ドワルガ王国軍接敵
時系列合流話
ドワルガ王国の南門。そこにドワーフの高位軍人が数十名集まっていた。
彼らは神託による百の夜が既に過ぎ、三日の内に福音が訪れるという言葉に従っていた。三日の内に魔法陣が描かれると言われたが、それが果たして目視できるものなのか、魔力による感知でしかなし得ないものなのかは言われていない。故に感知が優秀な高位軍人たちが南に集まり、数百kmに渡っての魔力感知を行っていた。
その内の一人が声を上げる。彼は感知が優秀な部類でこそあったが、広範囲に感知を広げるのが苦手なドワーフだった。そんな彼は感知を限界まで広げず、数kmで留めていた。
「これ……どういうことです?」
「どうした?」
「いえ、南南東に50kmくらいですかね。その辺りになんか違和感が」
「南南東に50km?。……確かに何か、ねばついた空のような感覚。空模様が悪いというわけでもない。……あり得るな」
話していた軍人は一つ頷き、それを察した彼は頷き返す。警戒を強めていた彼らの顔はにやりとした顔になっていた。
「フェガ隊長。怪しいところを見つけました」
「ディーエか。よし、案内しろ。今回の災厄の化身……いや、キグンマイマイとの戦い。戦力はどれだけあってもいいとワグム王は言っていた。お前たちも来い」
「え、俺らは」
「足止めでいい。後で戦闘部隊やら近衛クラスが来るまでだ。それにキグンマイマイは一人では討伐し得ない」
「分かりましたよ。数十秒もあればいいですかね?」
「十数秒だ。やつらは時間すら加速させる」
フェガと呼ばれたドワーフとその部隊員、ディーエやディーエに報告したドワーフ達が王国南の平原の空を駆ける。
身体強化に空に一瞬だけ地面を作り跳ぶ魔術。それらは高位軍人からすれば必須もいいところの技術であり、感知を得意とする彼らも高位軍人である。できない訳がなかった。
「戦闘部隊隊長ジナガオ、聞こえるか?」
「こちらジナガオ。…見つけたか!?」
「可能性がある。念のためこちらに数人回してくれ」
「分かった。近衛が一人と俺が向かえばいいな?」
「十分過ぎる」
フェガ……情報部隊の一隊長と戦闘部隊の一隊長ジナガオの通信魔術はそこで切れる。伝えるべき情報は伝え終えたからでもあったが、既に到着したからでもあった。
「ここです」
「確かに怪しい。これは……っ!?」
フェガ達の前方数kmほど先に天から光が差しこむ。空は夜で月が露わになっており、平原には当然月の光が照らされている。だがそこにまるで邪魔していた何かがいたかのように、少しずつ光の色が明るくなっていく。
「見つけたな、全部隊に通達。キグンマイマイを発見、即座にこちらに向かいたし」
フェガが通信魔術を使い展開されている高位軍人全体に伝える。だが伝えるのはそこまで。光が差し込むのと同時に感知した災害獣ほどの、もう一つの魔力の存在については触れない。
「あれは一体?」
「福音、というやつだろう。だがこれはまるで災害そのものだぞ……フェガ隊長、どうします?」
ディーエ達隊員がフェガの方を見るとそこには険しい顔をしたフェガの姿があった。その顔にはどうするべきか悩んでいると書かれていた。
「お前たち、感知をもう少し深度を深めて見てみろ。あれが何か分かるはずだ」
フェガの言葉にディーエ含めた五人のドワーフは一斉に感知を進める。見つけた福音が一体何者なのか、それが分かるはずだとフェガの言葉には暗に含まれていた。
「烈火に燃え盛る螺旋の如き魔力……その片方。この魔力、まさかあの?」
「おそらくな」
ディーエの言葉に応えるフェガ。臨戦態勢をとり警戒を緩めないフェガが隊員に代わって答えを溢す。
「ルーナ=アス、その片鱗を持っているのは間違いなさそうだな。そして魔力総量はもはや災害のような何かと言える。足止めこそいらなくなったがやつの攻撃の余波に耐える必要がありそうだ。」
