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魂喰らいの力

ルミナ側に移ります。ここから場面転換多いのでご注意ください

意識が暗転し、気が付くと目の前にはザディアスがいた。顔には喜色が浮かんでおり、興奮している様子が隠せないようだ。


「お帰りなさい。私たちと一緒になれたみたいね」

「気分は最悪もいいところね」


追体験。なるほど体感している感覚は正しく追体験だったと叫んでいる。ただ感覚的に違うことが二つあった。

一つはここに帰ってきた時に追体験で奪われていたであろう記憶や存在そのものを取り戻したことだ。ここにいる理由も、ガイードと戦った時やマイマイと戦った時の記憶も。

そしてもう一つは追体験してきた記憶自体はなくなりつつあることだ。記憶自体は今はあるが夢のように消えて行っている。が、胸に灯る暗い炎や魂喰らいとしての本能が目を覚ましていることは感覚的に分かっていた。

胸の奥に手を当てれば、意識に返セという言葉と共に憤怒が如き感情が湧き上がる。何に対しての憤怒なのかも、そしてその噴き上がる感情の使い方も感覚的に理解できる。


「でも分かったでしょう?私たちがどんな種族なのか」

「ええ。今も胸に燃えてる暗い炎は消える気配なんて見えないわ」


これ自体が本来魂喰らいが持つべきもの。これを持っていなかったあたしは未熟としか言いようがなかった。それが今はよく分かる。コアのないゴーレムが勝手に行動してものんびりとした動きしかできないのと同じだ。コアが入り込み、力が動き始めたのが今のあたしだ。

ザディアスは興味深そうにルミナを見つめる。嬉しそうな表情と共に全身をくまなく見つめていた。


「暗い炎……面白い表現ね」

「それよりあたしは本来の力は身につけられたかしら?」


ザディアスが求めていたことだ。あたしに魂喰らいとしての力を、本来の力を手に入れさせること。達成できたのならザディアスはあたしを解放してくれるだろう。逆に達成できていないのなら、ここで一戦交えることになる。

ザディアスは呆れるような視線をルミナの瞳へと向ける。質問に答えることが馬鹿らしいと言っているようだった。


「アなたが一番分かっているでしょう?」

「……さてね」


顔をそらして誤魔化す。誤魔化し方が下手過ぎて、肯定しているとザディアスに告げているも同然だった。誤魔化したことにクスクスと笑うザディアスに腹が立つ。

笑いを少しずつ抑え、ルミナを見据えるザディアスは語り始めた。本来の力を手に入れる方法、本来の力とは何かを。


「本来の力を手に入れるには二種類の方法があるわ。一つは私たちのように、魂喰らいが奪われた時に、何かしらの手を伸ばす者……その魂や繋がりを喰らうこと」

「私、たち?」


コクリと頷くザディアス。瞳に光を灯しルミナへと視線を向ける。確かにそこには理性的な光が灯っていた。


「私にもアなたみたいな記憶があるの。そしてアまり話したくない、でしょう?」

「……」


ザディアスの瞳から光が消える。光を灯すルミナとは違い、本来の姿はこちらなのだと言いたいようだった。


「もう一つはディザイアのように奪われた時を自力で乗り越えること」

「は?」


ルミナから驚愕の声が上がる。方法は一つしかない上に死ぬか生きるかの選択でしか手に入れらない力のはずが、そうではないと言われたことにも等しいからだ。

微笑み顔になったザディアスは話を続ける。


「気づかなかったかしら?アれは追体験。魔力が使えない身体でも魔力を感じ取れたでしょう?」

「な……」


既に夢のような記憶となり消えつつあるものの、ザディアスが言っていることが理解できる程度に記憶はまだ残っていた。故にルミナにはザディアスの言葉が真実なのだと理解できてしまう。

ザディアスが言っていることは現在の力を過去に持ち込んで蹂躙しろということだ。今のあたしが過去に行っても魔力感知くらいしかできなかったことから、持ち込める力はそこまで大きくない。自力で乗り越えるレベルともなれば災害獣を倒せるくらいに強くなったとしても怪しい程だ。


「強大過ぎる力を持って追体験すれば体験そのものを改竄できる。自らの過去にケリをつける、という方法ね」

「何で、教えてくれなかったの?」


ザディアスが苦々しい顔をしながら告げる。むしろそちらの方が邪道なのだと暗に告げていた。


「恐ろしく疲弊する。加えて…当分の間は全力の一割も使えなくなる、さらに死にかける。回復に100年単位の時間がかかる。本来の力というのはそれくらい時間をかけないと手にできないの」

「あたしたちはズルして手にしたってとこ?」


ザディアスが首を横に振る。そんなわけはないと視線に力が込められていた。

ザディアス以外に本来の力に目覚めたのはディザイアだけと言っていた。過去に目覚めたものが存在しないというのなら魂喰らいという種族からすれば革新的な能力なのだろう。しかし革新的、というものには犠牲があるものだ。あたしには分からないが、ザディアスはそういった者を見てきたのかもしれない。


