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襲ったのは…誰?

裏設定がてんこもりな回。台詞どうしようか悩みまくった



それからというもの、ゆく道には障害物は一切なく、夕方には無事にドレの町が見えるところまで辿り着いた。

後は100mもないだろう。ようやく辿り着いたという表情をルミナ以外の全員がしていた。疲れもかなりきており、宿に泊まれば即座に眠りにつくほどだ。


だがそんな時、ルミナは気づいた。魔力操作の練習を変わらず行っていたからだろう、感覚が鋭敏になっていたのだ。


悪意は分からないものの、歪な視線を向けられていた。町の方でないことは分かったが、どちらの方向から向けられているのかは分からない。


「もう少しだし……エシータ、私が最後列になるよ。疲れが見えてるから、早く」

「え?。あ、ありがと。それじゃあ甘えさせてもらおうかな」


話していた時はどこか天然気味の強気な女性だったエシータも疲れているのだろう、素直に最後尾を譲ってくれた。

少しずつ5人と歩くペースを落とし、距離をとる。そして5人が町の入口……簡易的な門に辿り着くと同時に、それは来た。


「ゼル!」


後ろからかなりの魔力を……そして敵意を感じ取ったあたしはゼルを展開し、大槌の形にして振り向き叩きつける。


この形態のゼルの大きさはあたしの背丈を優に超える程だ。あたしを襲うなら十分に攻撃範囲に入れられる。そして当たれば振りぬいて吹き飛ばすだけだ。


しかしガギンッという音と共に、振り抜こうとしたゼルは止められた。


「っ!。冗談でしょ!?」

「……!」


あたしの膂力と拮抗し、敵対者は剣か何かをゼルにぶつけて力を競り合う。徐々にこちらが押しているものの、ゼルの大きさが災いしてあちらの姿が見えない。

魔力強化は十分にされているあたしと同等なんて……一体何者?


敵対者は不利とみたのか後方に跳んでゼルの振り抜きを回避した。そしてその姿がようやくルミナの瞳に映る。


「……人間?」


ゼルの形態を片手で振るえる程の大きさに変化させ、正面に敵対してきた相手を見据える。


あたしよりも少し大きい程度の身長、モデル女性のような体型、整っている顔立ちにそぐわない無感情というのが恐らく最も正しいであろう表情。長く波がたつような金色の髪。

そして両手に持つ片手剣……だがそこまで長くはない。刀身は50cmほどだろうか。剣というには短いが、短剣というには長すぎる。


「ドワーフ……いや違う。途轍もない力の化身、の災害。死んで」

「なっ!?」


聞く耳持たずに金髪の人間はルミナに襲い掛かる。容赦一切はなく、振るわれた剣にはただ純粋に殺意だけが孕まれていた。


「ひっ!」


ルミナは知識はあるとはいえ人の殺し合いは初めてである。だから分からなかった、向けられている殺意という概念を。


ガイカルドとは違う殺意だ。あの戦いは生存競争であり、そこにあるのは殺意ではなく生きようとする意志のぶつかり合いであり、どちらが生命の格が上なのかを争うものだった。


だがこれは違う。生きる意志のぶつかり合いなどではなく、生きさせない意志をただぶつけてくるだけだ。それは災害のように何もかもを破壊するなどでなく、明確に一人だけを殺しにくる。恐怖の指向性が全く別物となっていた。


恐怖の感情がルミナの身体を支配する。嫌だ、触れたくない、近づけさせたくない……そんな感情が頭の中をこだまする。


そして向かってくる金髪の人間に対して、ルミナはゼルを正面に振り下ろす。ゼルの大きさを自身の倍以上はある大きさに変えて、地面すら打ち抜かんという勢いの全力の力を使って。


「ああああああああ!!」


恐怖におびえるルミナが下したゼルは金髪の人間には当たらず、そのまま地面を打ち砕く。だがその威力は周囲へ強力な衝撃波を起こし、同時に地面に亀裂を起こし近くの地面を揺らした。


