覚醒の咆哮
主人公がしていいことなのだろうかこれは?
一晩が明け、町長は不思議そうな顔でルミナの様子を見ていた。
「ルミナ本人はほとんど解析は終わった。……だが、これは何だ?」
変わらず水球の中にぷかぷかと浮かぶルミナ、だが町長の視線は二つ……いや三つの装備に向けられていた。
一つは指輪。ルミナはゼルと呼んでいた槌に変形する武器。指を千切り無理やり町長が使おうとしたら左腕が千切れる程の衝撃が走り、今も左腕が町長にはない。おそらくルミナが所有者として扱われているのだろう。
そしてもう一つ……いや二つはルミナの両の二の腕に付けられているバングル。中からグレイオーガの骨や肉を出していたことから何かを収納できる魔術武装なのだろう。それ自体は珍しいが存在しているし、ドワーフの技術なら誰が持っててもおかしくない程度だ。
だが問題はこれがルミナ本人とくっついている武装であることだ。一体化しているようであり引き剥がすことができず、町長は装備することさえできない。
まるで武装ではなくこれ自体がルミナ本人の一つだと主張しているようだ。キメラだからそういうこともあるだろうと町長は判断を下した。
「両腕を落としてそこから解析するとしよう」
手をかざし、水球の中にいる変質させたルミナの魔力を操り腕を身体と離そうと試みる。
その瞬間だった。
バングルの収納魔術が切れたのか、内部からとんでもない質量の肉や骨、岩といった塊が勢いよく排出された。その勢いはルミナを捕らえる水球を容易く呑み込み、町長宅そのものすら呑み込み始めた。
「なっ!?」
魔力を視ていたため瞬間的には察知できた町長は、咄嗟に窓から外へ出ることでギリギリで呑みこまれずに済んでいた。だがその表情は驚愕に染められており、解析が終わったものの反逆としてはあり得ないと顔に書かれていた。
濁流と比較することさえ生温いほどの大量の質量が町長宅を完全に破壊し、さらには町までなだれ込んでいく。まるで目の前に河川があり、それが氾濫したような勢いで町を破壊に飲み込んでいく。
だが河川などとは破壊跡は比べ物にならない。水がない質量だけの濁流に呑み込まれ、家や施設は文字通り流されていく。
だがここはマイマイの腹の中。町の住人…いや、マイマイたちからすればホームグラウンドだ。浮かぶように空へ飛び、悉くが破壊の濁流を回避していた。
だがそこにミグアの姿はなかった。
「ミグアは休憩していたな……油断していたか。あいつめ、ルミナがミグアを襲うなどあり得んと高を括ったな」
破壊の濁流はドレの町全体まで流れ、そこから外へ出ることなくピタリと止まった。
だがそこでこの破壊は終わりではないと、脈を打っている破壊跡が示していた。
「baaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」
破壊跡からそこら中に口のようなものが開き、叫び声を上げる。声はいくつもの方向から叫ばれることで共鳴を重ね、浮かんでいたマイマイたちが次々と墜落させていく。
「これは一体!?。ルミナ本人は完全に読み取り我々と同じにしたはずだ。隠している魔物も読み取り、紅い魔力すら知り得たというのに」
町長の問いに答えるように、叫び声がさらにマイマイの腹の中へと響く。それはお前如きに分かってたまるかと拒絶そのものであり、何よりもルミナという存在の本質を知ろうとしないものへと怒りの咆哮だった。
「gaaaaaaaaaa!!!!」
「ぐぅっ。こ、っれは中々に響く…!」
ただの数が多いだけの咆哮。たったそれだけでも本来は液状の身体であるマイマイには途轍もなく効く。それも体内から起きているのだからたまったものではない。
町長は空を覆いつくす程に大量の水の槍を展開する。マイマイは腹の中なら魔力は無限に使えると言っていい。さらにはどれだけの大魔術を使っても身体が耐えられるようにもできる。
「黙れぇ!!」
怒りの声と共に破壊跡に出てきた口へ、膨大な数の水の槍を勢いよく落下させる。その落下箇所の全てに口はあり、これで声を全て潰すことができるはずだ。
地面に衝撃が走り、落下したのを確認すると町長はにやりと笑い安心に浸る。それが早計だと考えもせず。
だが破壊跡は嘲笑うかのように残ったままだった。
「何がっ!」
さらに破壊跡はこれで終わりだと言わんばかりに町長宅へとその質量の全てを引き戻していく。その勢いは町を破壊した時と同様のそれであり、明らかに誰かの意志が働いているのを示していた。
加えて町そのものがマイマイの腹の中だと分かっているのか、出てきたものだけが戻っていく始末。流していった家はそのまま破壊されたままとなっていた。
これほど屈辱を味わされた経験は町長には……キグンマイマイにはなかった。
「ルミナ本人ではないだろうが……許さん」
怒りの形相をむき出しにし、空の上から町長宅を睨む。町長は先ほど展開した大量の槍と同等の質量を一本の槍に押しとどめ、さらに自らの身長と同じ長さ程度まで縮める。
少しずつ降下し、引き戻されていく質量が町長宅に収まり切ったところで、確実に当たるように町長宅の近くから槍を投擲する。
「死ね」
家の内部へと槍が侵入し破裂。破壊へと変換された大量のマイマイの魔力で家そのものが吹き飛ばされる。ドワーフの軍人でもそうそう耐えられない程の威力であり、直撃していればルミナと言えど死んでもおかしくないものだった。
だが吹き飛ばされた家の爆心地には一人の少女が立っていた。外套は吹き飛ばされ、それ以外の服もズタズタになっている。しかし身体は無傷であり、ただ服が破れただけだ。
そしてそれらよりも遥かに目につくのは、腰あたりからなかったはずの黒色の尻尾が生えていることである。
それ自体は数m程度だ。が、その先には破壊跡で呑み込んでいた質量が丸くなって固まったように、漆黒の魔力をして存在していた。地球でいうところのモーニングスターのようなそれだ。
もっとも、先端についているのは鉄球どころか全てを呑み込むブラックホールのような何かだが。
「あれは……ルミナではない?。魔力が全く別の何かだ」
町長やマイマイたちはその異様な姿になったルミナに戸惑いを隠せない。見た目は見たことのないドワーフだった、だが今の姿はどう見ても魔物のそれである。しかも未知の魔物であり、それを先ほど暴れ回させたのは間違いない。
自分たちを攻撃してきた元凶が露わになったが町長含めマイマイたちは行動を起こさない。先ほどの咆哮が効果的だったことを理解されているであろうことから、もう一度来ることが分かっている。故にそれを防ぐための魔術を展開しているからだ。
だが彼らマイマイの読みはことごとく彼女達には見透かされていた。
静かな声が空全体に響き渡る。それに攻撃性の魔力は全く乗っておらず、魔術を貫通して彼らの頭に直接響かせられる。
「聞こえるわね。ここからは私たちが相手になってあげる。……その気色悪い姿形を消滅させるまで潰してあげるから覚悟しなさい」
ルーナの声が、そう告げられた。
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