雷牛ラギトーサ
ウマに狩りとみんな忙しそうだなー(他人事)
「ようこそいらっしゃいました。デルス近衛、ディーエさん。それに……ルーナ、いえルミナさんにミグアさん。私がここを統治しているカティナです」
領主館に入ったルミナ達を歓迎してくれたのは探していた人物であるカティナだった。元高位軍人だからドワルガ王国の軍服も着ておらず、パッと見では外で出歩いていた一般人と見分けがつかない。
肩よりも下へ流れる長い黒髪、柔らかな印象をもつ顔立ち、ビシッとした統治というよりまったりとしてながらも締めるところは締めるというタイプだろうか。
「カティナ、あなたは無事なのですね」
「無事……ああ、連絡が途絶えていた件ですね。何の情報もない相手に無闇に突っ込むのは愚策もいいところでしょう。せめて高位軍人がもう一人いれば話は変わりましたが」
「原因は掴んでいると?」
カティナはコクリと頷く。デルスを除く全員がその事実に驚きを隠せなかった。
いくら高位軍人が有能揃いとはいえ単独での行動は基本的に行わない。自分に何か起きた時の対策を行うためだが、引退したら話は別だ。
単独となり行動する感覚も大きく変わる。慎重になると言えば分かりやすいが、言い換えると行動しなくなりやすいとも言える。
それでもなお元高位軍人として十分な情報を得ていたことは称賛に値することだった。
「根本的な原因はラギトーサと言われる災害獣です」
「ラギトーサ?一体だけですか?」
「一体だけでも十分脅威ですよ。かつてあなたが討伐したのとは別個体です」
「待ってください。話についていけてないです」
ディーエが割り込んでくれた。あたしやミグアもラギトーサが何か分からないから全然理解できてない。
ラギトーサとい魔物自体はルーナの知識にある。雷を操る牛だ。10m~50m近くまで大きくなるはずだが、災害獣ともなれば基本的な大きさが100mは優に超えるはずだ。
そんなラギトーサはルーナの知識を持ってしても知らない。だが仮にそんなラギトーサがいればジャミングのようなことができてもおかしくはない。
「ああ、ディーエは知らなかった…いや、説明した方が良さそうですね。現状の説明するにも丁度いい。カティナ、お願いします」
「はい、それではラギトーサについてと、現状ですね」
それからカティナはソファのある別室に案内し、詳細に説明をしてくれた。
まずラギトーサという魔物の生態系について。ラギトーサは50m近い個体が最大級だが、その個体が雌だった場合その周囲に子供を数千以上の数を生み出す。子供が成長し、10m以上の成体となれば別の住処を探しに行けと周囲から追い出す。これが本来のラギトーサの生態だ。
だが今回のラギトーサは異常個体であり、成体に別の住処を探しに行けという命令ではなく、さらに成長して親に喰われに来いという命令を出していた。これにより親となるラギトーサが災害獣クラスに化ける、というのがラギトーサが災害獣になるプロセスらしい。
次にラギトーサをデルスが討伐したということについて。
近衛は災害獣クラスと同等と言われるのには理由がある。それは近衛として認められる試練に「災害獣クラスの戦力を持った生物と戦い、一定時間の足止めを行うこと」というものがある。
これをデルスが行った時の相手が今回起きたようなラギトーサ、その別個体だったらしい。しかも当時のデルスはラギトーサの足止めどころか討伐まで行ってしまっていた。故に今回デルスが送られてきたのは非常に助かるとのこと。
最後に現状がどうなっているのか。
ラギトーサがジャミングによって首都とコルドークとの間の連絡を妨害しているのは確実とのこと。なぜならラギトーサは首都とコルドークを繋いだ直線の間に住処を置いたから。あたしたちがやってきたのは道沿いであり少し遠回りだったから、その間にいたのだろう。
だがカティナはラギトーサを単独討伐することはできない。だから戦力が必要なのだが、高位軍人クラスがせめてあと数人いないと討伐に死人が出ると判断した。
「そこまでは良かったのです。私が一日で首都まで行けばいいだけの話だったのですから」
カティナは悔しそうに話す。本来なら解決できたことだったのだと、誇りある元高位軍人足る自分一人でどうにかできたのだと。
一日くらいなら持ち回りで見回りしている衛兵を全て回せばコルドークの治安も問題ない。確かに何の問題もないはずだった。
カティナは拳を握り込み、ギリギリと歯を食いしばる。デルス曰く、かつて高位軍人として見ていた姿としては珍しいとのこと。
「ですが問題はそれだけではなかったのです」
そこまでが前置きだった。あたしたちが解決するべき本来の問題は、別のところにあるのだとカティナの顔が物語っていた。
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