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眠るドワーフの神

全てを知っている傍観者は果たして加害者と言えるのか

「再現武装!」


ルミナの声がルーナの中に響く。竜の鎧がバングルに変わり、願いの槌が指輪へと変わる。

同時に熱線がルミナを襲った。完全に消滅させられるだけの熱量が込められた熱線はレドラード山を貫き空へと突き進む。『ルーナらしくない者を殺す』力を持った熱線は宇宙の果てまでとんでいく。

当たった存在は塵も残さず消え失せる。確実にそうなるはずの熱線の跡に、一人の影があった。


「間に合ったみたいね」


ルミナがそこにいた。ルーナのトラウマを再現することにより、オリジナルのルーナを自らに纏わせたのだ。

ルミナの再現武装はザディアスと違い、ルーナやガイードのトラウマも武装できる。そしてルーナのトラウマとは、『自らがオリジナルのルーナではないことを指摘されること』。最も刺激することはオリジナルのルーナが現れることであり、再現したのはそれだ。オリジナルのルーナを夢想するからこそできる再現だった。


ルミナはザディアスに言われ、レドラード山にある魂を見たら魂の繋がりを見つけたのだ。本来魂とは肉体から離れないもの。上位災害獣といった存在になれば話は変わるが、ルミナ達では理は適用下である。ならばとルミナは肉体に吸い寄せさせた。理から外れていた存在が再び理に入るのだ、光速どころの速度ではなかった。

しかしここにはそんなことさえも分かっていた者がいた。ルミナを呼び寄せる、それだけのために一撃を放った者が。

赤い羽根は嬉しそうな声色とパタパタとはためかせる羽をしてルミネへと声をかけた。


「あなたがルミナですね」


五大災厄や皇帝足る獣達は平行世界や他次元すら容易に干渉できる。近い未来予知など容易いもいいところだった。但し、ナーゼという神が関わらない範囲においてという言葉が枕詞につく。いくら五大災厄といっても、さらに上の存在には敵わないのだから。

赤い羽根はルミナがここに来ることを予知していた。だからこそ一撃を放ち、特異性を確かめたのだ。ルミナが、オリジナルのルーナと同じである特異性を。


「ええ、初めまして、赤い羽根。あたしを知っているの?」


当然だがルミナはルーナの事情を知らない。ルーナがルミナに奪われなかった唯一の記憶であり想いなのだ、魂喰らいとして覚醒しようとその事実に変わりはなかった。


「もちろん。ナーゼ様が全て知っていて、今の状況があるのですから」


ルミナに赤い羽根の言葉は理解できない。事情も何も知らないのだ、一つ一つ聞きたくて仕方が無かった。ルミナには全てを知る者がおり、仕組んだのだとしか聞こえなかった。実力差も知らずに問いただそうとしなかっただけ冷静とすら言えた。


「ナーゼ様?誰?」

「ルーナ様の夫にしてドワーフの神、ナーゼ=アス様です。私という宇宙を呑む災害を超えた、皇獣と呼ばれる存在。あらゆる空間に干渉できる頂点。あなたが知らないのは無理ありませんよ」


ルミナの疑問に赤い羽根は答える。ナーゼ=アス、この世界の頂点に君臨する絶対的上位者がルミナを今この状況に置いたのだと。五大種族どころか災害獣すらも軽く超える者達の頂点であり、神様なのだと。

そして、ルミナがどういった存在なのかも赤い羽根は答える。ルミナがほんの少し前に知った事実を。


「異世界の者よ」


ルミナは驚かない。ザディアスによる追体験で既に自身の正体についてそこだけは知っている。逆に、ルミナの正体を知っていて話す者は自らをこんな場所まで送り込んだ張本人に近しい者だとも言えた。

