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第一話 その男、愕然とする

読み専が何故か書いちゃった。

「もうダメだ、終わりだわ。詰んだわ」

 その男は絶望していた。


 小雨が降るなか、とあるマンションの屋上のフェンスを乗り越え、今すぐにでも飛び降りそうな雰囲気を出している。

 40才を越え、会社をリストラされてしまい、就職活動をしているがなかなか上手くいかず、気づけば2ヵ月が過ぎようとしている。


 男が絶望しているのは何故なのか?リストラで職を失っただけで飛び降りようとする程の絶望では無いだろう。


 それは男の涙の代わりに小雨が降るその2週間程前、夕方に自宅に戻ると家の中が空っぽだった。自分の物すら無い。家具、家電は勿論のこと、文字通り一切無くなっていた。

 結婚して10数年寄り添った妻や子供たちの姿も見えない。


「え……?何これどうなってんの?」


 慌てて妻に何度か連絡するものの、電話は何故か繋がらない。


 この状況に混乱しつつ自分の部屋にポツンと離婚届、複数の通帳と印鑑、手紙が落ちているのに気付いた。

 手紙には、もうあなたとはやっていけません。子供達を連れて出て行きます。とそんなことが書かれていた。


「……マジか、不甲斐ない俺を見限ったんやろか。就職はゆっくりでも良いから焦らず頑張って。とか言うてたのは何やったんやろ。子供ら連れてくってパートぐらいしかしてないのに出て行くって、どうやって生活するんやろか」


 ぼやきつつ男は次に通帳を見て崩れ落ちる。


「ははっ……こんなのマジで有りえへんやろ。あいつ全額引き出していきよった。これも、これもこいつもって全部やんけ!」


 残高0、全ての通帳の最後の記載には残酷な数字が印字されていた。


 男はとにかく一度きちんと話をしたいと思い、互いの親兄弟や友人知人に至るまで連絡し聞いて回ったのだが、その結果は更に男を絶望に誘うことになる。


 義両親から返ってきた言葉は、自分が浮気してることになっている上にDVまで常習していたらしい。反論しようにも取り付くしまもなく、散々悪態をつかれ電話を切られた後は着信拒否され、何度家に向かうも会ってすらもらえなかった。


 妻の根回しは徹底しており、妻側の人間どころか、自分側の人間ですら味方はほぼ居なくなっており、実の両親でさえも妻の味方だった。追い込まれどんどん男は憔悴していくなか、時間だけが過ぎていく。


 何故こんなことになっている。何故誰も自分を信じてくれない。

何故?何故?と自問するが答えは出てこない。


 頭の中はぐるぐると思考の迷路に迷い混み、睡眠も録に取れない。財布の所持金がどんどんと減っていくので食事もおぼつかない。まぁ、食欲は無かったが。男はただひたすらに、ふらふらと当ても無いまま探し回った。


 そんなある日、妻の親友から電話が有った。彼女はアラサーの独身で、10代の頃からの妻の親友であり、ほんの数ヵ月前まではよく自宅に招いて食事をしたりなど、妻だけでなく男や子供たちとも仲が良かった。

 妻は独身の時から彼女に男の愚痴を溢し、男はその度に彼女から詰められていた。


「実は凄く言いづらいのだけどあなたに黙っていた事が有るの……」


 彼女が切り出したコト、それは妻が数年前から不倫しているという。


「……隠していて本当にごめんなさい。どれだけ謝っても謝りきれないと思う。アタシは何度も止めようとしたんだけど」

 

 どれだけ親友が嗜めても本気ではないから。もうすぐ終わりにするから。だから黙ってて。変に波風を立てたく無いのなどと妻は不倫の常套句を並べたて、のらりくらりとかわしていた事でとうとう親友が激怒して、ここしばらく疎遠になっていたということらしい。


 親友も妻が起こした今回の失踪?を数時間前に他の友人から聞いたそうで慌てて妻に連絡を取ると、妻からは不倫相手と一緒になるつもりだと教えてくれた。

 今回の事で妻を本当に見限る決心が付いたと語っていた。


 他にも色々話をしたのだが男の頭には録に入ってこない。生返事を返しつつ電話を切ると男はフローリングの床に寝転び、ただ放心していた。


 男の心はポッキリと折れてしまっていた。


 暫くすると男は音もなく立ち上がり、フラフラと外に出て行った。目的も何も無くただ歩き、気づけば知らない屋上に立っている。


「……雨降ってたのか、全然気付かなかったわ。まぁどうでもいいか……もうここからあいきゃんふらいでもしちゃうか。この高さなら確実に逝けるやろ」


 フェンスを乗り越え、下を暫くの間眺めていた。今までのことを思い返しているのだろうか、男は静かに涙を流していた。


 やがて男の顔は無表情になっていく。



「……さぁ行くか、次の人生へ。はいっ、開きな~おった」



 男は面倒くさいメンタルを持っていた。

ある一定以上の精神的ダメージを受けると一度とことんまで落ち込まないと開き直る事が出来ない。


「おぉ~小雨でも全身びしょびしょやわ。腹も減ってるしどうしよかな」


などと愚痴りながらフェンスを乗り越えようと後ろに向き直そうとして足を滑らせた男はそのまま屋上から落ちて行った。




「フフッ、見事にあいきゃんふらい出来たね、槇多巧亜くん?……ププッ駄目だ我慢できぬわ」

読んで頂いて有り難うございます。

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