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ローズの宿にて

ノリが乗らない


んーテンションが足りてないか。スーパーハイテンションになれば三章なんてあっという間なんだけどなぁ

「ヤギの頭の上に蝶が乗っている看板の宿、というとここですかね?」

「カティナのお薦めらしいですが……カティナの家にでも誘ってくれれば良かったのに」

「デルスってカティナさんに頼り過ぎじゃない?一回酷い目にでも遭った方がいいとすら思えるわね」

「酷い目というと……旅の置き去りにされるようなことなら数えられないくらいにはありますが」

「懲りないタイプだったか」


あたし達がやってきたのはカティナさんからお薦めされた宿、「ローズの宿」という直球の名前をしたところだ。

なんでも二人の女性が切り盛りしている宿屋であり、その二人がかなり美女だとか美少女だとかとのこと。

正直なぜ少女と言ったのかが分からなかったが、こうして宿の中に入ってその二人を目の前にしてみれば腑に落ちるものがあった。


「4人ですか?シアー!4人部屋空いてるー?」


案内に出てきた赤髪の女性と赤髪の女性にシアと呼ばれた黒髪の少女。二人で切り盛りという話からこの赤髪の女性がローズという女性なのだろう。

凛とした顔立ち、騎士とすら見間違える姿勢、女性が惚れる女性というのはこういう者のことを指していると言い切れる。

長い髪をひとまとめにしており、その瞳は燃えるような深紅。ジッと見られたら燃やされるのではと勘違いしてしまいそうになる。


「空いてるよー!二階の一番奥!」


元気な声で返ってきた声はどこか子供っぽさが抜けてないような声色。声の方に顔を向けてみればパチリとした目が子犬のような視線を向けてくる。


短くまとまった黒髪に童顔な小顔。140cmあるかも分からない身長に、傷一つない肌。大切に育てられた箱入り娘のようにも見える。

明らかにローズよりも小柄な女性……いや、少女だ。だが雰囲気はどこか歴戦の強者に似たようなものが垣間見える。見た目通りではないのは分かるが、印象からしてすぐに納得できないものがある。