「そんな訳ない。力を手にするのに一本道なんてことはないわ。100の力が欲しいなら一人が100人いればいいのか、10人が10の力を掛け合わせるのか、いろんな方法がある。望んでいたモノを得るのに方法が違ければ苛立つかしら?」

「それは…」

「私たちは不本意であれども、本質的に望んでいるなら受け入れるでしょう?」


コクリと頷くルミナ。本意と言い切れない想いで記憶から繋がりの糸を喰らったのだ、否定などできはしない。ザディアスも同じ方法で本来の力を手にしたのであれば、気持ちは分かるのだろう。

あたしたちが同じ方法をとれることは…今なら分かる。ザディアスも同じ魂喰らいだけれど、あたしと似ている気がする。魂の形が近いとでもいうか、同じ立場にいたら同じことをしただろうってくらいには本質が近いのだ。

魂喰らいとなり魂の色とでもいうべきものが各人の胸に見えるようになった。その色彩があたしと近いこともあるかもしれない。


「ディザイアは本質的に望んでいても不本意なら受け入れなかった。それだけの違いよ、気にすることではないわ。……まぁ、器が小さいとも言うわね」

「気高い、ではないの?」

「気高さなんてこの世界では塵芥と同じモノ、貪欲に力を求めることこそがこの世界を生き抜く術。抗弁垂れて死ぬなら笑いものにする他ないでしょう」


フッと思わず笑ってしまう。ザディアスも釣られて笑っている。この世界に魂喰らいとして適応できてきたからなのか、正しいことしか言っていないことを二人には共有できていた。


「さて、それじゃアアなたの力を見せてもらおうかしら」

「え。あたしまだようやく掴んだくらいで」

「その姿が維持できている時点で力の使い方は分かっているはずよ」


指をさす先はルミナの両足。追体験する前とは違い、膝から先が見えなくなっていた。ザディアスの足と同じ見え方であり、ルミナが同じ種族になったことを外見からでも判断できるようになっていた。

ルミナは自覚も無しにその状態で身体を操っていた。人が反射で動かすのと同じようなものであり、能動的に動かそうとすることも問題ではない。

さらにルミナの記憶しているドワーフからの知識にある魂喰らいの姿は、上半身だけというものだった。そこから考えればルミナ、ザディアスは共に別の姿だ。つまり外見だけで別格の力を持っている魂喰らいなのだと分かるのだ。


「……本来の力、っていうのは」

「アなたが得たものを使えばいいだけ」


ルミナは拳を胸に当てる。暗い炎が燃え上がり、胸に当てる拳の周りの空間をほんの少しだけ歪ませる。


「魂喰らいの本来の力は、再現する力。アらゆる空間に自らの魂を浸透させ、かつて生き足掻いた時を自ら以外に体験させられる。それだけなら汎用性も低いように思える」


確かにそれだけなら格下殺しの一撃必殺の技を覚えただけだ。当てられれば強力だが、格上の災害獣であれば体験させようとしても弾かれるだろうし、当てられない敵も多いだろう。

しかし暗い炎を灯すルミナには分かる。これはそんな生易しい力じゃないと。そんなものより遥かに強力であり、魔力放出ができなかったルミナが求めていた力なのだと。


「でも自ら以外、っていうのは空間そのものであったり、魔力そのものにも適用できる。空間そのものに放つと精神なんてものがないんだから破壊されるし、魔力は無効化される」


拳の周りの空間の歪みが少しずつ大きくなっていく。ルミナにはこれが魂を浸透させることなのだと直感的に理解できた。拳の周りの空間を見つめるとこの空間ではない洞窟のような風景が見えた。


「今なら意味が分かるでしょう?」

「あんたが再現したからゼルは指輪に戻った。ルーナが宿っていても魂の浸透が来るなら自発的に戻るでしょうし、ルーナが一時的に離れていたなら無効化されて戻る」


頬に手を当て微笑みながら、コクリと頷くザディアス。ルミナは答えた現象から、ザディアスが初めから魂喰らいとして戦っていたことを今更ながら理解する。

これでは戦い方がなってない等と言われても仕方ないことだ。機会がないからできなかったという言い訳も、この世界においては準備不足とも言える。


「そしてあたしがいる空間に再現した……あたし以外の空間に。空間が一時的に割れた衝撃であたしは倒れた。で、合ってる?」


ルミナが人差し指を上に向けて指摘するも、ザディアスからの返答は首を横に振るというものだった。ルミナが失神したことだけは、ザディアスも予想外だったのだ。

理由は簡単なことだった。慕っている主人に従者が攻撃しようとするなら、従者は二の足を踏むのだ。


「最後は違うわ。アなたに再現したけど無効化されたの。何せ私の持ってるこれの本来の持ち主だし」

「それは……。え、何?」


ザディアスが瞳に光を灯し、その胸から白い光を取り出した。

ルミナには白い光が暗い炎と同質のものだと見ただけで分かった。だが分かったことはそれだけではない。白い光の奥には黒い髪が数本、光で守られるように浮かんでいた。ルミナの喰らった糸のようなものだろうと推測するも、それが何なのかを本能が理解した。