ルミナの視線が鋭くなる。例え相手が五大災厄と言えど、戦えば死ぬと言えど、目を背けるわけにはいかないのだ。


「知ってるのね。ってことは今のあたしがこうなってるのもあんたのせい?」

「貴方には何もしていませんよ。何もしていないから今の貴方がいるのです」


赤い羽根はルミナに何もしていない、何もしていないから今がある。赤い羽根がルミナに嘘を吐く理由もない、ルミナには真実だけが伝えられていた。

ルミナも感じ取っていた。迂遠な言い方が多いが、言っていることに嘘はないのだと。赤い羽根は、何もしていないのだと。

しかしそこから考えられることは簡単だ。何かやっている者がいるならば、赤い羽根ではなく赤い羽根に何か言ったやつだろうということだ。


「その…ナーゼって神様は?」


一番怪しいのは神様だ。ここに来て出てきたのは三人だけ、ルーナ、赤い羽根、神様だ。ルーナは何も話してくれない、赤い羽根は無関係、ともなれば神様に何かあるしか考えられない。

赤い羽根の返答は、ルミナの考えに合っていて間違っていた。


「ナーゼ様は恐らく知っていて何もしてません。それが悪いことなのかは貴方が決めることです」


知っているが放置している、それがナーゼというドワーフの神からの答えだった。

怪しいとしか言いようがない。知っていて干渉しないなら敵とも味方とも言えない。ドワーフの神というからにはドワーフには何か手を差し伸べるといったことをしてもいいだろう。

魂喰らいであるあたしには手を差し伸べないということだろうか?けれど、知っていることは間違いないみたいだ。


「……知っては、いるのね?あたしをこんな風にした元凶を」


胸に灯る暗い炎が油を注がれたように燃え上がる。

あたしには返セという本能がある。返セというのはローヴルフに対してだが、そもそも何故この世界にいるのか?という疑問があるのだ。異世界の者をここに送り込んだ者がおり、その上でローヴルフに奪われた。ならば送り込んだ者も報復として狙われても仕方ないことだ。

欲しい情報がそこにある。ルミナの顔が餌を目の前にした獣のように変わっていく。視線は鋭く、しかし口角を上げて笑い、涎を垂らす。野生に還ったかのような表情をしていた。


「ナーゼ様はあらゆる空間に干渉できます。それがたとえ未来でも、過去でも、現在でも。知ろうとすればあらゆる情報をナーゼ様は知っていることでしょう」


赤い羽根もルミナの表情に応える。情報という餌はルミナにとって美味しいものだった。

ナーゼに聞けば何でもわかる。アカシックレコードにアクセスするのと同じような全能感に手が届くとルミナが錯覚するのもおかしなことではなかった。


「どうすれば話せるの?」


だが、そこまでだった。


「ダメです」

「は?」


赤い羽根から拒絶の言葉が飛ぶ。理性であり、感情的な声色だった。

ルミナからすれば邪魔されたもいいところである。降ってわいた機会ではあるが、自らを追いやった元凶への近道。逃さないはずが無い。赤い羽根が明確な敵意を見せなければ再現武装にて攻撃することさえ考えていた。


「ナーゼ様は今眠りについておられる。邪魔をするのは許されません」


赤い羽根が魔力を漏らし地響きを鳴らす。余りにも容易に引き起こすのは、力が強大過ぎることを示している。ルミナでも魔力を全開にしても黒い魔力で大規模な竜巻が起きる程度であり、平常状態で地響きを鳴らすなど考えられない。

