全くないことに。災害獣が魔力を荒立てれば木々や地面に波風立つのが普通だ。が、ルミナだけに向けられたということが、狙いを付けられたと考え至らせるには十分だった。

そして気づいたことはもう一つ、あそこにいる災害は恐ろしく魔力制御に長けている。でなければ隣にいるドワーフの反応がおかしい。


「感知が反応しないですね」

「すごいビシビシと気配が突き刺さってるけど?」


やはりデルスには届いていなかったらしい。警戒は十分にしているものの、あたしに向けられた魔力に気づいていない。指向性が高くても魔力視が使えるあたしたちには気づかないということはあり得ない。健常であれば恐ろしく強い光を向けられて気づかない者はいないのだから。


それらが意味すること。それはやつがやったことは放つ魔力や気配を隠してあたしだけに向けたということだ。それも近衛であるデルスが気づかないほどの隠蔽技術を持っている。


「……私には何もないですね。魔力を向ける先を指定している?そんな風にはまるで見えないですが」

「多分魔力制御と隠蔽能力が高い。そうでないなら影響を受けさせない程実力差があるのか、それとも特性?」

「ガイードですか」


コクリと頷く。隠蔽技術がデルスが気づかないほど強力という可能性もある。だが同じ災害というカテゴリだから影響を受けるという可能性、それも十分にある。山程もある存在が蟻の存在を知っているのかという話だ。デルスはあくまで「災害と戦えるほど強いドワーフ」だ。「災害」ではない。


「あたし以外なら隠蔽に変わりないけどね」


隠蔽という意味では同じことだ。そもそも隠れるという行為は逃げるためか、不意をつくためかの二択のための行動だ。そして一人にしか敵意を向けない、気づかれないというのは敵味方問わずその一人以外からの不意打ちが成立する可能性が高まる。ならば本質的には同じことだ。


「災害を纏えるから敵対がそちらに向いている。あり得る話です」

「だったらあたしが囮扱いだね」


狙いを付けられたのはあたしだ。ならなぜあたしを狙ったのかという理由があるはずだ。いくら獣といえど、多少の知性があるなら襲うべき対象は選ぶのだから。

そして最も考えられるのは戦力の分析から脅威度を判定したことだろう。獣の本能からより恐怖を感じる者へ狙いをつける。非常に合理的なことだった。

であれば最も驚異的なのは誰か?答えは同じ災害であるガイードだ。ならばあたしへと狙いをつけるのは当然の流れだ。


ならばあたししか見えてない災害にはあたし以外から不意打ちを受けさせてやろう。囮とはそのためのものだ。


「ええ。なので私は魔力を隠して先頭になりましょう」

「なるほどね。あたしの方が力を隠さないで行けばデルスが不意打ちできる」


コクリと頷くデルス。

本来の囮という意味なら逆だ。あたしが先頭になり、戦闘をあたし一人で初め、隠れてデルスが不意打ちするのが正しいやり方だ。

だがデルスは近衛というドワーフ軍の高位軍人だ。魔力の隠蔽技術も当然高い。それなら一度力を抑えた状態で認識された方が不意は突きやすい。


「武器は展開しておいてください」

「当然ね」


ルミナはゼルを片手槌形態で展開した。デルスも武器を取り出す。長刀程の長さの、魔鉄で作られている棒だ。もちろんただの鉄の棒ではない。

ルミナのゼルやガイード同様に大量の魔鉄を圧縮させたものだ。とはいえそれら二つほど圧縮させてはいない。ドワーフが持つ魔術は圧縮魔術であり、星魔法ではないのだ。二つの大きな違いは、効率と規模だ。

災害そのものを、あらゆる物質を武器とすらできる星魔法に対し、圧縮魔術は同じ素材を使用し、規模も家や小屋程度という量だ。近衛クラスになれば魔力をつぎ込み城並みの量すら可能だが、同じ物質である必要があるのは変わらない。それゆえにどれだけいい素材であっても集められないため扱えないのだ。


デルスの持つ魔鉄棒は近衛が持つ武器として標準のものだ。それでも家一軒以上の魔鉄を圧縮しているものであり、武器としては最高峰のものだ。最硬や最高の鉱物とされるアダマンタイトやオリハルコンの数十倍は硬いだろう。さらにはデルス自身が圧縮しているからデルスが使う分には魔力効率も最大だ。


もっとも、武器の格という意味ならゼルの足元にも及ばないのだが。


「……感知、見つけました」


武器を使えば自身の手が広がるように魔力を扱える。精密性はほんの少しだけ落ちるが、素手での魔力感知の数倍は範囲が広がるのだ。

そしてデルスは感知したそれらを確認しホッとした顔をした後、苦々しい表情を浮かべて隠そうともしなかった。


「子供?」

「どちらも」


どちらも。ということはつまり探している者がすべて見つかったということだ。さらには苦々しい顔をしていることがデルスに災害が何なのか特定したことを示している。


「面倒な相手ですね。まず間違いなく子供が一人は助けられない」

「分かったの?」

「かつて、同じ災害獣と戦ったことがあります」


未だに苦々しい顔を隠そうともしない。それだけで洞窟にいる災害獣がとんでもなく厄介なものなのだと理解できる。

しかもかつて戦ったことがあるときた。戦ったことがあり、苦々しい表情を浮かべるなら苦戦したのだと言っているようなものだ。

ゴクリとのどを鳴らし、デルスの言葉に集中する。


「当時戦った高位軍人が一人死んだ戦いです。実体がなく、討伐が困難というタイプであり、高位軍人が囮となり自身に憑依させ、撃滅しました。今回は子供一人が犠牲になってもらいます」


憑依させ、撃滅する。心当たりが……否、実体験がある。それも憑依して、撃滅させられかけた方として。


それはまだあたしが魂喰らいとすらなっていなかった頃の記憶。死にたくない、あたしを返セ、たったそれだけの本能で動いていた頃のもの。

ルーナが土人形を用意し、あたしがそこに憑依し、破壊させられた。あたしがルーナと一体化していたから助かったものの、そうでなかったらここにはいない出来事だ。


まさか、あり得ない。違う可能性もある。似た種族なら他にも多くいるのだから。そう思考しつつも、恐る恐る震える唇から疑問を口に出す。


「な、名前って分かる?」


洞窟を注視し、警戒しているだけの表情に戻ったデルスはその種族を告げた。


「魂を喰らう災害。かつての個体名はディザイアと呼ばれてました」


あたしと同じ―魂喰らい、その災害獣であると。

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