ルミナの旅立ち
これにて一章は完結になります
バウル平野に一人のドワーフ女性の姿があった。
いや、それはドワーフに近いだけだった。ドワーフに比べて少し皮膚があざ黒く、尖った八重歯は従来落ち着きのあると言われるドワーフとは対極の獰猛性すら伺えた。
彼女が着ている服はドワーフの女性ルーナが着ていた服装…ではない。それらが半分ほど黒く染色され、両の二の腕に嵌められた二つの黒いバングルが太陽の光を反射するほどに煌めいている。
「密度を高める魔術…すごく難しかったな」
彼女―ルミナはあのあと残ったガイカルドの死骸を何かに使えないかと模索した。その結果が今の服装である。
ルーナが自らの服やバルとウルと造ったときのように、ガイカルドの死骸に魔術を行使して服装や装飾品が作れないかと試行錯誤したのだ。
結果は成功だった。だが本来であればルーナの知識があっても不可能なレベルの途轍もなく難しい魔術だ。ルミナの魔力操作はルーナの足元どころか一般レベルのドワーフにすら及ばないことからできなくても当然といえる。が、それがうまくいった。理由は簡単だった。
ルミナ…否、前身である瑠美の身体は一度ローヴルフへ、そしてガイカルドに取り込まれた。それ故にルミナの魔力を浸透させるのが非常に簡単になっていたのだ。
ルーナ達ドワーフが得意とする土への魔力浸透の比ではない。ドワーフ達は土に対して水のように浸透させる。ルミナも同様に死骸に対し水のようにじわりと少しずつ浸透させるはずだったが、死骸全体である数kmの巨体がほぼ一瞬で浸透しきったのだ。それもルミナがイメージすれば即座に形にできる程の浸透っぷりだ。ルミナはルーナの知識と経験を持つが故にそれはそれは驚いた。
ルーナの知識にあてはめるなら、脆い鉱石から精巧な武器を作る程度の魔力操作のはずが、土をこねて山をつくればいい程度になったというほどらしい。
しかしそれほどの浸透レベルなら拙い魔力操作能力のルミナでもこれくらいできるかもしれないとやってみたら、できてしまった。
それが今ルミナが着ている服と装飾品である。ゼㇽのように魔法機能は搭載されていないが、魔術レベルの機能は搭載されていた。
服はただ魔力総量が増加するだけではない。魔力操作のあらゆる補助を行うように魔術を刻んだ。これによりルーナが片手間でやっていたことを少しだけだが再現できるようになりつつある。
それは空を数歩駆ける程度であったり、多量の魔力を消費して鎧のように魔力を放出することであったりした。
いずれは不必要な魔術機能である。だが今のルミナには必須の機能だった。
バングルには死骸を圧縮に圧縮を重ねた結果、死骸を取り出せるような機能になった。魔力を込めれば込めた分の死骸が目の前にポンッと出てくるような魔術を搭載していた。死骸の量という限度はあるが、それも数兆トンを遥かに超える量だ。並みのドワーフの一生どころか、国を賄えるほどの量であり、ルミナ一人なら一生かけても食べられる量ではない。
長距離移動の際に最大の問題となる食料の問題はこのバングルを作ったことで解決した。だからこそルミナは旅に出ようとしていた。
自分を探す旅に。
「さて、準備はできた。まずはこの平野を抜けて…」
ルーナの知識を当てはめる。ドワーフの国へと向かうならザール平原を抜けた方が早い。だがその道にはヤクツート群山がある。そこはかつての災害獣の墓場…ではあるが、危険だと直感が警告を鳴らした。
それにルミナの目的は「あたしを取り戻すこと」であり、「ドワーフの国へ向かうこと」ではない。そして自らの直感に従った結果、バウル平野を抜けてテアマ盆地に向かった方がいいという判断を下した。
「ガイカルドにあたしがあったってことから多分ローヴルフにあたしがあったとして、あいつらは四方八方に逃げたはず。…3,4日での移動で力尽きたと思えないから今も逃げてるとすると、ドワーフの国どころかエルフや人間の国に辿り着いててもおかしくないか」
もちろんそんな簡単な話ではない。ローヴルフでもそこまで逃げられる実力がある個体など稀だろう。大概は既に野垂れ死んだか、災害獣に喰われたか。もしくは同格の魔物との戦いに敗れたといったところだろう。
それならそれで構わない。あたしを取り戻すためなら奪い、喰らい尽くしてやる。
「テアマ盆地なら距離的にあたしがいてもおかしくないか」
だいたい100kmほどだ、まずはそこへ向かう。大した距離ではないが、魔力操作能力を高めながらとなると二日から三日ほどはかかるだろう。
だがルミナは心から楽しんでいた。目的地には取り戻すべきものがある、自らを鍛えながら前へ進むことができるということが何より嬉しかった。
今のルミナは知らない―それがかつての絶望の真反対のことであることを。生を求め前に進もうと足掻き、縛られ、絶望の淵に沈んでいった。それと真逆のことゆえ希望に満ち溢れているなど知らないが故に、純粋に喜ぶことができた。
「さて、あたしを―返セてもらおうか」
彼女は笑う。人でもなく、ドワーフでもなく、レイスでもなく、魂喰らいでもなく、ルミナという存在として。
ルミナの旅は、まだ始まったばかり。
二章は構想はできてるので書き始めてますがいかんせん遅筆なもので…少なくとも一月以上は先かと
また気が向いたら読んで頂けると嬉しいです




