第八話 イルージ村散歩
本日二話目です。
村の中をうろうろと散歩する。外国に旅行するどころか、国内でさえろくに遠出したことの無い巧亜は、見るもの全てが珍しく、テンションは振り切れまくるのであった。
あれは何だろう、これは何だろうと子供のようにアイリスに訊ねていく。
アイリスもその一つ一つに丁寧に答えていく。
村の中心部に差し掛かると、そこは広場のようになっており、荷馬車が止まっていた。その周りには人が集まっていた。
覗き込んでみると、どうやら行商人のようだ。
色んな品物が置いて有り、村人と行商人があれこれ、話し合っている。商談中のようでかなり村人が値切っている。
また荷馬車に荷物を積み込む者と、それを監督してるのか、どっしりした中年の男が構えて立っていた。
中年の男が巧亜に気づいたのか話し掛けてくる。
「見かけない子だな。村にはいつ来たんだ?」
「こんにちは。着いたのはつい先程ですよ。宿屋に荷物を置いて少し村の中を散策させて頂いてます」
「ありゃ、礼儀正しい子だな。親と一緒かい?」
「いえいえ、気ままな一人旅ですよ。」
「そいつは若いのに大したもんだ!お前さんを見るに成人してもいないだろうに」
第一村人や、宿屋の女将さんがなにがしか思っていたのはこれかと、巧亜の童顔を見て成人前だと思われているんだと気付いた。
「こう見えて、とっくに成人してるんですよー」
と、愛想笑いしながら答える。
「成人してるのかい、それはすまなかったな。ま、若く見えるのは良いことだ」
と、そこへ荷物を積み込んでいた男が中年男に声をかける。
「村長、荷物は粗方積み終わりましたぜ」
「あ、村長さんだったのですか。初めまして、旅人の巧亜と言います。
ここは良い村ですねぇ。なんか雰囲気が良くてほっとするというか」
「お、嬉しいこと言ってくれるねぇ。そうだ、私が村長をやってるリマオと言うんだ。よろしくな
仕事の邪魔をしては悪いと話を中断し、お暇させてもらう。
村の北側に向かうと立派な葡萄畑が見えてきた。
ここから西にぐるっと廻って帰るかと進路を決めさらに歩くと川辺に出た。
川辺では村の子だろうか、数人で遊んでいる姿が見える。
「お、誰だあやしいやつめー」
子供達に見つかるや否や、巧亜に群がってくる。
異世界でも他所の子供は俺に寄ってくるんだなと、少し懐かしかった。
巧亜にはかつて一姫二太郎の子供がいて、下の子の保育園に迎えに行く度に園児がやってきて相手をさせられていた。
ひとしきり子供達と遊ぶと日も暮れ始めてきたので全員で帰る。
どうやら宿屋の子が居たらしく、何故か手を繋いで仲良く帰宅した。
「あれ?ミーシャ、お客さんと一緒に居たのかい?」
「川の方まで散歩してたら子供達に見つかっちゃいまして……」
「それで相手させられてたのかい、災難だったね。村の子はあんまし物怖じしないから、大変だったろ?あ、食事はもう出来てるから早いとこ食べとくれ」
飯の時間にはまだ少し早いよなぁ、とは思うが子供達と遊んで、結構お腹は空いているので、まぁ良いかと酒場兼食堂で夕飯を食べることにする。
出された料理は、豆と茸と何かの干し肉を少し癖の有るミルクで煮込んだシチューみたいな汁物と、定番の固いパンに薄めた葡萄酒だった。
「なんていうか素朴な味がするけど美味しいわ」
薄味が好みなので勢いよく食べていく。すると、
「素朴なんて言うからカチンときたけど、その食べっ振り見てたら怒る気も無くなっちゃったわ」
さっきから忙しそうに給仕をしていた女の子がいつの間にか近くに居り、巧亜に話し掛けてきた。
「ごめんね、言い方が悪かったかな。ホントに美味しいと思ってるよ」
「ううん、美味しそうに食べてくれてるから、いいよ」
と女の子はケラケラと笑う。
「今日、妹と一緒に帰ってきた子って君なんだってね。妹の面倒みてくれてありがとう」
「ミーシャちゃんのこと?なら俺だよ」
「そうそう、あたしはあの子の姉でマーシャって言うの。よろしくね」
給仕の仕事に慣れているのだろう、少し話すと仕事に戻り、時々話しかけてくる。
てきぱきと働く姿は眺めていて、気持ちが良い。葡萄酒を飲みながらまったりしていると、客の一人が話し掛けてきた。
「飲んでるかい、旅の兄ちゃん。どうだい?この村は良いとこだろう?」
「そうですね。なんかホッとする感じがしするので住んじゃいたいくらいですよ」
「お~、言ってくれるねぇ~。マーシャちゃん、この兄ちゃんにお代わりあげてくれ」
恐縮して断ったのだが、遠慮はいらないと半ば無理やり飲まされた。すると他の客、といってもほぼ村人だが、もっと飲みねぇ、あれ食いねぇと、つまみまでどんどんと巧亜のテーブルに置いていかれる。
「色々ありがとうございます。頂いてばかりじゃアレなんで、少し待ってて下さい。ここに来る途中で狩った、猪の肉が有るんですよ」
お礼にアイテムBox内に有る大猪の肉を自身の部屋へ取りに行く振りをする。
大きめの葉でくるんであった肉を女将さんに持って行く。
「これ、すみませんがみなさんに振る舞ってあげてください」
一気に酒場は大宴会場となった。
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