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寝坊?

やりたいことが多くてこっちが蔑ろになってる感が最近ある

「ルミナ、起きて」

「んんん……いや。あと少しだけ」

「正午までもう一時間切ってる」

「嘘でしょ!?」


ミグアの言葉にベッドから跳ぶように起きる。窓から外を見てみればもう太陽が上がっており、暖かそうな日差しが差し込んでいる。

デルスとディーエは既に部屋から居なくなっており、いるのはミグアだけだった。


「もう少し遅かったらデルスに言おうかと」

「ありがと、ミグア。起きたから。起きたからその魔術を止めて」


目を向けてみたらミグアがデルスに向けて通信魔術を起動させようとしていた。このタイミングで起きたのはギリギリだった。遅かったらデルスがやってきて叩き起こされるところだった。


ミグアなら何のお咎めもないけど、デルスだと訓練に来なくていいとか平気でできるから後々困ることになる。やっかいになっている以上、問題を起こさないことが大事なのだ。


「場所は領主館でいいんっだっけ?」

「今から行けば何かしら指示があるかも。ないなら通信魔術が飛んでくる」

「それじゃ向かいましょうか」


一階に降り、昼飯前に近いため閑散としている受付に移動する。受付には酒の入った箱をせっせと運ぶシアの姿があった。ローズは……買い物だろうか?


「ねぇ、シアさん。明日もここ泊まるかもしれないんだけど、予約って大丈夫?」

「あ、えっと……ルミナさんですね。大丈夫ですよ、ご利用ありがとうございます!」


シアは持っている箱を下ろし、受付のメモを取り出してあたしの名前を確認する。宿屋なのだから名前は受付で書いていたはずなのだが……何故か思い出せない。

というか何故受付に書いたのがあたし?デルスが代表扱いじゃなかったの?


「ミグア、昨日受付に書いたやつって誰だっけ?」

「ルミナが書いた。……あれ?違う?」


ミグアも頭を傾げている。あたしが疑問にしたことでミグア自身も本当にそうだったのか分からなくなってしまったようだ。

まぁ……昨日は疲れていたし覚えてないというだけの話だろう。マイマイであるミグアは忘れているのではなくあたしの言葉に振り回されているだけだし。

今日も明日もこの宿を使うなら一言断りを言っておかないと。


「シアさん。今日の夜にルミナでお願い」

「はい。今日と同じ部屋でいいですか?」

「ええ、それでいいわ」

「ローズにも言っておきます。二階の奥の部屋は空けておくようにって」

「ありがとう」


予約もしたので領主館へと向かう。そこに行けばデルス達がいるはずだ。


「うーん?ルミナ……だったかなぁ…?」

「あたしが忘れてるだけでしょ。ミグアもそんなに悩まなくてもいいよ」

「うぅん……うん、分かった」


歩きながらあたしの言葉に悩んでいるミグアの頭を撫でる。そんなに悩まなくていいのだと、ちょっとした勘違いだからと言い聞かせるように。

知り合いに見られたら嫌だなぁと五感を強化して周囲を感知する。魔力感知ではないのは災害獣クラスの力の持ち主を刺激しないためだ。


しかしその感知には何かしらが注視している視線が引っ掛かった。


「っ?」


ゆっくりと視線の向けられていたであろう背後へ振り返る。ローズの宿の前は人だかりの増えてきている通りだ、誰かの勘違いということもある。

振り返っても誰かが見てるような気配はない。せいぜい蝶が一匹ひらひらと飛んでいるだけだ。


「気のせい?」


五感感知は万能ではない。あくまで五感を強化して疑似的に周囲の情報を取得できるだけだ。音の反射から何処に何があるのかの物質の情報や、匂いからどこで何が起きているかを察するといったことで分かるのは物理的な情報だけであり、魔力的な情報は得られない。

仮に魔力的生物なら見つけられないし、違和感にすら思えない。魔力感知と併用することで真価を発する魔術なのだ。


「ルミナ?」

「あ、ごめん。何だっけ?」


ミグアの言葉を聞き流しながら向けられた視線の方へ感知を集中させる。だが何も感じられない。既に逃げられたのだろうか?


「ガイードを通せば私にも伝わるから」

「……うん?」

「心配事あるなら、言って」


ミグアは険しい顔をしていたあたしに気を使っていたらしい。

領主館へ向かうあたし、宿を出てミグアの頭を撫でるあたし、いきなり険しい顔を始めたあたし、これを客観的に見ると……どうなるの?


(悩んでいたミグアを励ましながらもルミナ自身も覚悟を決めている、と。心配になってもおかしくはないな)


ガイードがどうなるかを教えてくれた。というかガイードはミグアと繋がってるんだから客観的に見なくても分かるでしょうに。そうやって教えるのはミグアの精神的によくないと思うから止めた方がいいのだけれど。


(ミグアの心を読むのは止めて)

(善処しよう)


全然信用できない返事が返ってきた。ガイードらしいけど、絶対止めるつもりはないというのが透けて見える。

ただ……ミグアがあたしに隠し事をしたとしても、あたしに危害を加えるような真似をするとは思えない。そう考えるとガイードが心を読んでも意味が無いとも言える。

結局のところ、ガイードもミグアも好きにするのが一番いいのだろう。あたしだけが振り回されるような形になるけれど、この二人があたしの敵になることはないのだし。


「ごめんね、ミグア。心配事ってわけじゃなくて。これは……そう、これから戦うかもしれないから緊張してるだけ」

「ホント?無理してない?」

「ミグアは心配性ね!」


今度はぐしゃぐしゃと髪を乱すようにミグアの頭を撫でる。誤魔化しなのだからそのまま受け取ればいいだけなのに、訂正しようとしてくるからだ。

てくてくと歩く速度は変わらない。あたし達は領主館が見える大通りまで出てきており、既に目的地は視界に入っている。


見たくない顔も一緒に、だが。


「ルミナ、痛い」

「自業自得ってやつね。ところで領主館は見えたけど、ミグアは見えるわよね?」

「領主館の目の前で怒ってるようなデルスのこと?」


明らかに怒りの感情を顔に浮かべるデルスの姿がそこにはあった。


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