食糧調査してみた
仕事がー忙しくてーストックが消えてい~く~
クソが
少しだけ歩いたルミナは市場の小ささに落胆していた。町の規模が予想よりも大きかったにも関わらず、市場が非常に小さかったのだ。明らかに市場が独占されており、そこに競争があるとは到底思えない状態だった。
「はぁ……いや、当然と言えば当然かな?。目的は競争による多様性からの発展ではなく、安定定住のための食糧提供でしょうし」
考え方が違うのだから社会は変わる。社会が変わるのだから市場形態も変わるだろう。その変化はその社会にとっては好ましいものになるが、他所の社会から来た者にとっては好ましいかどうかは別だ。
そして知らないモノを求めるルミナにとっては当然好ましくない市場だった。
「まぁダメとは言わないけど」
通りの脇でパンを売っている商人に目を向ける。魔力を操作し目に集中させ、追跡するようなイメージを固める。
匂いからしてあそこで売られているパンは朝仕入れてきたと見た。であればあの商人は朝仕入れた場所に寄ってきたのは間違いない。
右目の視界がぶれる。商人が二人に分かれ、一人はそのまま変わらずの場所に、そしてもう一人は売っているパンを木の箱に詰めてどこかへと歩いていく。歩いていく姿に足はなく、現実ではないと暗に示していた。
「予想通りなら作るところまでだけど、そこからはまた別の人を視ないとね」
人通りをすり抜けて幻影のような商人は歩いていく。その背を追ってルミナは歩いていく。
そして数分後、予想していた場所……パンを焼いている工房に到着した。漂ってくる匂いと感じられる熱量からしてそれ以外の施設とは到底思えない。
「ふふふ……さて、さっきと同じ要領でっと」
工房へと歩いてきた幻影は室内へと入っていき、左目の視界内からは消えている。けれど右目の、室内を透視した視界には捉えられている。パンを作っていたであろうハーフの巨人族らしき人……こちらも足がないので幻影であるが、彼と話しているのが見え、そこで幻影は消えた。
次は透視しているハーフの巨人族の幻影を対象に、商人に向けた目と同じものを向ける。
「っ!」
右目に痛みが走る。透視と追跡の目―過去視を同時に使っているからなのはすぐに気付いた。どちらかだけを使っているならこんなことは起きていないからだ。
「これくらいの痛みなら、せいぜい蚊にさされてかきむしった後の傷みたいなものね」
だが拷問のような死の螺旋を叩き込まれたルミナは、その程度の痛みは苦痛ではあるが大したものではない。彼女は文字通り首を切って殺したとしてもその痛みには平気で耐えれてしまうほどには耐性がついていた。
「っと、あれが材料ね。……粉?、小麦粉があるの?」
過去視は商人がパンを持って歩いていたように付随するものも見える。ハーフの巨人族……パン屋の職人だろうか?。右目には彼が粉を持ち出して焼いたりする様子が見えていた。
だがどうやら彼は職人であって仕入れ担当ではないようだ。そして過去を見ても数人と話しており、そのどれも仕入れてくるはずの小麦粉を持っていない。
「それじゃあこっちで」
職人が持っていた小麦粉の方へと注視する。過去視は何も人だけを視る魔術ではない、物も当然視ることができる。粉々にされたり、全く別の物になったりすればそこまでしか見れない魔術だ。
だが今回のように加工する人がいればそちらを視れば変わった元が見れる。そうして連続していくことで材料の原料まで追跡を可能とできる。
幻影となった小麦粉はふよふよと浮き、通りの北の方へと移動していく。ルミナもそれを追って移動を開始する。
今あたしがいるのが……南西のはずだから北西の方にあるはず。今が粉だからそれを精製するところだろう。そこまで行けばあと一歩だ。
再び歩くこと数分、人通りが少なくなってきた通りで幻影は扉の中へと消えていった。その家は何の変哲もない家だ。とても何か作業するようなところとは考えはつかないだろう。
「……魔術による精製か。妥当とは言えるけれど、非効率的ね。ドワーフの国では魔道具で自動的に作られる程度の物なのに。いえ、比較対象が悪すぎるわね。」
頭をブンブンと横に振り、比較していた考えを振り払う。基準が最先端では下の方を見るのが難しいとはこういうことだろう。
透視を使い、工房でやったことと同様に室内を覗き見る。予想通り、家政婦のような格好をした女魔術師がそこにはいた。
服装が非常に気になる。もしかして精製魔術を知られないための偽装だったりする?。だとすると即座に見破ったのはあちら側が知ってたら辱めに値することをしたのだけれど……。よし、見なかったことにしよう。
魔術師に過去視を当てると予想通りに小麦のようなものを扱っていた。小麦に魔術を込めた杖を叩くと粉状になり、それを袋に詰めていた。服装はそのためか、思い違いがすぐさま解決してよかった。
「あとはその小麦の出所を視せなさい」
ルミナは小麦に過去視の目を向ける。これが最後になると考えると少し興奮してくる。その先にあるのは災害から逃れられるかもしれない技術かと思うと胸の高まりが抑えきれない。
小麦の幻影は小麦粉の時と同様に浮き、通りへと出て行く。そして西にある門から出て北の方へと移動していった。
小麦の幻影を追い、ルミナは門の近くまでは移動してきた。が、門を出るとなると戻ってきた時が面倒になりかねない。身分証明の代理人のような人物がいた、ここまで来た時とは違うのだ。一人だけだとそれがない。
そのため門を透視で無視し、先に小麦の幻影を追ったのだった。
「あとはどうやって戻ってくるか」
門の方を見ると衛兵らしき獣人がいる。町に入ってくる人はそうそういないはずだから多分監視と、入ってくる人の検問する人だろう。魔力視で見てみるとそうであることがすぐに分かった。
「目に魔力が集中してる……。多分亜人特有の魔力を見てる。か、それとも魔力を記憶してるかのどっちかかな」
どちらも当人の技量によって正しいかどうか変わるが、検問の兵となれば役割が決められた人が寄越されるはず。となれば技量もそれ相応のものがあるはずだ。
そうなると問題はそのどちらなのか、ということだ。前者であればバレるだろうし、後者であればバレない。それなら一度立ち止まり、調査してから判断をする。いきなり博打に挑むのは愚か者のやることだ。
「特有の魔力、とするならあたしも見れるはず」
魔力視を行ったまま周囲の人通りを見渡す。まばらに亜人は歩いており、彼らから共通する魔力を予想するのは難しいが、できない程ではなさそうだ。
一時間ほどかかったが、おおよその検討をつけることができた。検証するための実験体が大量にいるならそこから最低限持ち得る要素を、五大種族のそれと比べればそれで解決だ。
「魔力には色がある。濃淡が彼らは薄めなのが共通だからそれを似せて……あと魔力総量、操作性の悪さを偽装。そこまでで十分でしょう。9割近い亜人と同等の特有魔力をしていればバレることはないでしょ」
十分に準備ができたので西の門から外へ出る。衛兵も一目向けるだけで、町から外へ出る分には何も言わずに通してくれた。
「ここから北の方……ってあれ?」
門から外に出たルミナが北の方へと目を向けると、そこには小麦の畑が一面に広がっていた。
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