強力な衝撃波を避けるため咄嗟に飛びのいて回避を行う金髪の人間。そして地面が揺れたことでダイダクたち面倒屋がようやくそれに気づいた。


「はぁっ…はぁ……」


だが恐怖から抜け出すために無理やり放った一撃。身体のダメージはほとんどなくとも精神のダメージは身体が動けなくなるほどだった。

しかし向けられている殺意の大きさは変わらず、ルミナの目の前まで近づいてきていた。


「ルミナ!」


遠くからダイダクの声が聞こえる。けれどこの距離では……間に合わない。既にルミナを剣の間合いに入れた金髪の人間は、その殺す意志を刃に振るう。


「邪魔が入る前に」

「助け」


助けて、そう叫ぶことすらできずにルミナは死んだと、そう思った。目を瞑り現実から意識を背けた。


次の瞬間、ルミナの右目に紅い魔力が灯り、誰も気づけない程の速度で両足に魔力の強化がなされる。そして剣が届くより早くダイダクたちの方へと飛びのいた。


「なっ!?」


数瞬が過ぎたが、何も起きていないことにルミナは気づく。間違いなく首を撥ねられたはずが、何も起きずに過ぎていた。


「おいルミナ大丈夫か!?」

「え……?」


周りにはダイダクやリガードたちの姿。さっき襲ってきた人間は距離が離れたところにいる。まるで一瞬で移動したような、そんなことが起きていた。


「いきなり俺たちの方に跳んできたから驚いたぞ。だがあちらさんも相当に驚いているな。まだ表情が戻ってないぞ」

「魔術の準備はできたわ。いつでも攻撃できるわよ」

「こっちも全員に強化付与完了だよ」


茫然としていた金髪の人間はようやく表情を元に戻し、5人の方へと無造作に歩いていく。まるでそれが当たり前だというように自然体で。

そして10m程離れたところでダイダクから言葉と魔力で警告が走る。


「そこで止まれ。貴様何者だ?。何故ルミナを狙う?」


金髪の人間は警戒したのかピタリと止まる。その感情は相変わらず無表情のまま……のようだが、ほんの少しだけ眉をひそめていた。どこか困惑しているような、そんな様子だ。


「さっきの、一瞬、紅色の目……じゃ、ない?。わたし、ミグア。そのドワーフ、危ないから、殺さないと」


言葉が端的過ぎるが言いたいことは分からないでもない。彼女が亜人であればドワーフは危険だと考えるのは当然だろう。


「安心しな。俺たちが一緒にいたから問題はない」

「?。そうじゃ、ない。そのドワーフ、危ない。魔力とか、使い方とか」

「本人に問題はないぞ。暴走する使い方をするやつじゃない」

「そうじゃ、なくて……」


言いたいことが伝わっていないからか、ミグアは首を傾げて悩みだす。だが剣を収めていないところを見るに、まだ殺意は十分にあるようだ。


「わたし、たちの、邪魔になる。眠っていた子を、起こしたい?」

「災害を引き起こすってか。そんなの俺たちでさえいつ起きるか分からないんだ。誰かが起こしてもそいつにどうこう言うつもりはねぇよ」

「いい加減に問答は止めにしたら?。やる気がまるでしぼんでないわよ」

「……あ」


自分でも気づいていなかったのか、ミグアは溢れていた殺意を一瞬で収めた。持っていた二つの剣も腰に差していた鞘に収め、敵対する意思はないのだと示してきた。

そしてそんなことをされたら逆に疑うのは当たり前だ。


「……怪し過ぎるな。何者だ?、名前はミグアでいいのか?」

「ミグアで、いい。いちお、亜人?」

「一応?。……ハーフ、いえまさか……クォーター?。それも混血。人間にエルフに……フェアリーも?。ってことは目的は同じかしら?」

「そこの町、行きたかっただけ」


目的は同じだと、コクンと頷くミグア。表情は変わらず、まるで読めないままだ。

ファイネが予想するミグアの血筋はいろいろと混じっているようだ。混ざっていると各種族の長所や短所が弱まって反映される。それが良い方向に動くかは当人次第だ。


だがさっきの動き。ダイダクでもせいぜい時間稼ぎしかできないだろう、それほどの強さを持っている。ちゃんと動ければあたしがマトモに戦えるが、さっきみたいに殺意に魔力をのせてきた攻撃に耐えられるか分からない。


つまり今のあたしよりか強い。これほどに強い亜人がいるのだろうか?


「それじゃ、先に」


武器や魔術を構えているあたし達を横目に、無造作に自然体で町へと歩いていくミグア。さっきまでの変に悩んでいる様子は消えており、会った時と同じ無表情になっていた。しかし殺意は完全に無くなっており、まるで別人のようにすら感じられた。


「はぁ~……」


そんな変な人がいなくなったことでようやく気が抜けたと同時に腰が抜けた。人との殺し合いなんてしたことがないから当たり前だろう。ましてやあたしを殺せる人ともなれば恐怖は倍増だ。


「ルミナ、大丈夫か?」

「ん……。大丈夫だけど、立てない、かな」

「仕方ないわね」


ファイネが肩に担ぐように私を持ち上げる。そしてそのまま町の方へと歩き出す。どうやら町まで運んでくれるらしい。正直意外だ、そんなことをする人には見えなかったのだけれど。


あとダイダクやリガードが何か変な目を向けてきていたが、ファイネに先に取られたとかそんなことだろうから気にしないことにした。


「ファイネ、ありがと」

「はいはい。さっさと町へ入るわよ。宿は先に行かせたバイラジがとってるはずだし」


道のりの最後で予想外な変人に襲われるというハプニングがあり、あたしは完全にお荷物になってしまったが、無事ドレの町に入ることができたのだった。


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