自然の摂理
2XXX年、今からずっと先の地球。
地上は巨大な怪獣達が支配をし、人類は地下に追いやられていた。
地下都市での生活はどうという不具合はない。
人類には有能な科学者が揃っていた。
怪獣が現れる大分昔にはエネルギーを精製する技術はできあがっていたし、国同士の燃料を巡る争いも無くなっていた。
酸素やその他の有機物も精製する事ができたのだ。
当初は完全な防護服を着て地上に出た者も少なくはない。
しかし地下での生活が当然になった“現代”の人間には自然の代名詞である“海”“山”の存在も只の伝説のように感じられた。
怪獣から地上を奪還しよう、と奮起する者など随分長い間出てこなくなってしまったのである。
地下都市地方出身の歴史博士が居た。
代々歴史学者を生み出して来た“ジョージミリア家”出身の博士は、その家柄の名前を汚す事無い高名な中年男だ。
学者として申し分無い家柄の彼は、物心ついた時から前時代、つまり地上に人類が居た時代に思いを馳せており、地上への強い人憧れを持つ物であった。
奇しくも同時代、地上への関心を持つ奇特な政治的有権者がおり二人は対面することになる。
博士は対面した政治家と酒を酌み交わしながら話した。
「博士、私はね地上に別荘を持ちたいのですよ。リゾート地を開発するのも良い。」
政治家の話は私欲にまみれては居たが、博士にとってはこの上ない機会だった。
この男はスポンサーとして大きな後ろ盾となるだろう。
博士は早速他分野の学者仲間とも話し合い人類の地上奪還計画について話し合った。
三日三晩の話し合いの末『人工氷河期』を起こす作戦を考えた。
人為的とはいえ、あまりにも自然の摂理に反する事をしてしまえば地球そのものの環境も破壊してしまう。
そもそも人為的であるという事自体既に自然の摂理とは言えないかもしれないが、化学物質や火を使わない作戦を、と考えての計画だった。
話し合いから一週間後。
博士と学者達、そして政治家は防撃用のマスクとスーツに身を包み地上へ視察に向かう。
地下都市全域で、このプロジェクト発足は話題になっていた。
産まれて是迄、地上の「ち 」の字にも興味を示さなかった若者達も大きく心を動かされた事だろう。
前時代人類が月に降り立った時の様なそんな関心を一心に受け、一行は長い事開けられず錆び付いた地上へのドアをあけた。
地上に出た瞬間、地下都市には無い光に一瞬目が眩む。
「あれを直視してはなりませんよ」物理学者が太陽を指さしてアドバイスをする。
時折遠くから怪獣のものであろう咆哮が聞こえるが、近くには見当たらない。
一行は周囲を見回す。
鮮やかな緑に美しい花。
無機質な地下都市とはまるで違う。
自分たちの真上にこんな色豊かな世界があったとは。
これが、自然、なのだ。
博士が防撃マスクを脱ぎ大きく深呼吸をした。地下都市の空気とは全く違う。ただの呼吸で何とも清々しい気持になる。
政治家もマスクを外し一息呼吸をする。
その目には似つかわしくない涙が少し浮かんでいる。もはや私欲の為ではなく純粋にこの景色に惚れ込んでしまったようだ。
各々新鮮な空気を味わいつつ少し先へ進もうかと思った時、一匹の棘だらけの怪獣が茂みから現れた。
博士達は弾かれたように脱兎のごと地下都市に逃げ帰る。
無事に全員帰還し、互いに目を合わせた。
視察は改めることになったが、皆の目は輝きに満ちていた。
“小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である”
プロジェクトメンバーは、アームストロングのような思いを抱き計画の成功を願った。
その晩。
政治家が息を引き取った。
謎の病であった。
知らせを受けた学者たちが、恐れた通り地上の新種のウィルスが原因だった。
瞬く間に進行し、驚異的な伝染力だった。
博士も当然に謎の病に倒れ、床に伏した。
自分達の抱いた夢、地上に思いを馳せる。
古代恐竜が氷河期で姿を消したこと、怪獣の出現で人類が地上から姿を消したこと。
“人類には”免疫のないウィルスが存在していること。
すべては自然の摂理だったのかもしれない。
どのような形であれ自然の摂理に反してはいけなかったのだ。
少なくとも地上は今の人類を受け入れる事は無い。
病の終息を願い、博士は目を閉じた。
お読み頂き有難うございました。
怪獣という形では無くても、好き勝手にしていたらバチが当たるのではないかというお話です。




