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時空よ歪め 狼よ喰らえ  その5

魂喰らいルミナの覚醒。誤字はないはずだよ

瞼を開く。感情もリセットされるのは分かっている。何もかも焼き尽くす程の怒りの炎は消え失せていた。


(倒れたまま……。前と同じ?いや、違う)


上半身を起こそうとするも身体が反応しない。鉛のような身体を動かすなどではなく。身体の感覚が失われていた。

まるで麻痺状態だ。そう思ったところで気づいた。


(前の時に吐息をかけられていたっけ)


初撃しか次のあたしに反映されないはずだった。しかしこの事実からするに、二撃目も……いや、任意で反映されるようになったのだろう。

既に無くしたのは左腕、口、右足だったはず。身体の感覚なんてものも無くされたとなると、それらを無くしたことすら確認することができない。


「guruuuu」

(畜生共め)


身体を動かすことができないルミナの目の前に再びローヴルフが現れる。現れた個体は木の棒を咥えていた。両端が槍のようになっており、ローヴルフが牙で削り作成したのはすぐに理解できた。

そしてそんなものを今になって持ち出した理由も検討はすぐについた。消え去ったはずの怒りの炎に油が注がれ、再び怒りの表情に染まっていく。


(串刺しにする気か!随分な念の入れようね!……ゼッタイニコロシテヤル。あたしを、返セ!!!)


ルミナはずるずると服の襟を咥えられて地面を動かされる。数秒もしないうちに移動は終わり、空中へと放り投げられた。


(どんな魂を喰らってでも貴様ら畜生共からあたしを返セさせてもらうぞ。全てを奪われようと、あたしを奪われようと、ゼッタイニ、アたしを)


憎しみと怒りの視線。それが最後にルミナが見せた瞳の色だった。彼女の散り際は、地面に突き刺さった槍のような木の棒に、股から首の後ろにかけて串刺しになっていた。




瞼を少しずつ開く。身体の感覚がない。串刺しの衝撃で即座に死に近づくのが分かる。

気がつく、それと同時に生命の火が消え、ぐったりと身体は眠りにつく。






目が、意識が重い。焼けつくような光が見え、身体は眠りから覚める。重い瞼を開き、目を開く。

目を開くとほぼ同時に身体の感覚が消え、命の所有権をなくす。









深い、深い海の底にいる。そんな身体の感覚がする。

このまま眠りについてしまえば、何もかも全て忘れられる。そんな感覚すら錯覚するほどの心地よさがした。感覚で分かる、ザディアスから助け舟でも出されているのだろう。このまま眠れば奴の思うつぼだ。


(起きろ)


自分自身に言い聞かせる。


(起きろ!!!)


眠ろうとする身体の魂に檄を飛ばし、少しずつ海から浮上していく。




重い、重い目を開く。物凄く時間が経った気もするが、一瞬だったようにも思える。


(これは!?)


目の前の光景は地獄絵図と言っても過言ではない光景だった。

ローヴルフの群れが現れており、吼え合う、舐め合う、毛づくろいし合うなどといった生態的行動を行っていた。

対してあたしの身体は1mmたりとも動かない。それどころかまるで自分自身の身体ではない、そんな違和感すら覚える。人の身体ではないような、そんな違和感を。


(串刺しにした時間で群れを呼んだか。……さてはあたしを恐れた?)


身体は地面に固定された木の槍で串刺しにされていた。股から首の後ろにかけての串刺しであり、死による事象改変が起きてなければ死んでいるものだ。

あたしが目を開いたのを視たのか、ローヴルフが一頭近づいてきた。その表情はにたりとした顔をして、もう逃がさないとでも言うかのようだ。


(こうなれば為す術はない、か。けど何をすればいいのかは分かる。その記憶はまだ残っている)


口を開いたローヴルフは左目にがぶりつき、ルミナから左の視界を消え失せさせた。


(怒りを燃やせ、やつらを根絶やしにする覚悟を、憎しみを絶やすな)


左目を喰われた。目だけなのかは分からないが、残っている感覚的には肉ごと抉られたようだった。

痛みなど関係ない。身体を千切られようが、目が見えなくなろうが、あたしの意思に変わりはない。燃やせ、魂を滾らせろ、ただただ強固足る意志はただ一つだけ、本能という意志だけだ。


血の匂いに気づいたのか、一瞬後にローヴルフの群れもルミナの方へと顔を向け、殺到した。


(どれだけの群れを呼んでも、数えきれない程だとしても……返セ、アタシを返セ)


