#57
二月。と言えば、何を思い浮かべるだろうか。
この時季は、そう、バレンタインだ。
バレンタインの話が出たひなぎく荘一階フロアは、とてつもなく煩くなる。
「やっぱり、皆で大きいケーキか何かを作るほうがいいですって!」
「いーや、個別に作るべきよ! そんなめんどくさい事、ごめんだからね!」
やはりいつも、この二人なのだ。
大きい物を皆で作りたい派の蘭と、個人で一人一人に作りたい派の千寿。この二人が言い争いを始めてから、一時間が経過しようとしていた。バレンタインの話をしていると察した男性軍が、降りるに降りてこられないのが伝わってくる。でも、今はダメ! と、心の中で説得したつもり。
「そこで見ている三人はどうなのよっ!」
突然、話を振られた。三人とも、言葉につまらせる。その中、一番に口を開いたのは菜乃花だった。
「私は、個人で作ったほうが楽なんじゃないかな~……」
菜乃花の言葉を聞いて、「ほら!」と千寿は蘭を見下ろす。悔しそうに蘭は、ミリアに訊ねた。
「ワタシは、ビッグなの、作りたいっ!」
次は、「ほら!」と蘭が千寿を見下ろす。これで二対二になった。すると、二人して残る四季に問いかけた。四季は、迷いに迷った末、結論を口にした。
「両方やれば、いいのでは……?」
それこそめんどくさいと言われそうだ。だが、そんな考えを覆す答えが返ってきた。
「いいわね、それ!」
「確かに、楽しそうですっ」
(え? いいの?)
そんなこんなで、バレンタインはやって来る。
「んもう、誰よ! こんなめんどくさい事提案したの!」
やっとの事お菓子作りを終え、千寿がそう嘆いた。その嘆きに、蘭が反応した。
「確か、四季先輩の案ですよね?」
「今更めんどくさいったって遅いですよ!」
今更かーい、と緩くはツッコミできなそうだ。
「じゃ、じゃあ、これは夕食後という事で、冷蔵庫にしまっておきますね」
菜乃花は、遠慮がちにケーキを冷蔵庫に入れた。ありがとーう、と声をかけると、独りで作った小さなチョコタルト片手に階段を駆け上がった。
向かうは要の部屋。ドアの前に立ち、一回深呼吸をしてノックをした。
中には、勉強中の要がいた。最近学年末テストがあったというのに、勉強熱心なものだ。そんな要に、作りたてのタルトを差し出した。要は、笑顔で受け取る。
「バレンタイン兼誕生日プレゼントって事で! 渡せなかったからね。大丈夫、かな?」
「うん、嬉しいよ。ありがとう」
最高なバレンタインの後は、最悪の何かが訪れる。かもしれない。




