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残念近衛

PCは戻ったけどモチベが戻らん。どんどんストックが切れていく

カティナの方へと顔を向ける。こちらに話が脱線したが、本来は二人への対応戦力をどうするのかという話だ。そこにあたしが関わるのは指示でもなければやる気はない。むしろさっさと赤い羽根のところ行こうと言い出す側なのだから。


「ん、分かった。カティナ、シアとローズはどうするの?」

「……私とディーエが監視に回ります。ミグアさんも残ってください。デルスとルミナさんがディアインに向かってください」


カティナの指示は間違っていない。ドワーフ軍のルールにしたがって二人以上の行動に、それも最大戦力を向けて解決を行う。

敵対するであろう災害獣はあたしとデルスで対処できないなら王様が出てこないといけない程だ。ともなれば最も生きて帰れるであろう戦力を差し向けるのは当然だろう。


ミグアは……ガイード装備のあたしやデルスと比べると戦力的に見劣りするのは仕方ない。ミグアの強さはディーエには勝てるが、カティナには分からないくらいなのだから。残していくのは心苦しいが、最悪を避けるためなのだと自分に言い聞かせる。


「私は嫌、ルミナと」

「ミグア」


嫌だと我が儘を言うミグアに優しい目を向ける。ミグアなら分かってくれるという視線を向け、感情だけがガイードを通してミグアへと届いていく。

そうは見えないが、ムスッと様子をしながらもミグアは納得してくれたようだ。


「……分かった」


そんな二人の様子を見ながらローズはカティナの狙いを読んでいた。ローズは力が制御できないシアとは違い、完全に災害の力を支配下に置いている。そしてシアを守らなければならないため、戦うということに思考を割くのは当たり前のことだった。


「最大戦力をさっさとぶつけて解決したいってところかしら?こちらとしてもさっさと赤い羽根のところに行きたいから助かるわ」

「私たちとしてもあなた達と一緒にいると戦力拮抗して危険なので離れたいところです」


デルスが挑発するようにローズの言葉に反応する。いや、挑発どころか喧嘩してもおかしくないくらいに魔力が漏れている。

それは高位軍人、それも近衛という力の持ち主からすればあり得ない選択肢。カティナはそれをどこか呆れた顔で眺めていた。それもまるで慣れているといった様子で。


高位軍人ほどにもなれば魔力の制御は余程のことがなければ完璧である。自身から魔力を漏らすという真似は子供のような行為であり、それを高位軍人のように力を持つ者たちがするということは―


「デルスだけでしょう……。そんなに喧嘩腰なのは止めてほしいところなのだけど?」

「頭の片隅には置いておきましょう」


―挑発である。カティナの話なんて聞く気もないと分かりやすく態度で示すデルス。そんな様子を見せつけられたローズは何故か無性に腹が立っていた。頭に血が上りやすいというわけではないローズだが、明白なまでに挑発されて乗らないタイプではなかった。


少なくとも今ここで軽い殴り合いくらいならすぐにでもやってやるというくらいには。


「ふふふ、私たちもデルスって言ったっけ?あんただけは何か嫌いね。受け付けない感覚がするわ」


ローズから魔力が少しずつ漏れ出す。感情に乗せてわざと流しているのだ。お前の喧嘩に乗ってやるという意思の示し方であり、さっきまでのデルスと同じだった。


「それならここで」

「あーもう、さっさとディアイン行って解決してくるよ!」


今にも喧嘩を引き起こしそうなデルスの腕を引っ張って出ていく。デルスが喧嘩腰と言っても身体強化をまだしていなかったのが幸いし、既に身体強化を終えていたルミナの力に逆らえず連れ出されていった。



残された三人は何をやってるんだという顔をして宿の出口を見つめていた。さっきまでの近衛がいつもとはまるで別人のようにすら見えたのだ。

特にディーエは信じられなかった。近衛というのはドワーフ軍の最上位に位置する存在であり、そこらのごろつきみたいに喧嘩を吹っ掛けるようなことをするなど到底考えられないことだったのだから。


