ルーナvsザディアス
ルミナ側だと思った?残念!ルーナ側です
ルミナの身体は膝から崩れ落ち、地面に倒れ込む。ザディアスの目にはそう見えていた。それは間違いではなく、ルミナは確かに倒れ込んだ。
しかしルミナの身体は地面に膝が着いた瞬間、真正面から爆風を受けて吹き飛ばされるように動いてた。魔力で足場を作る方法の応用であり、ルミナにはできないはずの技術だった。
そして身体を動かすルミナの瞳には紅い灯が宿っていた。だがどこか精彩を欠く色合いであり、かつてキグンマイマイを討伐した時のような深紅のような色ではなかった。
さらに色が変わったことに呼応して纏うガイードの形状が変わる。ショートドレスのワンピースのような形状から、フォーマルなドレスに漆黒の翼と尻尾を生やした形状へと。
ルミナの身体を操る――ルーナ、そして呼応したガイード。彼らの表情には焦りが明らかに混じっていた。主人たるルミナが、目の前にいないザディアスに連れていかれたからだった。
「ガイード、ルミナがどこか分かる?」
「ルーナ、それは俺が分からないことを知っていて聞いているな?」
ガイードへの確認と、ザディアスへ我らがいるという存在を示すために言葉に出すルーナ。そしてその言葉はきちんとザディアスに届いていた。
「アらアら……アなた達がルミナに集ったモノ達かしら?」
余裕綽々という言葉が似合う言動にルーナ達は苛立ちを抑えない。ルーナ達が暴れれば確実にザディアスは粉砕できる。だがそれをしたらどこにいるか分からないルミナが戻れない可能性があった。
だからこそ今は情報を手に入れるための言動をとる。それがルーナ達の判断だった。
「否定はしないわ」
「ルミナをどこに連れて行った?」
ガイードの問いかける言葉に、ザディアスは一瞬だけ遠い目をする。それが何なのかルーナ達には分からなかったが、すぐに鋭い視線を向けてきたので油断を誘うためのフェイントと勘づく。
「安心なさい。私とアの子は同じモノ。傷つけるような真似はしないわ」
同じモノ。ルーナ達二人にはそれがどういう意味なのかなんとなく分かってしまう。二人には魂が繋がっているため、ルミナの本来の姿が今の姿ではないと分かっているのだ。
だからこそ、ザディアスに同じモノと言われてルミナがザディアスと同じ種族なのだと理解するのに時間はいらなかった。勘の鋭いルーナであれば戦う前から予想すらできていた。
「信用できるとでも?」
「できるでしょう?だって……アなた達はこうなると分かっていてルミナを送り出したのでしょう?」
ルーナは舌打ちをしたい気分を抑え込む。ザディアスの予想以上の小賢しさに、駆け引きをしなければならないと一瞬で判断したからだ。
そしてザディアスの指摘は当たってこそいなかったが、間違ってもいなかった。
ルーナ達二人はルミナが本来使うべき力が使えていないと無意識レベルでは考えていた。少なくともルーナの知識とガイードの力があって、シア程度に負けるなど到底考えられなかったからだ。ルミナの成長性や存在の特殊性があったから気にしていなかったが、もしそうでなければ種族的特性かもしれないと深層レベルの思考では考えていたのだ。
そしてそれが事実だったなら、本来の力を使うためには同じ種族と戦うのが一番いい。それがザディアスの言葉で分かってしまったがために、ルーナはとぼけるしかなかった。
「……さてね」
ザディアスの鋭い視線を向けられるルーナ達。視線から魔術展開される可能性からゼルを小槌形態に展開して精神対策を願っておく。
「集わせるモノが自身を知らないなんて滑稽もいいところ。アなた達も同じようなことを考えていたのでしょう?」
ルーナ達からルミナを侮辱するなと口から出そうになるも、歯ぎしりをするように無理やり押しとどめる。だが怒りの表情だけは隠しきれずに目つきが険しくなっていた。
「そうなったらいいわ、くらいにはね」
「我はそんなものどうでもいい。ルミナを返セ」
二人の言葉に顎に手を当てて考え込むザディアス。人の姿をした靄としか言いようがない姿だが、それでも動作から悩むという感情が垣間見えていた。
「そう簡単にはいかないわ。そうね……一時間以上は少なくともかかるでしょう」
一時間。それだけ分かればルーナ達には十分だった。ガイードから溢れる魔力が空間すら威圧するように展開されていく。それはかつてキグンマイマイを屠った時と同じかそれ以上の力を秘めていた。
「そう。それじゃあその時間の間に今目の前にいるあなたは潰すとしましょう」
ゼルを大槌形態に変化させ、その瞳に殺意を灯すルーナ。そこには災害が恐れる程の災害の姿があった。
「ルミナを無事に返さなくてもいいと?」
怯えるようなザディアスの声色にルーナはニヤリと猟奇的に笑う。卓越したルーナの魔力制御能力と、ドワーフ軍の高位軍人に匹敵する程になった身体。さらにガイードとゼルという、かつてのルーナ全盛期ですらそうそうなかった武器がある。
それはつまり複数の災害と戦ったとさえ言われる全盛期のルーナと同等程度の言っても過言ではないということ。さらに言えば、全盛期のルーナは魔力の感知といった基礎的技術を得意としていた。
それだけの性能は、ここまで時間さえ取れればルミナに何をされたかも予想がつくまでになっていた。
「いいえ。連れて行った分身個体は完全に独立分離しているでしょう?なら今のあなたは別物であり力を半分にしただけのモノ。潰せばルミナが帰ってきた時にあなたを潰すのにそこまで力は要らなくなる」
完全に解析され、ザディアスは驚きに目を見開くような動きをする。分身体を作成し、別の場所にルミナだけを分離させ連れていくという種族レベルの事象を、たったこれだけの時間で理解されるなど、信じられるものではなかった。
だが事実である以上、その信じられない程の存在に恐怖していた。魂を喰らう災害であっても、同等以上の存在には恐れを抱かずにはいられないのだ。
「……恐ろしいわ、アなた」
靄がかった身体から両手だけを綺麗な形に見せ、人指し指だけをルーナ達へと向ける。だがその指が震えているのが両者には見えていた。
「魔力制御という面では私を超える者はそうそういないの、例え災害獣だとしてもね」
ゼルを構え、その瞳にザディアスを映す。今から貴様を殺すという圧力が周囲にまき散らされ、ザディアスは1mmにも満たない程だが後ずさりしてしまっていた。
ザディアスの思考はルーナを捉え続けてどうやって戦うのか、逃げるのかという方へ向かっており、ルーナに視線を向け続ける。背ければ消滅するかもしれないという恐怖から逃げるために。
「なら」
「それに」
ザディアスの注意は今やルーナにのみ向いている。それこそが、ルーナ達の狙いであり、決めたことだった。
「……それに?」
強大な力を持つものが戦うためにやるべきことは、強大な力を他所に出さないことなのだ。それを知るからこそ役割というものを決めた。
「ドワーフを、舐めるな」
スッという音ならぬ音と共に周囲に広がっていた黒い渦が切り裂かれ、ザディアスの胴体に投げられてきた魔鉄棒が突き抜ける。まるでレーザーのように飛んできたそれにザディアスは気づくことすらできず、困惑と共に膝をつく。
「子供達は助け終わったぞ」
「遅すぎよ、デルス」
2分以上かかってながらも、一仕事終えたドワーフの近衛が助けにきたのだった。
ブックマーク、感想、評価あると嬉しいです




