#56
一週間後、美代子と早乙女藍羅は再びひなぎく荘を訪れた。
「さてと、返事を訊こうかしら」
中に入るなり、単刀直入に訊いてきた。まぁ、拒否なんて許さないけど、という表情をしている。早乙女藍羅も、ニヤニヤしていた。
でも、そんな二人を見ても、要は怯まなかった。大きく息を吸って、前々から用意していた言葉を口にする。
「お断りします」
言い放たれたその言葉に、美代子はすかさず反論する。
「この期に及んで、まだ拒否するの? そんな事したって、無駄だってわからないのかしら?」
「拒否します。美代子さんが了承してくれるまで、何度だってします」
「いい加減諦めなさいよ! 無駄だって言ってるでしょ!?」
だんだん、美代子も焦り始めてきたらしい。声を荒々しくあげている。
肩を上下しながら呼吸する美代子の隣で、早乙女藍羅が目を潤わせた。
「要様、どうしてそんなに反対なさるの? そんなに、わたくしが嫌なのですか?」
「そうじゃないんだ。ただ、僕には他に大切な人がいるんだよ」
「昔は、わたくしの事を好きだと言ってくださったのに……っ」
(そんな事、言った覚え無いんだけどな……)
これも、忘れてしまっただけだろうか。それとも、要を説得させる為の作り話なのだろうか。どちらにせよ、今の要には関係なかった。
「だからっ――」
要は、ゆっくりと頭をさげた。
「ごめんなさい、その話は無かった事にしてください。縁を切っても構いません。どうしても、僕はここから出たくないんです」
「――っ」
何も言えなくなってしまった美代子は、ジッと頭をさげる要を見つめた。そして、観念した様子でため息をついた。
「……藍羅、帰るわよ」
「えっ。美代子様、本気ですか!?」
「えぇ、もういいわ。他をあたりましょう」
ズカズカと玄関まで足を進める美代子に、要はホッとため息をついた。早乙女藍羅は、チッ、と爪を噛みながら美代子の後についてひなぎく荘をあとにした。
一段落ついた事に安心し、要はその場に座り込んだ。すると、ナイスタイミングな事に、二階で待機していた四季が降りてきた。
「要君っ! どうだった!?」
「……論破できたよ」
微笑んで報告すると、四季は勢いよく抱きついてきた。
「おめでとう、要君っ」
「うん、ありがとう」
「誕生日もね!」
へ? と、思わず聞き返す。忘れていたが、今日は要の誕生日だったらしい。いろいろあって、すっかり忘れていた。
「……で、さ。その、最近いろいろあったじゃん? だから、まだケーキ用意できてなくて……」
ごめん! と、顔の前で合掌して謝る四季の頭を撫でた。そして、頬に手を触れ、顔をグッと近づけさせた。
「いいよ。こっちがあれば」