「何でデルス近衛はあんなに嫌ってるんですかね?」


幸いにもここには聞ける人材がいた。ディーエの疑問を解決してくれるデルスの元同期という存在が。


「感覚では分かるかも。カティナなら分かる?」


そして先入観がないミグアはその五感で察していた。マイマイの特徴ではない、ミグアという特異個体の特徴だ。いくつもの社会を超えて生きたマイマイであるミグアは機敏の察知は得意なのだ。

但し、それはマイマイである以上五感での「なんとなく分かる」くらいのレベルに留まる。感情は分かってもどういったことから来ているかは分からないのだ。


ミグアの言葉にカティナは言いづらそうな顔をしてシアとローズに声をかける。


「その……お二人は恋人ですよね?」

「ええ」「はい」


確認を一つとり、それが何か問題あるのかという顔をする二人にカティナは詳しくは知らないと言いたそうな口調で言葉にした。


「デルス近衛は性格があれなせいで恋人できたことないので、その辺じゃないですかね?」

「「あー……」」


多分そうかもしれないと言いたい割には確信を持っているような声色。カティナがデルスの同期だとディーエは知っているがために、それが事実なのだと分かってしまう。


「理性がかなり強いので、意識下では出ない。無意識下レベルの魔力波長くらいでしか分からないですけど」


さらにはもっと詳しい情報までカティナから流れてくる。そこまで話しているとカティナがデルスにけっとばすような態度をしていたのがディーエにはようやく分かってきた。

そのイライラの原因がきっと昔っからこんな場面に合ってきたのだなと、悟れるくらいには。


「制御能力が高い者にはそれも分かってしまう、と。分かりやすい男だったのね……」


ローズが哀れんだ顔をして宿の入口を見つめる。シアもまた同様の様子をしていた。

そしてはぁと溜息をついたディーエがハッと気づく。恋人ができたことがないのはデルスだが、カティナがそれにめんどくさそうにするということは……カティナには相手がいるということになる。


「え、待ってください。カティナさんは?」


思わずカティナの方へとディーエは身体ごと向きを変える。

高位軍人は軍人の花形と言ってもいい。ゆえに恋人や妻、愛人を作ることなど当然なのだが、3~4割程度は全くできない性格の者ばかりだ。ディーエもそれに該当する。

そして左遷されるような軍人はそういった人材であることが多い。ディーエはカティナもそうなのかと勝手に思い込んでいた。


「あれ、言ってなかったかしら?私旦那いるわよ」

「ええええええええええええ!?」


そもそもカティナは左遷ではなく引退からの派遣である。そしてディーエは知ることはなかったが、カティナが引退した理由の最も大きなものは……夫への一目惚れだったりする。


ミグアが不思議そうな顔をしてディーエの顔を覗き込む。ミグアにはディーエが何で分からなかったのかが分からなかったのだ。


「ディーエ知らなかった?」

「ミグアさんは何で知ってるの?」

「これでも五感は強い方」


魔術や魔力抜きの身体能力だけで言えばディーエどころかデルスよりか上であるミグアからすれば、匂いから予想するなど造作もない。カティナがカティナ以外に何か強い匂いをしていると知っていれば誰でも予想がつくことだった。


「流石ね……」


カティナも話だけは聞いていたため、ミグアの恐ろしさが分かる。ミグアがマイマイであることも聞いていた。が、まさかこんなところでその能力が測れるとは予想もしていなかった。


そんな馬鹿みたいな様子を横目に、シアとローズは困ったような表情をしていた。カティナらの監視はあくまで二人が自衛のための戦闘を行った場合の話なのだ。つまりは既に自由に動いてもいいのだが、さっきまでいたデルスの態度の起因が自分たちだと言われて無視するのもどうかと悩んでいた。


「ねぇ、これ私たちどうしたらいいのかしら?」

「さぁ?惚気話でもしてればいいんじゃない?」


結果、デルスが最も嫌がるであろうことをやっておくことにした。どうせこの場にいる面子で惚気話ずっとしたとしてもダメージ受けそうなのはディーエくらいなのだ。それなら問題ないと言わんばかりに二人は周りそっちのけにイチャイチャし始めた。


ディーエはその様子を見せつけられてデルスがなぜ怒ったのかを理解できてしまったのだった。それがデルスのようになる道を歩んでいると分かっていても。

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