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ザディアス vs ルーナ&デルス

過去編が終わったので現在に戻りましょう。少し長めです


あと、この作品がなろうコン一次選考通りました。執筆記念にやってみるかくらいの感覚で応募してたので、すごい嬉しいです


まぁそれがこの作品続けるかとは話は別だがな!

ルミナが自らの過去を追体験していた頃、ルーナ達の戦闘は激化していた。


「面倒ね」


ザディアスから全方位に向けて濃密なドス黒い魔力が放たれる。触れれば燃えるような魔力の放出であり、洞窟を覆い尽くす程の規模だ。

ルーナはゼルを大槌形態に変え、盾のように魔力を纏わせて正面に構える。ゼルが願いに反応し、ルーナの少し後ろを中心に防壁が球体上に展開される。


「デルス、私の後ろに!」


ルーナの行動を察し、ルーナの防壁球の中へとデルスは即座に入り込む。直後、燃えるような魔力が防壁の外を駆け巡った。防壁球はピシリと音を立てたが、壊れる気配はない。

燃えるような魔力を詳細感知する二人は顔を険しくする。個人個人で魔力の色は違うのだが、色どころではない違和感を感じ取ったのだ。


「変な魔力を感じましたよ?」

「魂喰らい特有の魔力でしょ。おおかた魂干渉して現実干渉型の幻術でも見せる辺りじゃない?」


ルーナの予想は的中していた。魂喰らいの災害獣ザディアスが使う、最も特徴的な能力こそが再現する力だ。自らのトラウマを空間や生物を対象に再現し、魂を砕く力。歴戦の強者であるルーナやデルスと言えど、真正面から喰らえばただでは済まない。


「それはどうかしらね?」


ザディアスの攻撃は続く。魔力を手に集中させ、目の前に小さな魔法陣を展開する。そして魔力を剣の形へと展開し、魔法陣へと振り下ろす。

再現する魔力が込められた攻撃だが、再現は攻撃ではなく攻撃過程に込められていた。魔法陣へと叩き込まれた剣が、別の場所へと転移する再現だ。


「マズっ!?」


ルーナはゼルへと願いを込める。剣の転移先をゼルの上に指定し防御できるように。転移魔法はルーナも使える魔法だ、特性は当然知っている。一番の特性が転移先に転移妨害用の魔術を展開してなければ転移を防げないことも。

ゼルの願いにより転移がゼルの頭の上になり、防壁によって弾かれた。燃える魔力は放たれ続けていなかったため消えていき、防壁によって守るという願いが叶ったことで防壁が消えていく。

ルーナの守りが解けたことで防壁内がザディアスからも視認できるようになった。そこで攻撃一辺倒だったザディアスは一つの過ちに気づく。


「私もいるのですよ?」

「ぐっ!?」


デルスの攻撃は後ろから胴を薙ぐものだった。本来なら後ろにいる時点で気づけるはずのものが、気づくのが攻撃が当たったタイミングだった。

ザディアスは焦りから攻撃に振り過ぎていたという過ちを認識した。周囲を自身の魔力で満たしてしまうと、魔力を同化させる隠密系の魔術に引っ掛かりやすくなるのだ。いくら魂喰らい特有の魔力を扱っているといえど、相手は近衛デルス。同じにすることはできずとも、似せることはできるのだ。洞窟という場所で魔力を満たしたため、似ていたら気づけない失策をとっていた。


「厄介……ええ、本当に厄介ね」


そこまで気づいてようやくザディアスは焦りを取り払う。失策をとったのは事実だが、魂喰らいの災害獣としての力を発揮できる場所にもなったのだ。ならば必要経費と考えを切り捨てた。

深呼吸をしているザディアスをルーナは見逃さない。ゼルを構え、願いを込めてその場で振るう。


「お返しよ」

「な!?」


転移させゼルを直撃させる。ルーナからすれば転移すらも簡単にできるのだ。それも衝撃だけを転移させるというザディアスより困難な真似を行っていた。衝撃そのものを身体の内部に叩き込まれるも、ザディアスの魂喰らいの身体には衝撃は届いていない。込めた願いは転移させて衝撃波を振るうことだけであり、魔力を含めた攻撃ではなかったため無効化されたのだ。

しかし驚かせるという意味では十分に打撃を与えており、ザディアスの取り払った焦りがほんの少し戻ってきていた。


「憑依してないから随分と弱いわね?災害獣でも強くない部類だったかしら?」

「戯言はそれくらいにしてください。来ますよ」


ザディアスは両手を合わせ、満ち足りていた洞窟の魔力に干渉し、暗闇に帳を下す。魂喰らい特有の魔力で満たされた空間は景色さえも歪め始めていく。

即座にルーナはゼルを振り下ろす。今度は自らを転移させザディアスの懐に入り叩き込む形だ。


「させない!」


ルーナの第六感が警戒の鐘を鳴らしていた。止めなければ危険どころか、こちらが一方的に殺されかねない魔術を展開してくると察知したのだ。災害獣は自らの代名詞にすら近い、災害足る攻撃を有している。ここで放たれれば洞窟が崩れることすら考えられた。


