#46
最近、菜乃花の視線が心也によく行く気がする。
だからといってどうという事はないのだが、何故か気になる。当の本人は全く気づいていない様子だが、四季と同じように感じた者は他にもいた。
「菜乃花せんぱぁい。最近、よく心也先輩の事目で追ってませんかぁ?」
蘭だ。ひなぎく荘の男性人全員が二階の自室へ戻り、女性人だけとなった一階フロア。そこで、蘭は容赦なく菜乃花に訊ねた。菜乃花は「えっ」と、いかにも図星をつかれた表情になる。四季は、そうそう、と頷き、千寿は、確かにそうねぇ、と頷いた。
「実際のところ、どうなんですか!」
蘭が威圧感バリバリで問いかける。菜乃花は肩を小さくし、顔を逸らして答えた。
「……無意識、です」
「無意識ですか!? 無意識に目で追っちゃったんですか!? 無意識に恋に落ちちゃったんですか!?」
「そこまで言ってないよ!?」
勝手に話を展開する蘭。冗談で言ったつもりだろうが、四季は「マジかっ!」と反応した。
「マジで!? 菜乃花、心也の事好きなの!?」
「四季ちゃんまでぇぇ」
菜乃花は真っ赤になった顔を、両手で覆った。その後も四季と蘭で質問攻めにすると、菜乃花は何を思ったのか、キッチンに逃げた。
「にしても、菜乃花先輩が心也先輩を好きになるなんて、意外ですねぇ」
不意に蘭がそう溢す。それに、「そうだよねぇ!!」と、四季が共感した。
「だって、あの心也だよ? 毒舌最低男の心也だよー?」
「そうだけど、意外と好きになっちゃったりするものなのよ」
「でも、あの心也にですよ?」
「ほら、人って自分にないものがある人を好きになる傾向があるじゃない。それよ」
『恋』というものがわからない四季の質問に、千寿が淡々と答えていく。そうなのか、と四季は何度も頷いた。
「へぇ~、菜乃花が心也に恋ねぇ……」
ポソっと呟く。その呟きを耳で拾った蘭が、四季に訊ねた。
「四季先輩は、恋した事ないんですかぁ?」
「ないっ!」
即答。それに、蘭と千寿は苦笑した。
「そう言う蘭はどうなの?」
四季が逆に問う。蘭は、うーんと考えてから答えた。
「蘭もないですね~。こう見えて、全然男子と喋んないんですよ?」
「へぇ、意外。千寿さんは?」
「他人の話聞いているほうが楽しいわ」
なんという考えだ。そう思っていると、ふと、蘭が四季に訊いてきた。
「四季先輩は、もし好きになるなら誰ですか?」
ひなぎく荘で、と蘭は付け足す。なかなか難しい質問に、四季は頭を捻らせた。
「玲央君は?」
「うーん……。バカだもんな~」
四季が言える事ではないだろう。蘭と千寿は、同時にそう突っ込んだ。
「では……要先輩は?」
「要君は、どっちかと言うとお父さんって感じ!」
(頭よく撫でるしね)
うんうん、と独りで頷く。
「では、心也先輩は?」
蘭がそう口にした瞬間、菜乃花の身体がピクリと動いた気がした。それを、四季は見逃さなかった。
「まぁ、心也は、うーん……弟、かな? チビだし」
「誰がチビだって?」
背中がゾクリ、とした。ゴゴゴゴ、といかにも怒っている音が聞こえてくる。ゆっくり振り向くと、そこには激怒している心也が。まぁ、その後どうなったかは皆様のご想像にお任せしよう。
二度と四季に恋の質問はしまい、と思った蘭であった。




