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第七章  僕にできること

中国でひとりぼっちの妹を救いたいと強く思っています。

 目が覚めて、頭がはっきりとした僕は、自分のすべきこと、できることを整理した。

 アァシイーからもらった紙切れを取り出した。『 致死性家族性不眠症   Fatal Familial Insomnia 』と書かれている。まず、これについて調べた。

 この病気は、実在した。遺伝性があり、男女差はなく、中年以降に多く発症し、重度の不眠症となり、精神機能が悪化し運動障害がおこる。発症後の余命は多くの場合二年以内。早ければ、数ヶ月で悶絶しながら死に至る。治療法はない。この家系に属していても発症していない人もたくさんいる。一方で、若くして死亡した例もあり、僕とアァシイーが持たされている爆弾がいつカウントダウンを開始するのか、まったくわからない。絶望的な気分だった。

 僕はまだ20歳で、結婚のことなんて、ずっと先だけどいつかするんだろうな、、くらいの考えしかなかった。しかし、この病気のことを知った今では、とても前向きな気持ちにはなれなかった。

 そして、両親を思った。どんな気持ちで、どんな覚悟で、こどもを持とうと決心したのだろうか。


 なんとしてもアァシイーを日本に呼び寄せたいと思った。参考になりそうなものを読み漁った。黒孩子(ヘイハイツ)が戸籍を得る方法はないのか。探しても、探しても、なかった。大学で、全く面識のない中国語の教授の部屋も訪ね、中国国内で無国籍のこどもがどうなっているのかも教えてもらった。中国人の両親が揃っていても、この問題は解決されないのだ。中国の制度上、不可能なのだ。よほどの重要な地位に()いた人物が例外的にしかできないことなのだ。

 それならばと、僕はアァシイーを日本に密入国させられないかと考えた。そして、蛇頭(じゃとう)という組織の存在を知った。スネークヘッドとも呼ばれる中国福建省を拠点とする密航請負組織。()しくもアァシイーが住むのも福建省だ。密航費用は一人300万円から400万円で、日本まで船で運ぶという。そのくらいのお金なら祖父母に相談すれば何とかなりそうだ。密入国後は、日本人の戸籍を別料金で買い、日本人になりすまして暮らす者もいるという。やってみたい。

 しかし、だからといって日本の一介の大学生が、通訳を雇い、チャイニーズマフィアの事務所のインターホンを押して、仕事を依頼できるのか?とても現実的とは思えなかった。僕もアァシイーも二人揃って誘拐され、人身売買や臓器売買される可能性も多いにあった。密入国に失敗し、日本や中国の警察に逮捕される可能性も高い。アァシイーを今以上に不幸な境遇に落とすことは絶対にできない。危険過ぎる賭けだ。

 打つ手がなかった。時間だけが過ぎていった。しかし僕はあきらめたわけではなかった。


お読みいただきありがとうございました。

ぜひ続きもご覧ください。

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