「再現展開」


ゼルが直撃する瞬間、ザディアスの言葉が紡がれた。景色は暗転し、洞窟の光景が全く別の世界へと変わっていく。ザディアスの顔は喜悦に、ルーナの顔は悔しさにまみれていた。


「間に合わなかった……!」


ルーナ達は周囲を見回す。さっきまでいた洞窟とは明らかに違う空間だ。地面は綺麗に斬られた木でできており、遠くを見ようとするとぼやけて見えない。


「これは一体!?」


目には頼れないとデルスが魔力感知をしても、さながら腹の中に捕らえられたかのようだった。恐ろしく濃密な魂喰らいの魔力で満たされており、徐々に浸食してくるような気配すらあった。咄嗟に自らに魔力を服のように纏い、二人は浸食から身を守った。


「これでアなた達はまな板の上の鯉ね。暴れたければ暴れなさい」


ザディアスは二人をのぞき込むかのような巨人へと変貌していた。小指の指先一つで二人を押しつぶせるほどの巨体であり、外見にふさわしい威圧感や存在感も持っていた。

ただの幻術や魔力による偽装ではない。看破した二人が持つドワーフの知識は、ザディアスの魔力特性と展開した魔術からさらなる情報を導き出してくれた

そしてその知識とは、ドワーフの王達は、魔術を展開して災害以上の力を持つことができるというものだった。


「魔術展開型の災害獣、ここで殺さないとマズいわ」

「憑依はあくまで手段の一つというわけですか。脱出は?」


ルーナは魔力と願いをゼルに込め軽く振るうも、周囲に変化は何も起きない。願いを叶えるゼルと言えど限度はあるのだ。ゼルとルーナが認識する目の前の世界に存在し得ない願い、叶えることは不可能なことだった。


「ゼルでもダメね」

「これでどうかしら?」


ザディアスが包丁のようなモノを持ち出し、千に斬るかのような斬撃が降り注ぐ。一つでも当たれば致命傷な上、密度が明らかに避けられない範囲になっていた。

感知した斬撃は全て本物、ゼルの防壁ですら耐えられないとルーナは直感した。詰み、頭の中に諦めの言葉がよぎるがルーナの選択肢はまだあった。


「……賭けね。デルス、こっちに寄って。ガイード、私たちを守って」

「分かった」


展開されていたガイードの翼が二人を覆うように包み込む。隕石でも落ちたかのような衝撃と共に降り注いだ斬撃は、全てを翼へと吸い込まれていく。

翼は衝撃と斬撃を難なく受け止める。ガイードの顔もどこ吹く風と言わんばかりの表情だった。


「嘘、守り切った!?」


ザディアスの表情が驚愕に染まる。信じられないというのが口からも出ていた。

油断、それを感じ取ったルーナの視線が鋭く光る。ゼルが失敗した後のほんの数瞬で立てた仮説がガイードによって成立したのだ、次なる手を打てるようになっていた。


「賭けには勝ったようね。そしてこれで脱出も可能になった」


ガイードの黒い魔力がゼルへとなだれ込む。願いを叶える金色の槌が黒色の魔力光を帯びていく。

願いはデルスと魔力を完全に合わせること。使う魔力は武器であるガイードのもの。二つの力を比較したとき、魔力同士であっても他人であれば別種のものだ。別種の力を全く均等に合わせた魔術は魔法となり、魔術を遥かに凌駕する規模の力となって顕現する。

かつてルーナの魔力と生命力で使われた魔法という現象が、デルスとルーナによって放たれる。


「デルス!合わせなさい!」

「行きますよ!」


ルーナがゼルを掲げ、デルスへと手のひらを立てて向ける。デルスもまた応えるように手の平を向け、二人で祈りの両手を作り出す。一瞬だけ伝達魔術で伝えた魔法名が二人の口から告げられた。


「「塵魔法、ブレイク」」


バリンという音と共に世界が崩壊していく。景色がガラスのように割れ、割れた外には洞窟の風景が見えていた。

塵魔法、それはドワーフに伝わる秘奥の一つである。魔法自体が秘伝に近い扱いなのだが、秘奥とされる魔法には三つの種類があった。大地に干渉する星魔法、天に干渉する宙魔法、干渉という概念そのものに干渉する塵魔法である。炎魔法といった特化した魔法も存在するが、威力や特性が分かりやすく、魔術特性とほぼ同じであるため秘伝にしても隠されていないものだった。

塵魔法は使用者が観測できる概念であれば干渉し、破壊することができる魔法だ。使用者であるルーナには願いすら観測できず、デルスもまた同様であり干渉することすらできないはずだった。