魂喰らいとしての本能が叫びを上げる。返セという本能の叫びが、自身が魂を喰らう者であるという自己認識を経て自らの本能だとルミナは確実に認識した。

あたしは奪うものだ、喰らうものだ。あたしはあたしのために奪い、喰らう獣なのだ。それ以上でも以下でもない。ただ本能のままに奪われた憎しみを、怒りを解放して奪った者を魂ごと喰らうだけ。

別の世界から来た人間?生き足掻く?何もかもどうでもいい。あたしはあたしだ。例え災害が如き存在に堕ちようが、獣に成り果て彷徨うことになろうが、やることは変わらない。


あたしを―返セ。


(目覚めたようね。それこそが魂喰らいの本質。怒り、憎しみ、奪いたい喰らいたいという欲望、それらを絶やさないこと。同じ魂喰らい相手では本能を剥き出しにしないなんて餌になるようなもの。……ようこそ瑠美、私たちの世界へ)


顔面、眼前を埋め尽くすローヴルフの群れ。身体が動かないルミナは見ることしかできない。しかしルミナの魂は純粋な意志で構築され、尽きることのない怒りで満たされていた。

ザディアスからの思念も意識外になる程に。


(今のアなたは種族として目覚めただけ。本来の力はもう一つ先よ。でも安心なさい、あなたには■■(けいすけ)がいるんだから……)









ハッと目が覚める。瞼が重いなんてことはなく、清々しい目覚めだった。だが眼前の眺めは相も変わらず地獄絵図だった。

ローヴルフの群れ。前の時と変わっていない……どころか、数が増えている。どうやらあたしを恐れているという予想は真実だったらしい。


頭は冷静になっていたが、怒りの灯はまるで鎮火していない。まるでそれが在ってしかるべき姿なのだと言うように。


(……何か、変わった気がする)


正しく魂喰らいという種族に至ったことでルミナから[人間である]・[ドワーフである]という認識が消えた。魂喰らいの特徴である光を失った瞳がそれを裏付けていた、


(返セ。あたしを返セ。今は言葉にできないけど……)


ルミナの身体からどす黒い生命力が流れる。本来なら魔力が流れるはずの現象だが、魔力のない身体だったために生命力が流れるのだった。


「gaa……」


警戒しているのか、二頭のローヴルフが近づく。群れは離れ、何かを警戒しているようだ。

流れ出た生命力が探知してくれる。視界が閉ざされていてもローヴルフがどこにいるのか分かる。そこまで分かるからこそ、こんな身体が恨めしい。ルーナの身体なら、ガイードがいれば、ミグアの身体を扱えれば、どれか一つだけでもあればやつらを殺せるのに……届かない。


二頭のローヴルフが、ルミナからは一瞬としか知覚できない速度で左足と右腕を同時に喰い千切る。食い千切った後から流れる血がローヴルフを安心させたのか、群れが殺到する。半分となった視界で、ルミナは自らの身体が喰われていくのを瞳に映すことしかできなかった。








目が覚める。地獄絵図は変わらない。両手両足がなくなっていた。口と左目も。

もう恐れる必要はないと判断したのか、ローヴルフは躊躇なく口を開けて噛み砕く。鼻だった。

群れが襲い掛かる。視界が消えていく。








目が覚める。変わらない地獄絵図。両手両足がなくなっていた。口と左目、鼻も。

ローヴルフは口を開けて噛み砕く。右の脇腹に噛みついた。群れが襲い掛かる。視界が消えていく。








目が覚める。地獄絵図。両手両足がなくなっていた。口と左目、鼻も。身体も右脇腹がおかしい。

口を開けて噛み砕く。左の脇腹に噛みついた。腰が物理的に離れ、視界が消えていく。








目が覚める。地獄。両手両足がない。口と左目、鼻も。身体も下半身がおかしい。わき腹から下が物理的に離れていた。

一頭、口を開けて噛み砕く。離れていたお腹から下を一度に咀嚼する。さらにもう一頭が心臓を抉り取った。視界が消えていく。










目覚める。身体は……。

狼の群れが上半身を食い散らかす。視界はとっくに消えていた。







……身体を失っても、全てを奪われてもなお、怒りは消え去ることはない。返セ、あたしを返セ、たったそれだけの本能が魂喰らいとしてルミナをどこまでも在らせているのだった。







群れはルミナの身体を貪り食い散らかした。何度も何度も、喰らいつくすまで。

群れで襲ったのは彼らの生存本能だったのかもしれない。防衛本能だったのかもしれない。だが、明らかな脅威に見えたから襲ったのは間違いではなかった。


「garu!?」


そして脅威に見えたというのは……予想を遥かに超えて当たっていた。


「ruru!!??」

「gaaa!!」

「guuuuu!?」


喰らった個体、彼らによって群れは滅びに近づいていく。

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