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第0話 転生先は現代がいい


第0話 転生先は現代がいい


 ネット小説では異世界転生が流行っているという。しかし、実際転生させてもらえるなら現代がいい。そう思わないか? 中世ファンタジーのような命の危険があり、あらゆる不便の温床のような場所に転生したいなど、どうかしている。

 

 ということで、俺は転生先として現代を選択したのだ。

 

「おぉ―!」

「すげー!」

「どうなんってんだコレ!」


 チート?

 ランダムでもらえたぞ。

 この世界に転生して記憶が戻ったとき、つまり一週間ほど前の5歳誕生日にチートの内容も理解した。

 チート名は演算能力。

 これは結果を求めるのに必要な情報を入力すると、最適な結果を出力してくれる能力だ。四則演算はもちろん、必要な情報が揃ってさえいれば、なぞなぞやクロスゲームの答えなんかも出力してくれる。


「せんせー!」

「これやばいよー!」

「んー?どうしたのかなー?」


 他にも、出力の対象を肉体にすることも可能だ。

 例えば、ありえないくらい不安定に積み上がった積み木を持ち上げ、その下に更に積み木を挟み込むなどの精密機械じみたこともできる。


 このように。

 

「は?」


 幼稚園、蜂組の先生は呆然として積み木の塔を見上げていた。

 それは幼稚園児に積み上げることのできる高さではない。上に積み上げていくには圧倒的に身長が足らないのだ。それ以前に、積み木の頂点部分と頂点部分を接点として積み上げていくなぞ、職人芸もいいところだが。

 完璧にバランスを取れば、ゴルフボールの上にゴルフボールを乗せることができる、とは言うが、そのレベルの難易度だろう。


「えっと…………どうやったの?」


 先生は積み木を持ってその塔の根に座り込む俺に向かって問いかけた。

 まっとうな質問である。

 他に言うべきことがある気もするけど。


「次積むから見てて」


 そう言って俺は一つの積み木を塔の横に起き、両手で塔を持ち上げた。


「えぇ?」


 物理的に不可能ではない。塔は縦に20個の積み木が積み重なってできている。これくらいカゴに入っていれば、園児でも両手で持ち上げられる程度の重量だ。もちろん、ゴルフボールの上に19個のゴルフボールが載ってる状態で持ち上げるなぞ、人間業ではない。そのバランス感覚は精密機械に匹敵、あるいは凌駕することだろう。

 もちろん、この体は自分で動かしているのではない。俺はこのとき、自分の体の動きを演算能力の出力結果に任せている。入力した情報はこの積木の塔と隣の積み木の視覚情報や体感的な重量情報など。求めた結果は積み木を持ち上げ、隣の積み木の上に積み込む際に必要になる肉体の動作そのもの。

 

 そして俺の体は見事積み木の塔を持ち上げ、隣の積み木の上に積み込んでみせた。

 

「うわぁ……すご」


 三角錐の積み木の上に、直方体の積み木を一番下に持つ積み木の塔が積み上がったのを見て、再度先生が惚けた表情で呟いた。


「あー!

 あれスゲ-ぞ!」

「うああああ!」


 他の、林組の園児達が廊下から侵入して来た。どうやらこの塔を壊そうとしているようで、叫びながら突っ込んでくる。


 させるものかよ!


 俺は再度情報を入力。求めるは塔を持ち上げてあの園児の攻撃を回避する動きだ!


「はあああぁ!」

 

 俺もノリで叫びつつ、塔を持ち上げ、紙一重で突っ込んでくる園児の魔の手からゆっくりと逃れる。しかし、彼は尖兵。続く後続達の追撃を交わす動きを更に出力させるよう演算能力を起動するが……。


「ッ!」


 結果はエラー。


 俺の身体能力では物理的に不可能ということだろう。


 南無三。


「あ、危ない!」


 出力結果がエラーで次の動きを肉体に出力できなかった結果、棒立ちになっていた俺に園児が衝突。

 結果、起こったのは最大2m近いところからの積み木の散乱だ。


「きゃーー!」


 面白そうに囃し立てる声をバックに、俺は諦めなかった。一度積み木を離し、降ってくる一つ目を左手に、次を右手に取る。20個の内6個は頭より下にあったので手を離した時点で落ちていた。よって残りは14。内2つは今キャッチしたので残り12個。


 演算能力発動ッ!


 俺の体は倒れ込んだ園児たちの上に落ちてくる積み木を、手に持った積み木にぶつけていく。


「おぉ~」


 あまりの凄さに観客も開いた口が塞がらない。俺は最後の一つを積み木にぶつけた。その音を皮切りにゆっくりと観客に振り向き、見せつける。


 両手に7個ずつ連なる積み木の塔を。


「おー!」

「スゲー!」

「やべぇ!」

「コイツやべぇ!」


 称賛の声を浴びるのは気持ちがいいな。

 将来はサーカスをやるのもいいかもしれない。

 

「…………ッコォラアアアアァ!」


 先生の怒鳴り声はいつもより三割マシに大きかった。


=========================


「あーあ、怒られたー」

「男には、怒られると分かっていても、やらなければいけない時があるのだ」

「よくわかんないー」


 そう返すのは佐々木美宇、俺の家のお隣さんだ。危ないことをするとき以外は大体俺のとなりに引っ付いている。ちなみに積み木の時は、危ないのを察してそそくさと部屋の隅から事態を眺めていた。

 まだ幼稚園児なので長い文章は理解できなかったりする。


「バカにされてる気がするー」

「気のせいだ」


 勘のいいやつ。


「ねー、さいきんおかしーよー」

「うっ」


 前世の記憶が戻ったのは一週間前。一応これまでの記憶は持っているものの、人格は殆ど前世のモノだ。精神年齢の急激な上昇を、美宇が訝しむのも不思議ではない。


「前はここまでバカじゃなかったよー」

「バカじゃないし!」


 失礼な。能力を試すのは必要なことなのだ。その際、俺が楽しめる形で実験するのも当然のことだ。つまらない実験じゃあ集中力が落ちるからね! むしろ危ないまであるよね!


「やっぱバカだよぉ」

「さて、明日は何をするか」


 次の日、俺は遊具で体操選手ばりのアクロバティックを披露。筋肉痛で寝込むことになる。



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