「髪の毛、それもほんの数本程度。でも誰のものか分かるでしょう?」

「あたしの」

「その通り」


()美の髪の毛が数本。一本抜きとったものではなく無残に刻まれた数本だ。そこでようやくルミナはディアインにあったルミナ自身は誰なのかを認識した。

ガイードの時は目そのものであり呑み込んだとしても素材として劇薬レベルだったから魂と融合した。今回のザディアスは魂喰らいという魂のエキスパートだった上に素材としてそこまで大したものではない。だからザディアスが取り込めている上に、ルミナの本能がそこまで刺激されなかった。身体が見えた今でもルミナの本能が叫んだり衝動的に行動しようとする気が起きていないことがルミナ自身に分かりやすく示していた。

もっとも、ルミナが反応しなかった理由はルミナだけが原因ではなかった。


「いくら魂喰らいとして上にいたとしても、別の理で動いている部分がアるなら干渉されるのも仕方のないこと。これを取り込んでいる以上、アなたに即死クラスの攻撃をしてもせいぜい気絶する程度ね」

「確かガイードもあたしを取り込んでいたけど、そんな容赦はなかった」

「私がアなたの方が本体だという認識を持っているからでしょう。関係性などどうでもいい獣なら関係なく攻撃できるわ」


魂喰らいであるザディアスはルミナの方が主人であると判断した。ルミナの身体を貰い受けているからだけではない。貰った身体の本体であるルミナが生き延びて強くなっていっていることを感知できていたからだった。

ルミナがそこまで欲していない身体だったこと、ザディアスも返してほしいなら返す程度の想いを抱いていたこと。それらによってルミナの本能は判断を下した、そこまで反応するようなことでもないと。


さらにザディアスの言葉はそれだけの意味に留まらない。言うなればルミナが主人でザディアスが従者のようなものなのだ。洞窟に入る前からマーキングされていた理由も、ここに来る前に悦楽の感覚さえあったことも、ザディアスがいるということだけで解決できるのだ。そしてもう一つ、戦いは起こしたが戦う気は無かったということだ


「戦う気はなかったってこと?」


クスリとザディアスは微笑む。主人を揶揄う従者にしては煽りが酷かったようにも思え、ルミナはぶすっとした顔をしてしまう。


「言ったでしょ?戦う意思はないって」


その言葉を皮切りに、ただでさえ黒い周囲の空間がさらに真っ黒に染まっていく。夜のような暗さが、ブラックホールを思わせる黒さへと沈んでいく。ザディアスが魂を浸透させ空間を侵食しているのがルミナには見えた。


「これが最後。アなたの力を私に試してみなさい。強弱の付け方、指向性、汎用性はかなりアる力よ。同じ魂喰らいは耐性が多少はある。私に力を示してみなさい」


少しずつルミナの知覚まで黒く染まっていく。そのまま押しつぶされればここに来た時同様に失神するのは目に見えていた。


「……分かった」


暗い炎を灯に、全身から周囲の空間へと浸透を始める。真っ黒な空間が元の夜のような帳へと少しずつ変わっていく。勢いは少しずつ増していき、地面が荒野のような姿へ変わっていっていた。

ルミナは本能の叫びをそのまま口に出す。それこそが本来の力を行使するキーであり、暗い炎を十全に使う言葉だった。


「あたしを返セ」


魂の浸食が空間へと走り、ルミナの周りに狼のような動物が幻視するようになる。が、浸食はそこで止まり再び真っ黒な空間へと色彩が変わりゆく。

ルミナの視線の先にある、ザディアスがいつの間にかキーを口にしていたのだ。浸食の影響で音が聞こえなかったためルミナには聞こえず、ザディアスが本気を出し始めたのだとルミナは判断した。


「…この程度?」

「もっと、煮え滾るような……っ!」


爆発させる想い。だけど最後の一線は■■の糸が引き留めてくれる。

だから、迷うな。突き進め。全てを受け入れて前へと進むことこそ、あたしなんだっー!


「む、これ……は……っ!?」


螺旋のようにルミナによる魂の空間浸食が進む。ザディアスからは螺旋の内部が見えない程に連続した浸食が行われており、数秒力を溜めなければ螺旋を上塗りするほどの空間浸食をすることはできないものだ。しかしザディアスはそんな手段はとらなかった。

ザディアスが手刀を作り、高速で螺旋へと切り込む。一点に集中させた空間浸食なら一瞬で終わる。間違っていない事実だが、ルミナがそこまで力が使えないという油断から生じた行動でもあった。

その油断を貫くように、ルミナの新たな牙は打ち抜く。


「喰らえ、牙よ」


ザディアスが切り込んだ瞬間、螺旋の中から狼の牙のような再現体がザディアスの左腕へと食らい付いた。さらにそのまま食い千切り、ザディアスの左腕を使えなくする程の傷を与えた。


「一部分だけの再現、見事」


真っ黒な空間は霧が晴れるように立ち消えた。ザディアスの姿と共に。

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