第十章 妹、夢で語る
主人公と妹は、夢でつながります。
「ニト」夢の中で僕を呼ぶ小さな声が聞こえる。目の前にアァシイーがいる。
「アァシイー」
「ごめん」
「謝っても許さないよ。帰ってきて」
「ごめん。できない。私、発病した。時間がなかった」
「致死性家族性不眠症が?」
「そう。しなければならないことがあった」
「それが、それが、たった一人で死ぬことだって言うのか」
「そう決めていた」
「僕がいるじゃないか!?」
「ニトは哥哥。でも中国を知らなすぎる」
そして夢の中で、いつしか僕はアァシイーになっていた。アァシイーの目線で過去をなぞる。
日々眠れなくなってきた。体に異常が感じられた。筋肉が引きつって、体がこわばり、力が入らなかった。目が疲れて、ものが二重に見えた。脈が速くなり、呼吸は荒くなり、発熱し、汗や涙が出た。やる気が失われていき、やり遂げるには準備を急ぐ必要があると感じた。爸爸にこれらの症状が出現してから間もなく動けなくなったからだ。爸爸は人事不省になっても、両手は作陶する仕草を繰り返していた。そうだ、泥土から宝玉を作り出した両親の遺志を守らなければならない。この身も自分で守らなければ、誰も守ってくれない。たとえ道端で倒れて死んだとしても誰が葬ってくれるだろう。村人は見て見ぬ振りで、遺体は野犬とカラスに食い散らかされるのがおちだ。私の遺体に土をかけてくれる人はいない。両親の作陶の痕跡も資産も完全に隠し通さなければならない。決して奪われてはいけない。爸爸が亡くなったとき、曜変天目茶碗を作り出した証拠を一切残さないように、媽媽と二人で注意深く廃棄していったが、まだ他人に不審に思われる点が残ってないか、何度も考えなおした。そして後始末を全てを済ませたとき、もう両親の墓まで歩く力は残っていなかった。もう一度だけ両親の顔を見たかったのだが。長年墓守をするはずの私が何度も地下を見て辛くならないように、両親に防腐処理を施したのに、その意味はあまりなかったな。いや、ニトがいる。ニトのためにやっておいてよかった。小屋には家族写真の一枚すらないのだから。窯に火が回るように準備をする。媽媽が残してくれたお金も、ニトが書き残した日本の連絡先も窯に入れる。最後に自分が窯に入り、一番奥の壁にもたれる。やり遂げたことに満足して安心する。点火して、媽媽が飲んだのと同じ毒を飲む。何も見えなくなる。何も感じなくなる。私の肉体は燃焼した。
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