「再現が解けた…?」

「魂干渉型なら簡単。干渉できないモノの能力はそのままなのだからそこから突破すればいい」


ここにいるのはルーナとデルス、ザディアスだけではない。ルミナが頼りにしているもう一つの存在がいるのだ。魂を武器の中に固定され、外界とは遮断されるほどの強固な力を持つ存在が。

別の世界という意味ではかつてマイマイの中という異界で戦う時と同じ、当時ルーナが平気でいた理由の一つがガイードだったのだ。


「魂が干渉できない場所にあればいい、ガイードは武器という本来なら魂などなく干渉できない物。さらに外界遮断すら行える災害の力を有している。魂が武器に宿るなんて矛盾してる、予想できたかしら?」


自信たっぷりの笑みをルーナはザディアスへと向ける。再現という切り札を破られたザディアスの力も弱まり、あとは詰将棋のように倒すだけだった。


「できなかったわ……。でも、自分の言葉くらい把握しておいた方がいいわよ?」


倒すだけのはずだった。災害獣が有する災害の代名詞という切り札を破ればあとは持久戦になるだけ。間違っていない思考回路がルーナを油断させた。


「何?……しまっ!?」


ゼルに込められていた黒色の魔力は消えていた。塵魔法を使ったことでゼルに込められた魔力は使い切っており、再びルーナが魔力を込めて扱わなければならない状態になっていた。

バングルにガイードが灯されているように、ゼルはルーナという魂が灯されている武器でもあった。しかし今、ルーナという灯はルーナの身体に移っている。ゼルは魂が抜け出ており矛盾も何もない武器となっていたが、魂が干渉できる武器にもなっていた。


遮断されていないなら、魂を干渉できる物なら、再現という形で干渉できる。それが魂喰らいの災害獣の力だ。


魂喰らいの魔力に憑りつかれ、地面に落ちようとするゼルを両手で食い止めるルーナ。全力をもってしても徐々に地面へと近づいていくのが止められていなかった。


「そこです」


ザディアスの視線が常にルーナに向いていたのを利用し、隠密して再び攻撃を仕掛けていたデルスの逆胴薙ぎが綺麗に決まり、ザディアスは洞窟の壁へと吹き飛ばされる。

魔力体であるにもかかわらず壁に激突し、ザディアスはダメージを負っていた。これこそ狙っていた状況だと、微笑みを崩さずに。


「ぐふっ……ゼル、そう言ったかしら?願いを叶える槌のようだけれど……それ、魂が抜けているような状態でしょう?それなら干渉できる」


ザディアスがルーナに人差し指を向け、そのまま下へと指を下した。ルーナは視線こそザディアスへ向けているもの、ゼルを止めるべくその場に留まざるを得なかった。

油断から焦りが起き、判断が一手遅れていた。本来のルーナなら危険は承知ですぐさま指輪に戻していただろう。指輪に戻していたとしても素手でルーナは戦え、指輪状態であればルミナかルーナ以外には扱うどころの話ではないのだから。


「指輪に戻」

「遅い」


ゼルが地面へと当たり、込められた願いが実行される。持ち主であるルーナは、込められていた願いが伝わっていたからこそ焦りが起きていた。切り札を破ったから油断し、そして本来伏せていた札を開示されたから焦っていたのだ。

込められていた願い、災害獣ザディアスの力を完全に使用可能な岩人形の作成という願いだった。壁に激突し洞窟の岩と接地しているザディアスの身体は、少しずつ作成される岩人形と一体化していく。岩人形作成と憑依が同時に行われ一体化しているように見えていた。願いが実行され、岩人形憑依されていく身体に威圧感と存在感が劇的に変化していっていた。


「この辺りの岩だけの人形。それでもこれほどになるのね」

「させません」


吹き飛ばしたデルスが追撃する。一気に踏み込み、魔鉄棒でザディアスの左腕を千切り飛ばした。まだ願いが実行されている最中であり、完全に岩人形憑依が終わっていない今に押し切るしかないと即座に判断したのだ。


「腕一本、安いものね」


岩人形憑依があと二秒ほどで終わる、魔力で感じ取ったルーナもデルス同様に判断を下す。ザディアスの憑依から解き放たれ、岩人形の完全破壊の願いを込めたゼルを、ルーナ自身がが転移魔法を使用して叩き込む。


「消し飛べ!」


洞窟が崩落する程のエネルギーを込められた衝撃がザディアスの身体へと叩き込まれた。魔力も纏われており、魔力体でも岩人形でも確実に破砕し、ザディアスを粉砕できる一撃だった。

しかしルーナの表情は険しい。原因は洞窟すら崩落させられなくさせられた目の前の存在にあった。


「アりがとう、ルーナ。アなたのお陰で身体が得られたわ」


右手でゼルを受け止める、岩人形に完全に憑依したザディアスの姿がそこにあった。

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