在り得ざるモノ
筆が進まんなぁ。書きたいものが詰まってるというのに
訓練場まで来た三人。だがそこには一人の人影もなかった。
「本日はそもそも安息日。皆身体を休めているでしょう」
「言い換えると使い放題ってことかしら?」
安息日、それは誰しもが身体を休めるための日。軍人でさえも訓練していた者たちは皆身体を休める。警戒のために見張りの軍人だけが働き、その見張りも次の安息日なら別の者に代わる。
そうなれば訓練場に誰もいないことは当然だった。逆に言えば誰も来ないため、使いたい者が使っていいことになっている。
「まぁ、そうも言いますね」
「だったら使わせてもらいましょう。ミグア、武器無しで戦うことってできる?」
訓練であるため、武器は使わない。ゼルを使えば多少は制御能力に補正が加わるものの、素の制御能力を鍛えたい今は不要のものだった。
そしてマイマイでもあるミグアは取り込んだ生命体の力を十全に発揮できる。無手でも戦うことは当然可能である。
だがルミナへの回答は首を横に振るものだった。
「できる。でも今の私はちょっと戦うのは嫌かも」
「何で?」
「魔力の混濁から抜け出せたのはいいけど、魔力構成が出来上がったばっかりでうまく制御ができてない。下手に強化魔術が強すぎると怪我させる」
要するにガイードのせいで制御能力に狂いが起きており、その調整が上手くいっていないらしい。魔術の暴走すら起きかねないともなれば、無理に戦うのは止めた方が無難だろう。
と、なれば相手は一人しかいない。
「確かに危ないわねー…。ねぇ、少し協力してくれない?」
「私がですか?」
もちろん護衛扱いでここにいるデルスだ。近衛は部隊を率いることもあれば、訓練の指揮をとることもある。情報機関の動きをすることもあれば商人との交渉すら行う。何でもござれの万能集団だ。
そして今この場にはこれ以上教官として適した者はいなかった。
「どうせ訓練って言っても正規軍人の方じゃなく高位軍人の方の訓練に叩き込むつもりでしょう?ならその指揮は部隊長か近衛、つまりはあなたでしょう。それなら今からやっても問題ないでしょ?」
その指摘が正しいのは溜息をつくデルス自身が示していた。
「はぁ……指揮はジナガオという部隊長がやる予定だったのですが、仕方ないですね」
そして高位軍人でも音を上げることがあるほどのタイマンでの訓練が夕方ごろまで続いた。
「今日はここまでです。ルーナ様の知恵を知っているなら身体の回復もすぐでしょう」
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫?」
大の字になり、息を切らせるルミナ。疲れたという言葉がありありと見えていた。
無手での組手も行ったのだが……子供扱い、それが現実だった。魔力総量では同じかあたしの方が上、ガイードを使えば話は別だったかもしれないけれど、そうじゃないならその程度。
無手での戦闘では速攻やカウンターといった戦い方のスタイル、フェイントといった戦術、そして何よりも魔力や魔術の使い方が全てを決める。
戦術はルーナの知識がある。だから対等……とはならず、負けているけれどそこまで酷くない。けれど魔力や魔術の使い方という点では、デルスから見ればあたしは雑魚もいいところだった。あたしの制御能力とデルスの制御能力はまるで比べ物にならない。数値にすら落としこめない程だ。
「でも成長は見えたかなぁ」
「私も」
訓練を始めた最初に比べ遥かに制御能力が増している。デルスの見様見真似だったけれど、多少はできるようになったみたいだ。
ミグアはミグアで魔力の混濁から回復した力の制御を進めているみたいだ。ガイードが無理やりねじ込んだ魔力の総量はかなり多い。災害獣程ではないが、魔物の最上位クラスが数体分はある程だった。それを制御できるようになりつつあるみたいだ。
「ま、明日からも訓練していこう。進んでるのが楽しくて仕方ないね」
「うん」
二人の会話を背に、デルスは訓練場の外に出る。そこには壁を背にした部隊長ジナガオの姿があった。初めから護衛は二人いたのだ。もちろんこの二人がずっと持ち受けているものではなく持ち回りだが。
護衛体制は近くからの護衛と遠くからの護衛の二人によるものであり、デルスの今回の相方はジナガオ部隊長となっていた。
「で、どうだ?」
「異次元の成長だな。今日だけで無手の子供が武器を扱うようになるくらいには成長していた。ルミナ殿もミグア殿も一月あれば我々でさえ負ける程に成長する可能性がある。正直、今の内に殺してしまえとさえ言いたい」
「そいつぁ化け物だな。ま、ワグム王がいいって言ってるなら構わないだろう。それに……何か見つけたな?」
ジナガオの鋭い視線がデルスに突き刺さる。その視線には知り得た情報を全て寄越せというような強欲さと、それをドワーフ全体に知らせるという誠実さが乗っていた。
「……あり得んのだ」
「何?」
「ルミナ殿の魔力と親和性のある魔力が存在しない。魔力放出を使おうとしていたのが節々にあったのだが、できていなかった。周囲の魔力が動いていなかったことから、できていないというよりできないことを行っていたと言った方が正しいな」
認識した事象が余りにも荒唐無稽。信じる方がどうかしているということが起きていた。起きている現象を正しく理解しているからこそ、デルスもジナガオも判断に困っていた。
魔力を動かそうとして周囲に魔力を放出すれば、どれだけ親和性が低くとも周囲の魔力自体は親和性に比例して動くはずなのだ。動かないということは親和性が低いどころではなく0であることを示している。
そして魔力の親和性とはその生命体が生まれ落ちた環境と生命体そのものの特性によって決まる。そのため親和性が0というのはあり得ない。魔力がない環境で生まれたか、魔力を感じ得ない程の小さな生命体でしかそんなことは起き得ず、そしてこの世界には魔力がない場所は存在しない。
成立する存在がいるとするならこの世界の外で生まれたとしか言いようがない。
「存在しない?。それは……一体どういうことだ?。なら……あいつはこの世界の者ではないってか?」
「だからあり得ないと言っている。これはワグム王に連絡すべきことだな」
そして彼らはワグム王に報告を行い、二人の訓練に勤しむことになった。
それから一月の時間が過ぎた。
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