黒髪の少女はてくてく、という擬音がしっくりくる歩き方でこちらに部屋の鍵を渡しに来た。

美少女、という言葉が頭に浮かぶ。かっこいい女性ならローズの方が正しいが、可愛い女性となると間違いなくシアの方が正しい。


「えっと、4人……で、いいんですか?」

「ええ。先ほどシアと呼ばれていたけれど、あなたのことでいいのかしら?」

「はい。私がシアで、あっちの赤い髪がローズです」

「二人で切り盛りしてるって話を聞いたけど、本当?」

「見た目で判断したら痛い目に遭うって言葉がありますよ」


可愛いとは言ってもしっかりしてるのは確かなようだ。そうでないと宿屋の経営なんてできないから当然だが。見た目が余りにも可愛らしいので疑問に思ったのは仕方ない。


頭を振って考え直す。こんな女性でもきちんと成人しているのだから子供扱いするのは侮辱するもいいところだと。

ふぅと一息つき、目を閉じる。そして頭の中を落ち着けさせ、スッと目を開く。それだけの行為であり、特に深い意味はなかった。


だが、何故だかそれは見えてしまった。


「……ん?」

「どうかしましたか?」


シアは女性だ。それは周囲の反応からしても間違いはない。あたし自身もそう思っているし、デルスやガイードが何も言わないあたり、これは間違いないことだ。


しかし今のあたしの視界にはシアに似た姿をした男の姿が見えていた。


「……えっと、これは一体?」

「ルミナ、どうしたの?」

「そうね、……いえ、何でもないわ」


ミグアに説明しようとして、止めた。これは説明していいことではない気がした。少なくとも本人がいる目の前で話すのは危険だ。

もしあたしのように別の魂があるというのなら指摘した瞬間暴れられる可能性すらある。あくまで可能性の話ではあるが、0ではない。


「二階の一番奥だっけ?」

「あ、はい。これ鍵です」

「ありがとう。それじゃ皆、行くわよ」


シアやローズの視線を振り払うように歩いていく。背後から見つめられている気配がするが、気にせずに二階奥の突き当りにある部屋へと向かう。

三人はあたしの異変には気づいているようだが、聞いてくるような気配はない。とはいえ聞かれても困るから助かる。


ベッドに腰かけ、各々が休憩を始める。真っ先に聞いてくると思っていたデルスが聞いてこないのは意外だった。

代わりにミグアがやってきた。それも頓珍漢な内容で。


「ねぇルミナ、あの二人に見惚れてた?」

「はぁ?」


何言ってんだと態度に示す。と、そこで気づいた。さっきのあたしの行動を第三者視点で考えてみると分かったことだ。

美少女と言えるシアが近寄ってきて、そこで固まるあたし、そして何かたわごとをほざいて案内された部屋に無理やり移動した。

この行動って、見惚れた女性に見惚れてませんって言いたい男性の行動とほぼ同じだ。ミグアにそんなこと言われるのも納得できるものがある。


とはいえ目をくぎ付けにしていたのは事実。それを見惚れていたというなら間違ってはいない。


「まぁ……見惚れていたのはそうかな」

「可愛らしかったですしねー」

「私も一瞬心が奪われかけたのは確かです」


ディーエにデルスも同調してきた。お前らはホントに異性的に良いと思っただけだろうと言ってやりたいが我慢することにする。それを言ったらあたしにも何か言われるかもしれないし。

などと考えていたらミグアがプクッと頬を膨らませてあたしにジト目を向けてきた。


「ルミナ、ああいうのが好き?」

「……ミグア?あなた何言ってるの?」

「私はルミナ好きだよ」

「ミグア?」


ミグアの様子がおかしい。いつもはこんなこと言わないはずなのに。

魅了?それとも性格変更?考えたくないのは本音が駄々洩れであり、言ってる言葉自体はミグアが本心で望んでいる場合か。


ゼルをピコっとなる程度のハンマーにして展開し、手をワキワキさせていたミグアの頭を叩く。ゼルへの望みはミグアを正常に戻すこと。魔術を使わないのはこっちの方が早かったからだ。


ピコッ


「ん、あれ?ルミナ?何で私……」

「正気に戻ったかしら。ミグア、何か変な物でも拾い食いでもした?」

「するわけない。私、何してた?」

「あたしに襲い掛かろうとしてた。戦うって意味じゃなくて女の子同士でイチャイチャしたいみたいな感じで」


ゼルを元の指輪に戻しながらミグアの状態を魔力視で確かめる。見えるのはさっきと変わらない魔力の流れ。つまりは異常を正常と認識するようなことが起きていたってことか。

あたしが答え終わるとミグアは頭を抱えて考え込みだした。どこか顔が赤くなっているようにも見える。

……まさか本音があれ?それは止めてほしいところだけど。


「一応聞いておくけど、あれって本音の行動だったりする?」

「半分は」

「嘘でしょ…。ちなみに残りは何か分かる?」

「本能」

「何言ってるの!?」


照れ隠し気味にベッドについていた枕を投げつける。ミグアは軽くキャッチし、あたしの手元に優しく届くように投げてきた。


思わず照れてしまったけれど、ミグアの本能って言い換えるとマイマイの特性を持った何かっていう生命体に根差したところから来てるってことだ。

あたしとそんなことをしたいと思う本能って何?


(聞こえるか、ルミナ)

(ガイード?どうかしたの?)


なんてことを考えてたらガイードが魂経由で話しかけてきた。言葉に出さないということはデルスとディーエに聞きたくないということだ。あたしも明日に大仕事を抱えている二人とはあまり離したくないので丁度いい。


(明日についてだ)

(明日?囮になるってやつのこと?それなら特に問題もなく進める予定だけど)

(まだ配置をどこにするか決めていないだろう?それいについてだが……この周囲にした方がいい)

(何で?)


ガイードはあたしを護る災害だ。その災害が指示をするということはあたしに危険が訪れることを意味している。そして護るのは肉体的な話なのか、精神的な話なのかも含めてだ。

その災害から送られてきた情報はあたしを困惑させるには十分な内容だった。


(あの二人……シアとローズと言ったか。あの二人が災害獣クラスの力の持ち主の可能性がある。すぐに対処できるならこの周囲が一番だ)


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