#36
八月の第三週のとある日。夏休みの終わりが近づき、「ヤバイ!! 宿題終わってない!!」ってなる頃(ならない真面目もいるが……)。四季は菜乃花と共に、菜乃花が好きな、花についての本を読んでいた。しかも、菜乃花の解説付き。
当然の如く、四季は宿題を終えていない。それ以前に、『宿題』という言葉なんぞ、四季の辞書には載っていないのだ。
「――で、次は、ヒナギク」
「おおっ、ヒナギク!」
住処となっているこの場所の名前でもあり、叔母の名前でもある『ヒナギク』。その名を聞いて、四季は今まで以上に興奮した。
『ヒナギク』のページには、まず、大きく三枚の写真が貼られていた。紅、桃、白。前にひなぎく荘に生けてあったものと同じだった。今は開花時期ではないので、造花に変えられてしまっているが。
写真の下には、開花時期や花言葉等の詳細が載っていた。それを見て、菜乃花の解説を聞こうとしたその時、叫び声がした。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫び主は蘭。目の前で叫ばれたので、四季と菜乃花は肩をビクッと、異常なくらい震わせた。
「酷い、酷いです! 誰ですか、こんな事したのは!」
嘆く蘭に、四季と菜乃花は何があったのか訊ねた。蘭は、涙目で二人に訴えた。
「録画予約しておいたはずのアニメが、殆ど録られていないんですよぉ!」
「「アニメぇ?」」
そんな事か……と少々呆れる四季と、テレビ画面を確認する菜乃花。すると、101号室のドアが開いた。
「んもう、煩いわねぇ」
迷惑そうに、千寿は部屋から出てきた。すかさず菜乃花は問う。
「あっ、千寿さん、蘭ちゃんが録画予約していたアニメが録られてない理由、わかりますか?」
「アニメが録られてない理由? あぁ、それならアタシが消しといたわよ。訳わかんない名前だったから」
千寿の言葉に、蘭は「何ですとっ!?」と反応する。未だに何を騒いでいるのかわかっていない千寿は、迷惑そうに眉をしかめた。
「何で消しちゃうんですか!! まだ観てないんですよ!?」
「何でって、消さないとアタシが観たいの録れなかったんだもん」
「確認くらいしたっていいじゃないですか!! よりによって、イケボな声優さんのアニメを!!」
「何でアタシが全部悪いみたいになってるの!? それぞれの録画時間は前に決めてたじゃない! それを守らなかったのはアンタでしょ!?」
全てを理解した千寿は、眉間に皺を寄せ、物凄い剣幕で怒鳴り散らす。蘭も負けじと対抗した。そんな二人を静かに見ていた菜乃花は、控えめに四季に訊ねた。
「四季ちゃん……あの二人、どうするの?」
「……まぁ、ほっとけば何とかなるでしょ」
「そうだといいけど……」
自然に解決してくれる、と考えていた四季は、二人をほっとく事にした。しかしこれが、後々悪影響を及ぼす事を、四季はまだ知らない。