大魔法陣が空に展開される。破壊のそれではない。だがその予兆と言えるだろう。事実光が差し込んでいる場所からは空間が軋む程の魔力が感知されている。
隊員たち……フェガも含め、額から冷や汗が一筋流れる。例え高位軍人と言えどこれだけ大きな魔法陣の展開をするのは一人では難しい。高位軍人の中でも数人、近衛と呼ばれる者たちで同じように展開できるくらいだ。
そこから集束できるドワーフともなれば片手で数えられる程だろう。
「おいおい、大魔法陣は百の夜の前じゃなかったのか?」
フェガの予言とは違うという言葉に隊員の一人が答える。どこか苦々しい顔なのは気のせいではないだろう。
「流石に南だけと言われても広過ぎて魔力残滓の跡を追う解析部隊の追いかけは間に合わなかったです」
彼女は予言の中でも最初の部分、遥か南に起きた大魔法陣について解析していた班の情報共有員だ。間に合わなかったと言い出すのは心理的にやりたくないと思うのは当然だった。
「ってことはこれは予言とは別の物か。こんな魔法陣を好き勝手に使えるなんて信じられんが、そうでもないと予言に言われたりしないか。集束し始めたか……全員衝撃に備えろ!」
魔法陣が集束し、福音に……ルーナ=アスの振り下ろす槌に紅の光線のような魔力を打ち抜く。それはさらに槌が振り下ろされた先、黒い球体にも突き刺さる。
それと同時に紅の光が弾けた。
魔力の暴風としか言いようのない現象が発生し、周囲に衝撃が走る。だが平原を一瞬駆け抜けるような衝撃であり、地震とすらいえないものだ。
だがそれが起きた後には彼らには信じられない生命体が現れていた。
「な……何だあれは」
「漆黒のドレスに眼帯……それに羽に尻尾。…竜?」
見た目だけではそれしか分からない。魔力視も当然行っている彼らだが、まるで目の前に山のような災害がいる感覚に襲われるために視ることができなくなっていた。
隊員が畏怖に襲われている中、相変わらずの臨戦態勢で備えていたフェガが言葉に出す。
「あれだけの魔法陣で姿を変えただけなどあり得ん。考えられるとすれば……災害を纏ったか。そんな真似ができる存在があるとすればドワーフのような何かと呼ばれていたルーナに違いない」
睨みつけるようにルーナを捕捉し続けるフェガ。その位置座標、特有魔力は通信魔術を通し展開されている全部隊に伝わっていく。
伝わった証拠にすぐさまジナガオともう一人のドワーフがフェガ達の下に到着した。沸騰するように沸き立つ魔力が急いできたことを示していた。
「おい、どういう状況だ!?。災害獣みたいな魔力してる女が見えるがあれは味方でいいのか?」
「さぁな」
ジナガオが到着したと同時に聞きたいことを言い放つ。フェガは分からないことを聞かれても困ると声に魔力を込めて応えた。
そしてその答えはもう一人のドワーフが答えた。近衛と呼ばれるドワーフの精鋭、高位軍人の頂点に位置する存在が一人、デルス=ギリアだ。
だが彼もまたフェガ同様に険しい顔をしており、ルーナの危険性について理解していた。
「あれがおそらく……福音だろう」
「あれが!?。とんでもねぇ魔力だな。お前を呼んできておいてよかったぜ」
「全くだ。俺がいなかったらあれの対応で死人が数人は出ていただろう。フェガが死んでいた可能性すらある」
「勝手に殺すな。だが……俺一人だったら隊員守って死んでた可能性は否定できんな。他の奴らは?」
「戦闘部隊はあと十数秒もすれば来るだろう。だがそれ以外は都市の守りに行かせた。近衛はあと二人くらいは来てくれるはずだ」
そこまでフェガ達三人が情報を共有した時、ルーナはふわりと翼をはためかせ、一言口に出した。
「突っ込むわよ」
その言葉の意味はキグンマイマイを詳しく知る高位軍人であれば理解できた。
「なるほど。確かに福音だ」
「俺たちは外から削るってわけだな」
