第十話 巧亜のモヤモヤと新たな来訪者
「ゆうべはお楽しみでしたね」
朝食を取ろうと酒場兼食堂に降りると開口一番に女将さんが言ってきた。
「ブルータス、お前もか」
(なんだよ、すっかりバレてるやん)
「え?ブル……何だって??」
怪訝そうに聞き返してくる。
「あ、いや何でも無いです。」
「マーシャはどうしてんだい?まだ寝てんのかい?」
「あ、はい。俺の部屋で寝てます」
「いきなりこんなことになって、あんたもびっくりだろうね」
「いや、まぁそうですね」
「あんた、若いのにわざわざ旅をしてるなんて、色々有るんだろう。だからここにいる間だけでも優しくしてやっておくれ」
巧亜に返事をさせない様に、そう言い捨てると女将は厨房に戻って行った。
朝食を食べ終わり部屋に戻る。
まだ寝ていたマーシャを起こす。
「やだ、寝坊しちゃった……」
慌てて服を着ると、また後でね。と言葉を残し、部屋を出ていった。
そんな彼女を見送った巧亜は、ベッドに腰掛け、色々と考え込んでしまう。
「どうしたもんかなぁ」
《何がでしょうか?》
「マーシャとのことだよ。女将さんも何か意味深なこと言うし」
《私には解りかねます》
「つか、展開早すぎないか。まだ出会って一週間だぞ」
《昨日話されてた通り、小さな村では良く有る事だと記録されています》
「それは昔の日本でもあった話だから、頭では解るんだけど……」
《新しい血を入れたいだけの話なら、誰かが選ばれる、というだけの話で早い遅いは関係無いのでは?》
「あぁ~、俺が頭に色恋を入れて考えてるんだな。だから展開がどうとか気になってんだ。あ、そういや好きとか言われてないわ」
《マーシャ様が取られたくないとおっしゃっていたのは色恋の話では?》
「だよね~、少しは気が有るよね。それを踏まえると展開早いのは頷けるわ」
アイリスが話に付き合ってくれるので、自分の考えが纏まっていく。ゴロンとベッドに寝そべり、話を続ける。
「多分、俺が一番気にしてるのは、暗に責任取らなくて良い、って言われてることだわ」
《種馬扱いされるのが嫌、というわけですね》
「それもあるし、ヤリ捨てなんて俺が嫌やわ。勝手に俺は残らないって思われてるわけだろ?」
《確かに新しい血を入れる時は、村の一員に迎える場合も有りますね》
「残らないって思われてるのか、向こうが残らせたくないって思ってるのかは解らんけど……」
「勝手に決められてんのが、気に入らんわ。あ~、なんか腹立ってきた」
かつて一方的に離婚され、逃げられた事がトラウマになってしまっている様だ。
異世界に来てしまったことで、巧亜にはもう元妻との和解や、子供達に会うことはできないのだから。
《やっぱり私には解りかねます》
昼を過ぎても、巧亜は一人感情を持て余し、外に出かける気も起きず、部屋を出ずに居た。
ミーシャが遊んで欲しそうに部屋に来たので、構ってあげる事にする。
今日も平和な村に、板金鎧を身に纏った者が馬で現れた。
その者は村に入ると馬の速度を常歩に変え、声を上げる。
「先触れである、村長は何処か?」
何者かの遣いであるようだ。声を聞いた村人は慌てて村長を呼びに行く。
「騎士様、村の者から先触れとお伺いしましたが?」
急いでやって来た村長が騎士に訊ねる。
「始祖竜討伐の為、数刻の後に討伐隊が村を訪れる。滞在の準備をせよ!」
騎士はそう言い放つと討伐隊に戻るのか、馬で駆けて行った。
「久々に来たのぅ、討伐隊。」
「今度はどこの貴族様かね~」
「どうせ神竜さまの討伐なんて出来っこないのにな」
「「そうだよなぁ」」
自分達の守り神と考えている村人達の反応は冷やかだ。
しかも過去、多くの討伐隊や、冒険者らが挑んでも討伐出来なかったのだから。
倒すことなんて出来ない、と考えても仕方がないのかも知れない。
「取りあえず私が宿屋に知らせに行こう。一番偉い方は、私の家に泊まって頂こうと思うが、お連れ様方は宿屋に泊まって貰う事になるだろう」
村長は騒ぐ村人に指示を出していく。
「一昨日に行商人達が帰ったから、今は泊まり客はコーアだけだよ。
何人か知らないけど入れるだけ泊まらせれば良いさね」
村長は女将に討伐隊が来る旨を話す。女将も慣れた事なのかあっけらかんと返事する。
夕方になって先触れの通り、討伐隊が村にやって来た。
ミーシャと遊んでいる内に二人して眠ってしまったらしい。
騒がしい声で起こされる。どうやらもう夕方のようだ。
何故こんなに階下が五月蝿いのかと疑問に思い、ミーシャを帰すついでに下に降りる。
「どうして部屋が無いと聞いておるのだ!!」
「ですから、残り一つのお部屋には既に宿泊されているのですと、申し上げております。」
女将さんと誰かが言い合いをしているようだ。
「では、その者に部屋を空けるように申し付けよ」
(出た~、なんてワガママな客~。ピカピカの鎧に横柄な態度。ははぁ~ん、こいつ貴族だな)
巧亜はすいません、と断りながら話に入っていく。
「あぁコーア、あのね」
「宿泊してるのはお前か?」
説明しようとする女将を遮り、貴族は巧亜に話しかける。
「我らはプエト騎士団の者だ。崇高なる目的の為、ここに来ておる」
「はぁ、左様で」
生返事を返しながら話を促す。
「目的を果たす為には英気を養わねばならん。
それなのに部屋が一つ足りぬと言うのだ」
要するに兵士達は大部屋だが、自分は個室じゃないと嫌だと駄々を捏ねているのだ。偉い順に個室に入り、文句を付けている者があぶれてしまったらしい。
「では、私の泊まってる部屋をお譲りいたしましょう」
らちが明かないので、巧亜は折れた。
「おお、平民にしては理解が早い」
「いえいえ、崇高なる目的の為なら、英気を養って頂くのは当然ですよ」
思いっきり嫌味を言う。幸い通じなかったようだ。
「では、私の荷物を片して来ますので失礼します」
部屋に戻ると女将が追い掛けてきた。
「コーア、良いのかい?」
「貴族のわがままには答えないと女将さん達が困るでしょ?俺なら構わないですよ」
兵士に混じって、大部屋で寝ますよと言いながらバッグを背負う。
「すまないねぇ。じゃ、こうしよう……」
そう言われた一時間後、巧亜は何故かマーシャの部屋に居た。
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