#51
十二月三十一日。大晦日である。
本来大晦日は、一年の間に受けた罪や穢れを祓うために、大祓いが宮中や全国の神社で執り行われるものである。が、一般庶民は年越し蕎麦を食べたり、大掃除をするだろう。
実際、四季達ひなぎく荘の住人達は、先程蕎麦を食べ終えたところだった。お腹いっぱいになった今、大晦日の大掃除。
「やる気が出ませんね~……」
お腹いっぱい幸せそうな顔で、四季はそう溢す。それを聞き取った蘭が、四季を叱咤する。それに対し、四季は生半可な返事。今まさに、康太になった気分を味わった。
「なんか、幸せそうだね」
そんな声がかかってきた。声の主は、要。へへへ、と笑いかける。
クリスマスの夜から四季と要は付き合い始めた訳だが、要とは普段からよく喋っているので、変わった事はないように感じた。唯一変わったといえば、心也がお怒りの時が多くなった事だろうか。でも、心也が怒っているのは日常茶飯事、と考えている四季は、特に何も突っ込まなかった。
要との会話が弾んでいると、「おい」と背後から声がかかった。振り返ると、心也が。
「ちゃんと掃除しろよ」
いつもの苛立った様子でそう言われる。心也に言われたくない、と反発した様子の四季とは違い、真面目な要は「ごめんごめん」と謝り、もといた場所に戻っていった。
(なによ、心也のくせにっ)
合っていた目を、おもいっきり逸らす。すると、逸らした先にある光景が映った。
「蘭、何してるの?」
ネームペン片手に、壁に向き合っている蘭に問いかける。その壁というのも、トイレの隣の隅っこの壁に。
「何も言わないで見ててくださいね」
何の事かわからず、首をかしげる。言われるがままに蘭の行動を見つめていると、蘭はペンのキャップを外し、そのペン先を壁にあてた。サラサラと何かを書いていく。その光景に思わず、四季は声をあげた。
「ギャーーーーー! ちょっと、蘭! 何してんの!」
「黙っててくださいよ!」
そう声はあげたものの、四季は何もできずただ蘭の行動を凝視していた。「よし」と言ってキャップをする蘭に、たまらずまた問う。
「蘭、大切なひなぎく荘の壁に何を……」
「まぁまぁ、見てください」
蘭は、先程何かを書いた場所を指し示す。四季は、そこに視線を送った。するとそこには、ひなぎく荘メンバーの名前が書かれていた。
「これ……」
「蘭達がここで出会った事、ここで楽しく過ごした事等を残しておきたいなと思い、名前を書いてみました。壁に書くの、やっぱりマズかったですか……?」
控えめに問いかけてくる蘭に、ううん、と首を横に振る。すると蘭は、よかった、と笑みを溢した。
「……それに、蘭達はいつバラバラになるかわかりませんし。もしかしたら、来年の三月にとか……」
そこで、蘭は言葉を濁した。
四季は、何も言い返せなかった。すっかり忘れていたが、四季は来年の三月にはここを去る。来年の三月にはもともと住む予定だった妃寮の工事が終わり、ここにいる理由がなくなってしまうのだ。なんだか変な気分だ。本当は、嬉しいはずなのに。
「……って、こんな事考えるなんて可笑しいですよね!」
急に、蘭は声を張る。そんな事あり得ませんし、と微笑む蘭に、罪悪感みたいなものを感じた。




