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#38

「ほっ……本気で言ってるんですか!?」


 どうせ、冗談か何かだろう、と思っていた四季は、千寿にそう問う。だが、あまりにもマジな顔で「当たり前じゃない!」と言うので、四季の考えは一変した。


「そんなっ……」


 千寿は顔を強ばらせたまま自室に戻っていく。その後を追うかの様に、平然とした顔つきで心也も自室へ足を進めた。四季、蘭、玲央の三人が残る。


(千寿さん……まさか、本当に冗談じゃなく言ってたのかな……?)


 四季はこの一年間、十人でこのひなぎく荘で暮らしていくのだとずっと思っていた。それが、ひなぎく荘にとってベストなはずなのだ。誰一人として、欠けてはいけない。こんな小さな争いで、誰かが出ていくなんて、考えられないのだ。


(だって、ヒナギクの花言葉は――)




「ん……」


 目が覚めるとそこは、自室のベッドの上だった。何故、四季はベッドに寝かされていたのだろうか。さっきまで、キッチンにいたはずだ。

 記憶を整理してみる。確か、玲央がお皿を割って、千寿さんが怒鳴り、怒って「ひなぎく荘を出ていく」って宣言して――


(――宣言して?)


 その後の記憶が曖昧だ。思い出そうとしても、思い出せない。結局、肝心なところはわからなかった。

 ふぅ、と一息つくと、部屋のドアが開いた。


「四季ちゃん? 起きてるの?」


 どうやら、菜乃花が入ってきたみたいだ。横になっていた体を起こそうとすると、頭に痛みが走った。


「いたっ……」

「あっ、まだ起きないほうがいいよっ。どこ打ってるか、わからないし」

「ねぇ、菜乃花。私、どうなったの?」


 四季は、痛む頭を押さえながら問う。


「私が聞いた話によると、怒った千寿さんがキッチンを立ち去った後、突然倒れたとか」

「倒れた……?」

「うん。それで、気絶しちゃったって」


 なるほど、四季はあの後気絶したらしい。それで、記憶が曖昧なのだ。辻褄が合った。


「……ねぇ、千寿さん、ホントに出ていっちゃうのかな……」


 辻褄が合った事に少々喜んでいると、菜乃花が心配そうに訊ねてきた。俯く菜乃花を、四季は見つめる。


「……千寿さんが?」

「うん。皆の前で宣言してた……」


 四季が気絶している間に、他の皆にも告げたらしい。やはり、本気なのだろう。


「……なんか、寂しいよね」

「え?」

「だって、ずっと十人でいられると思ってたんだもん。なんか、穴が開いちゃったっていうか」


 菜乃花は苦笑いをする。


(……私と、同じ事思ってるんだ)


「……やっぱり、そうだよね」


 四季の呟きに、菜乃花は顔をあげた。


「ひなぎく荘には、十人いなくちゃ変なんだよ。そうだよ、千寿さんおかしいよ」


 四季は何かを決意したかの様に、拳をギュッと握りしめた。そして、勢いよくベッドから降りる。四季を制する菜乃花の声を無視して、四季は菜乃花の手首を掴んだ。


「よし。行くよ、菜乃花!」

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