威嚇でありこれ以上手を伸ばせばマズい。直感するルミナだが、手の届く場所に手がかりがあるのだ。引き返すには惜し過ぎる。


「あたしが起こして」

「寝ずの番は、私です」


赤い羽根はピシャリとルミナの言葉を拒絶する。安眠のために護衛を置くことは仲間がいる者達ならば有って然るべきことだ。そこを攻撃するのは敵対することを意味する。

ここにきてルミナは伸ばしかけていた手を引いた。ここまでは譲歩されていたと言っていいのだ、余りにも行き過ぎるのは現状好意的な赤い羽根に悪い。


「……何か、事情があるのね?」


手を引いたルミナにホッとしたのか、赤い羽根はひらひらと背中を向ける。地響きも止み、さっきまでの雰囲気が帰ってきていた。

赤い羽根は代わりにと、自身の推測を話す。手を引いたことに対するせめてものお返しだったのかもしれない。


「言えません。ですが代わりに、これは私の推測ですが……エルフの女王、ヒューマンの国の神と貴方が話せば起きるかと」

「何故?」


逐一確認するルミナ。ルミナはナーゼについて何も知らないのだ、これからの目的をどうするか言われても理由が全く分からない。

赤い羽根も分かっているからか、天へと身体を向けながらルミナの疑問に答えた。


「彼らはルーナ様とナーゼ様の親友です。ルーナ様足り得る貴方が話せば起きる可能性は高い」


自身の親友と話して仲が良くなったから話したがる、感情的にはルミナにも分かることだった。赤い羽根といった上位者達にも似たようなものがあるのかもしれない。赤い羽根と話していたルミナが共感するのも自然なことだった。

一つルミナが忘れていることがあるとすれば、親友というのは関係性が対等であるということだろう。五大災厄や皇獣と対等であるということは、支配されない強さを持っていると言い換えてもいい。支配されないということは、少なくともルミナ達よりも遥かに上の上位者である。


ルミナは赤い羽根の情報に浮かれているため気づかない。ただ赤い羽根に感謝するだけだ。


「可能性があるなら十分。情報助かったわ」


赤い羽根は身体をルミナへと向き直る。ルミナがルーナ足り得るならばと、パタパタと嬉しそうに羽ばたかせ、目的を果たしたと言いたそうなルミナの前に浮かぶ。


「何よりです。……が、ルミナ様、貴方にも問いかけを一つしましょう」


さっきのルーナは問い掛け一つで絶望に落ち、マトモに話すことすらできなかった。数秒の時間が二人の間に流れる。赤い羽根は魔力も何も流さない、花畑の匂いも、マグマの気泡音もいつの間にか消えていた。ルーナの問いかけを行った時と同じように、周囲の音や匂いが消えて行っていた。


「ん?問いかけ?何?」


が、ルーナの時とは違いルミナはどこ吹く風といった様子だ。その姿だけで作られたルーナとは違うことを示しており、赤い羽根が興奮しながら問いかけるのも仕方ないことだった。



「貴方が貴方足り得るモノは何ですか?」



ルミナがルミナ足り得るモノは何か。赤い羽根の疑問はルミナのアイデンティティに根差したところにあるものだった。

何言ってんのか意味が分からない。あたしがあたしである理由なんて聞くようなものでもないし、ここにあたしがいるからではダメなのだろうか?いちいち言葉に出すとなるとちょっと考えることだけど、本心からの言葉を出せばそれで済むことだ。


「は?そんなの……、……!」


ルミナの目が見開き、言葉が止められる。視界の中に、ここに在るべきではない存在が入っていたからだ

赤い羽根の背後、花畑からふよふよと運ばれてきたそれら。何故ここにあるのかと問い詰めたい想いもあったが、それ以上に何故ここにあるのかという驚きの方が大きかった。


「え……何で……それを……」


そこには、()美の身体があった。右腕、いくつかの臓腑、骨、他の部位もいくつもある。

返セという本能が動かないのは赤い羽根が保護していたからなのか、それとも赤い羽根に気圧されているのかルミナには分からなかった。


「奪われた身体、一部だけですが……大事な臓器もあるようですね。変な狼がいたもので捕まえておきましたよ」


赤い羽根は持ってきた身体の方へ一度身体を向け、再度ルミナへと向き直る。まるでこれらを返して欲しければ答えろと言うような雰囲気を醸し出しながら、赤い羽根は再び問いかける。


「貴方が貴方足り得るモノは何ですか?」

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