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繋がる可能性

もうじき一年かー

「この辺りで休憩しましょう」


ルミナとデルスは30分ほど走り、ディアインの麓から少しだけ離れた場所まで移動してきた。周囲は平原であり、整備された道はない。道なき道だったが高位軍人程にもなれば強化した身体と速度で直進できる。岩山や森といった障害物さえなければだが、今回は平原のみだったため問題はなかった。


ディアインまで200m程だが、ここまで近づいてルミナがようやく気づいた。魂がざわつくような感覚がすることに。


「あたしが……いる」


ぼんやりとした目をしながらディアインの方角を見つめるルミナ。その様子を訝し気な表情をしながらデルスは心配を声に出した。


「……ルミナ?」


その言葉にハッとする。今が休憩中だったから良かったようなものの、戦闘中だったら致命的なものだっただろう。

デルスに大丈夫と一言告げ、ルミナは眉をひそめた。それだけではデルスに詳細は伝えられないと分かっているが、警戒心を高めたことくらいは伝わるからだ。


「デルス。今回の戦い、甘く見ない方がいいわ」

「分かってますよそんなこと。災害獣はどいつもこいつも危険なんですから」


デルスは災害獣と戦ったことがあるから分かるだろう。が、それは通常の災害獣だったらの話だ。

今回、あたしの魂がざわつくということは取り戻すべきものが奪われている可能性が高い。であればガイードの時のように、劇的に強くなっていてもおかしくはない。


気になるのは魂がざわつくと言っても、そこまでだけということだ。ガイードの時のように渇望するような感覚はない。あたし自身が変わったということはあるかもしれないが、かつて起きた返セという自らも塗りつぶす程の激情に今のあたしが耐えられるとは到底思えない。


激情が起きないなら、返セという渇望においてそこまで重要なものではないとも考えられる。あたしなのかもしれないが、そこまであたしではないのだろう。


「何か感じ取りましたか」

「あたしの魂が、少しだけあそこにいるかもって」


その言葉にデルスは表情を暗くする。デルスからすればドワーフの王と共に戦えるほどの猛者が気にかけた災害がいると言っているようなものなのだ。実力を考えたくないのも当然だった。


「……ルーナの関係者だと?」

「ううん、多分違う。あたしの関係者だとは思うけど」


デルスの暗くなった表情が多少は和らぐ。ルーナの関係者であるかどうかというのをはっきりさせておかなければ、とんでもない実力者に当たりかねない。それが明らかに勝てない災害だとしたら戦うという選択肢はないのだ。

コクリとデルスは頷き、一つだけ口に出してディアインの方角へと顔を向けた。


「警戒をさらに高めておきましょう」

「それがいいと思う」


休憩は終わりだと二人は立ち上がり、ディアインへと歩を進める。ディアインの周囲は森となっており、その中に山があるという、よくある地形だ。もっともそういう地形であればあるほど自然に形成されているのか、災害獣が過ごしやすいためにそういう風に改造したのかは定かではなくなるのだが。


そんな森の中を感知で警戒しながら進んでいると、デルスが何かを見つけた。魔力的な反応ではない、注意深く道を進んでいたから気づけたことだ。


「ルミナ、予想は当たりですね」

「ん?……ああ、足跡」


そこにあったのは子供の足跡。それも一つや二つではない数が、ディアインの中腹へと続いている。まるで道を作るかのようなそれは、二人を目的地まで案内するかのようだ。

足跡の方向へと五感を強化して聞き入ると、確かに子供のような声が聞こえる。場所は間違っていなかったようだ。それどころか死んだとすら思っていた子供が生きている可能性すら出てきた。


「追う?」

「ええ。助けられるなら助けますよ。カティナにも悪いですし」


デルスの言う通り、助けられるなら助けたい。人質扱いされたり被害に巻き込まれたならどうしようもないが、一方的に倒せるなら助けられる可能性はある。

だが別の可能性もある。子供を餌扱いとしておびき寄せているという可能性だ。ルミナはキグンマイマイという罠にかかったことから、そこについての警戒はかなり高くなっていた。


「罠の可能性は?」

「ないでしょう。子供を必要とするということは少なくとも図体が巨大なタイプじゃない。かといって罠を張るならもっと巧妙なものでなければ災害と呼ぶに値しない」


確かにキグンマイマイは巧妙だった。少しずつ魔力を奪うというものだったが、奪い方というものはしっかりしていた。本人に気づかないレベルで、認識レベルも体調不良程度に落としていたのだから。

それに対して今回は露骨に分かりやすい跡がある。それ自体が罠という可能性はおそらく考えられないが、狙いが子供という弱者だ。その後に強者を引き寄せることを前提とするのは余程の自身があると言える。

が、それは近隣に赤い羽根の存在があるという前提が無かったらの話だ。まず間違いなく殺される可能性がある者を引き寄せるというのはいくら災害獣と言ってもあり得ないことだ。


つまり、ディアインにいる災害獣はもっと特殊なタイプなのだろう。子供が大人を呼び寄せる餌ではなく、必要だから狙っているのだ。


「デルスは心当たりあったりしない?」

「ありますが……多すぎます。ドワーフ軍の私が関わった事例だけでも数件。歴史に見れば数十はあります」


それもそうかと頷く。災害獣は多種多様だ、一体であることもあれば群体であることもある。罠を仕掛けるやつもいれば正々堂々と戦うやつもいる。実体があることもあればないこともあるだろう。そのどれも体験してきたドワーフ軍からすればまだ判断がつかないといったところだろうか。


だがそこは近衛として何かしらヒントくらいは欲しいところだ。こちらにルーナの知識があるとはいえ戦力や年齢としては劣るのだから。


「共通点とかは?」

「現状予想から多い事例、という意味なら一つだけ」


ゴクリと息を吞む。災害獣が特定できるなら戦い方が変わる。ゼルへの願いも変わってくるだろう。

そうして戦いという方向へ思考がいっていたルミナには、出てきたデルスの言葉が不意打ち気味に胸に突き刺さった。


「ゴーストやレイスといった、厄介な上位種で言えば魂喰らいや精食貪邪のような、非物質系の災害獣です」


出てきた言葉は思わずかがみたくなるほど衝撃的な情報。相対する災害獣はルミナと同じ種族の災害獣であり、ルミナはなんとも言えない感情が湧き上がるのだった。

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