フェガ、ジナガオ、デルスの三人はすぐに理解ができていた。高位軍人でもまとめ役である三人は知識も膨大であり、中でも知的生命体から見たら災厄と化した身を持っているとすら言われるキグンマイマイを知らないわけがなかった。
「どういうことです?」
まだ高位軍人に成り立てのディーエが疑問を呈する。ディーエはまだ新参の高位軍人であり、さらにかつて別個体のキグンマイマイがドワーフを襲った時代の後に生まれている。その疑問は当然のものだ。
顔を見合わせるフェガ、ジナガオ、デルスの三人は説明をしていく、
「キグンマイマイは知性をもつ災害獣だ。故に体内からその力を削り、意識を体内に向けさせる必要がある。そして体内に意識を向ければ擬態のために外気とほぼ同化している魔力がなくなっていくのだ」
「要するにだ。体内から削る役割と外からキグンマイマイを破壊する役割の二つが必要なのさ」
「それだけじゃない。やつは地面の下に潜る。故に地面から引き離す魔術を行使する役割も必要だ」
ジナガオがフェガのフォローにいけないなと頭をかき、一つ訂正を重ねる。
「そうだったな。だから3つの役割が必要だ。その内の体内から削る役割をやってくれるってあいつは言ったのさ」
「なるほど……ということは私たちは外から?」
「そういうことだ、流石はルーナ=アスと言ったところか。ドワーフの手の内を全て知っているというわけだな」
驚愕に目を見開くジナガオとは対照的にフェガとデルスは納得がいったように頷き合う。
ジナガオは高位軍人でも戦闘には恐ろしく強く近衛と比べても何ら遜色ないほどでこそあるものの、判断能力という一点が低かったために近衛になっていないドワーフだ。
だからこそドワーフの中ではルーナは有名であり、魔力さえもよく知られているほどだがすぐにルーナだと判断出来なかった。
「……ルーナぁ!?、あれが!?」
コクリと頷くフェガとデルス。ジナガオは信じられないという表情だ。だがすぐにキリっとした顔に戻り会話を続ける。
「よし、この話は後だ。戦いが終わってからにするぞ……っ!?。全員完全防御だ!」
ジナガオが即座に展開されている戦闘部隊に通達する。魔力を感知したからでこそあるものの、それよりもドワーフの高位軍人にしか伝わらないある魔力が見えたからである。
花、それも紅の色をした花だ。
それが示すのは二つ。災害すら屠るほどの魔術を展開するという意味、そして―自爆攻撃だという意味だ。
そのため「花が見えること」は「守りを固めるか、即時撤退」を意味する。高位軍人にしか伝わらないのは高位軍人未満の力ではそれほどの自爆攻撃はできないからだ。
魔力だけを使った自爆攻撃はせいぜい町一つ破壊し尽すほどのものだが、魔力以外の生命力や精神も同時に使う場合は威力が桁違いに跳ね上がる。
ドワーフの歴史に残るそれは、かつて大陸一つ消し飛ばしたとさえ言われる程だ。ルーナもまた同様の使い手である以上、威力もそれと同等と彼らは判断した。
地震、地割れ、天から降る隕石、空間が削られるような衝撃波。どれも軍人でなければ耐えられないものだ。そしてその複合など、高位軍人でなければ耐えられないだろう。
「ぐぅ…っ!」
だが彼らはその後ろに王国があることが分かっている。それ故に逃げるという選択はない。全力で広範囲に魔術を展開し、威力を減衰させようと試みる。
地面はより硬く、動かないように。空から降る隕石はまるで壁が張られたかのように。衝撃波は空気の一部の組成を変えることで減衰させる。
だがそれでもその威力がなくなることはない。どれだけドワーフが力を尽くしても、災害の力を纏い、魔術を超えた力を持つ魔法を行使するルーナの力には届かない。
ドワルガ王国全域に激震が走った。
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