第十三話 虎と馬
お待たせしました。
少し短いですが投下します。
「マーシャ、ちょっと相談があるんだけど……」
巧亜は夜、マーシャの部屋で体を拭いてもらっている時に話を切り出す。
「何?相談って」
マーシャは、たらいに浸けたタオルを絞りながら話を促す。まるで長年寄り添った夫婦みたいに、自然な感じで。
「そろそろ旅を再開しようかと思ってんだけど……」
「そっか、行っちゃうんだ……別にあたしに相談なんて要らなくない?コーアは自由な旅人なんだから」
「そんな言い方は無くないか?マーシャとこうなって俺、色々考えてるのにさぁ」
不機嫌になってトゲの有る返事を返すマーシャに対し、巧亜も食って掛かる。
「考えてるって何よ!あたしは責任取れとか一度も言った事無いし!」
「責任なんて言われて取るようなもんじゃないだろ」
「じゃ、何を考えてるって言うのよ!」
「例えば旅を止めて、此処に残る。そしてマーシャと……マーシャと……オェ」
結婚する。と続けたかったが、その言葉を発しようとすると吐き気を催した。慌ててたらいに近づき、中に込み上げてきたモノをぶちまけてしまう。
「え?ちょっとコーアどうしたの!大丈夫?」
マーシャが心配して巧亜の背中を摩る中、巧亜は思った。
(結婚する?俺が?誰と?あ、マーシャとか……結婚……それでまた捨てられるのか……うっ、また、吐き気が……)
考えれば考えるほど吐き気が増し、身体が震え、そして混乱していく。
暫くして、ある程度落ち着いてからマーシャと向かい合う。
「ごめん、もう大丈夫」
心配するマーシャに優しく言葉をかける。
「どうしたの?ホントに大丈夫?あたしのせい?」
「いや、マーシャが悪い訳じゃないよ」
(え?なにこれ?結婚とか考えると吐き気するやん。マジでこれもしかしてトラウマってやつ?)
巧亜は自分のこの反応を、一方的に捨てられた事によるトラウマになってるのでは、と考えた。
元の世界での有無を云わさぬ離婚、そして一切の物理的な接触の遮断は、巧亜の心に深い傷を残していたのだ。
心配するマーシャに教えてやりたいが、本当の事を話す訳にもいかない。だから少しボカして話すことにした。
「俺さ、実は家族に捨てられたんだよね。だからかな、家族とか結婚って言葉に変な反応を起こすみたい。自分でも知らなかったわ」
苦笑しながら、所帯を持っていたとかは言わず、言葉を濁して話せる分だけ話す。いつの間にか涙が零れていた。
家族に捨てられたという話を聞いてマーシャはショックを受けるが、それよりも巧亜が心配だった。
「いいよ、何も言わないで良いの。あたしの話を聞いて」
マーシャがゆっくりと静かに巧亜に語りかける。
「この村ではね、巧亜みたいな旅をしてる人から子種を貰ったりするけど、その人の負担に成らないように、その後のことは求めないようにしてるの。だから巧亜はあたしの事を重く考えなくていいの」
巧亜はマーシャの話をただ静かに聞いていた。
マーシャは思う。
何時からだろう?ただの客でしかなかった巧亜のことを意識するようになったのは。
ミーシャを連れて宿に戻ってきた時?宿のご飯を美味しそうに食べているのを見た時?
それとも、毎晩の様に巧亜の部屋で楽しく会話していた時だろうか。
数少ない同年代の友達や、若くして夫を失った未亡人が、巧亜を狙っていると耳にした時、自分の心が酷くざわついたのを覚えている。
負けたくなかった。取られたくないと思った。この時には既に、巧亜の事を好きなんだと気付いていた。
夜を共にした時、巧亜がうなされていたり、眠りながらうっすらと涙していたのを見た日も有った。
マーシャはそっと巧亜を抱き締めながら、子供をあやすかのように頭を撫でる。
巧亜を今、慰めて癒せるのは自分だけなんだと思う。
そして、正直な気持ちを吐露する。
「そりゃ、このまま居てくれたらって思うよ。でもコーアはもっと色んな所を旅したいって話してくれたじゃん。あたしはコーアに色んな所を旅して欲しい」
好きだから。そんな想いを込めながら……
「あたしの事を忘れないでくれたらそれでいいの」
マーシャに抱き締められながら、何時しか巧亜は眠りについていく。
意識が闇に溶け込む直前、少しだけ。ほんの少しだけ、心の中の何かが軽くなった様な気がした。
「俺、ちょっとダンジョン見てくるわ」
次の日、朝食を食べた後に軽くそう言って巧亜は、イルージ村を出ていった。
次話は12/16 更新予定です。
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