#54
「許嫁!?」
住人達は一斉に叫ぶ。
何を言っているんだ、この女は。許嫁? そんなの嘘かハッタリに決まってる。だって、要は四季と交際中なのだ。この女の言っている事はデタラメだ。
――それとも、嘘をついていたのは要のほうか?
いやいや、そんなはずない。あの誠実な要が、嘘をついているようには思えない。現に、許嫁と聞いて、訳がわからない、と言った表情をしていた。だということは、要は事実を知らなかったという事か。
(……あぁ、もうわかんねぇ!)
「藍羅、離れなさい。要は、久しぶりだったから恥ずかしがってるだけよ」
心の中で諦めの言葉を叫ぶと、先程要の名を呼んだ女性が口を開いた。その女性の言葉に、早乙女藍羅は反論ひとつせず、素直に離れる。その姿に一瞬微笑むと、すぐに顔を強ばらせ要に向いた。
「許嫁の事を忘れるなんて、最低ね。貴方の母親は、そういうふうにしつけたのかしら?」
要だけでなく、住人達もが背筋をゾクッとさせる。それ程の威圧感なのだ。要が「すみません」と小さく謝ると、満足したかのように薄く微笑んだ。
「久しぶりねぇ、要」
「……久しぶりです、美代子さん」
『美代子さん』と呼ばれた女性は、再び薄く微笑む。近くにあった椅子に座ると、早乙女藍羅に何やら合図をした。その合図を受け取った早乙女藍羅は、再び要に抱きつく。どうやら、『抱きついてもいい』という合図だったらしい。だが、四季にはそんな事どうでもよく、ただただ早乙女藍羅の行動に怒りを覚えた。
「……さてと、そろそろ本題に入っていいかしら?」
『本題』とは、おそらく許嫁の事だろう。あまり訊きたくない話だが、美代子を止めるとバチがあたりそうなのでやめた。
「要、今すぐここを出なさい」
喋り出したと思ったら、いきなり爆弾発言。驚く要や住人達をよそに、美代子は続けた。
「こんな所なんか出て、私の家に来なさい。藍羅との生活に慣れる為よ。いいわね」
「……っ、嫌です」
要が力一杯反論すると、美代子の眉がピクッと動いた。お怒りの様子だ。
「……要、それが許されるとでも思ってるの?」
「要様、わたくしと過ごすのが嫌なのですか?」
二人から同時に攻撃されたせいか、要は反論できなくなってしまった。そんな要が精一杯出した答えは、
「……考えさせてください」
だった。美代子はそれを受け入れた様子で、早乙女藍羅をつれて早々と帰っていった。
「じゃあ、一週間後に」
そう、言い残して。




