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誘惑と不穏な空

うーん、三章に内容詰め過ぎた


1章10万文字くらいのペースだったつもりなのに超えるなこれ

「ガイード、詳細探知をディアインの方角へ」

「まったく、何でこんな強引に出ていくことにしたのですか?」

「いい加減正気に戻ったら?」


ミグアからガイードを通じてデルスについて連絡が飛んできていた。なんでもデルスには恋人がいないから周りが恋人だらけになってキレかけたとのこと。

正直なところ、近衛であるデルスがそんなことになるとは到底考えられない。ルーナの知識にもあったが、近衛とはそのようなレベルのものが成れる階級ではない。


「私は正気……いえ、違いますね」

「……何かされてたの?」


あの場にはシアやローズがいた。特にシアは制御できない力だから制御するためにここにいるのだと言っていた。それが漏れ出していたとしてもおかしくはない。

無意識下でなら害意がない魔力だと認識するからなおさらだ。魔力感知できるかと言われれば、デルスどころか魔力制御を極めたルーナですら怪しいだろう。


「おそらくですが、正気だと誤認させる狂気……いえ、誘惑の魔力ですね。正気だと本人は思っていてもその実は正気でない。さらに本人のギリギリ正気だと認識できるレベルへ誘惑しているようです」


なるほど、非常に厄介な魔力だ。本人がこういう行為をするだろうという理性ギリギリ状態を正気状態と誤認させる。喰らい続ければ別人のようになっていても納得できるものだ。

言い換えると一回目くらいは本人の気性としてあり得る範囲の誘惑状態とも言える。デルスが喧嘩腰になりやすいことが分かったのはある意味収穫だったかもしれない。


それはそれとして、デルスがそうなった原因についてだ。と言っても既に予想はついている。

あの場にいた者から魔力を当てられたと考えるのが妥当であり、おおよそ考えられる人物は一人しかない。


「本人の気性で一番荒ぶるところを正気と認識させる魔力ね。可能性としては……シアね?」

「それしかないでしょう、制御できないと言ってましたし。心当たりがあるのでは?」


鋭い眼光であたしへと視線を向けるデルス。そんなこと言われても、と思っていたところで昨日のミグアが頭に浮かんだ。

まるで嫉妬しているような様子。ゼルで正気に戻れと叩いたら治った姿。まさに今回のことと同じだ。


さらに心当たりはもう一つある。記憶がないという意味なら昨日の宿でチェックインしたあたしもだ。デルスの様子を見るに記憶がなくなるわけではなさそうだが、あたしの場合はルーナとガイードがいる。勝手に身体を彼らに扱われていたならおかしなところはない。


悩み込むルミナを横目にデルスは対処方法を口に出す。さっきまでのイラついた様子の姿は既に無く、いつも通りの近衛デルスになっていた。


「やはり無警戒は止めておいた方が良さそうですね。今回は交渉でしたから感知や身体強化はしてませんでしたが、次会うときから感知くらいはしておきましょう」

「そうね。ローズが襲ってこないことを祈るだけだけど」


シアとローズは恋人だ。シアを警戒するということはシアとローズへ敵対意思を持っていると認識されかねない。そうなれば起きるのはローズという災害との戦いと、その余波での町の崩壊だ。

一瞬だけ面倒そうな顔をしてデルスは身体強化の魔術を展開していく。ルミナに分かるように展開しているのは、これから移動するという意思表示に他ならない。


「次に話す時に直接ぶつけるしかないでしょう。お前の魔力を警戒するために魔術を使う、と。人通りが少なくなってきてますから、この辺りから加速しますよ」

「本来なら交渉というより信頼関係の話なのだけれど……如何せん時間がない」


シアたちへの対処を決定し、ルミナもデルス同様に身体強化の魔術を展開する。既に数分は移動した後であり、人通りは少なくなってきている。これなら身体強化して移動を始めても大した被害は発生しない。


あとは移動先だ。探知するよう言っておいたガイードが道案内できる。ついで探知したら距離も分かるため移動時間も分かる。


(ガイード、ディアインまでどれくらいかかる?)

(移動レベルの身体強化なら30から40分といったところか。全力強化なら3分とかからん)


コルドークから少し離れた山、といったところか。カティナの言っていたことと食い違いもない。


「身体強化が移動レベルなら30分くらいだって」

「急ぎではありますが、相手は災害獣です。こちらが万全でなければいけませんから、到着手前に休憩を入れてから入りましょう」

「分かった」


相手は災害獣なのだ。これまで戦ってきたガイカルドやキグンマイマイと同程度かもしれない。そうであればかつてキグンマイマイの一部にすら負けたあたしは手も足も出ないかもしれない。


だがかつて負けた時はあたしは赤ん坊のようなレベルだった。それが大人と同等程度まで成長しているのであれば、戦いになるはずだ。何より災害獣と戦ったことのあるデルスが太鼓判を押すくらいなのだ。戦えないわけがない。


「行きますよ」

「ええ」


不安はある。だがこれまでのように一人ではない。敵対した災害を破壊してきたルーナ、護る災害ガイードもいる。さらにはそのルーナが強さを保証するデルスさえもいるのだ。


それらの事実が足の震えを止めさせる。それどころか力がみなぎってくるようにさえ感じられた。魔力が全身に込められる。教わった身体強化の魔術に加え、元より鍛え続けている魔力だけで身体強化を行う技法がルミナの全身を覆う。


向かう先へと目を向ける。雲が増え、不吉さを示すような空模様へと変わっていっている。その空がディアインから来ているのはルミナだけは感覚的に理解できた。

ルミナの感覚は明らかに魔術的なものではなかった。魔力というより―魂の繋がり。それが意味するのは一つだけだが、この時のルミナには理解できなかった。


「っ!」


大地を駆け走り始める。向かう先の不吉さを感じ取りながらそれを振り払うように。


……ルミナが感じ取ったのはそれだけではなかった。不吉さが襲ってきているというのに心地いい。魂でもなく、自分自身が悦楽の叫びを上げかねないほどに。

そんな碌でもない感覚がしてしまうルミナは、背筋に一筋の汗を流していたのだった。

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