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#30

 ゴーゴーと、強い風力で部屋中に涼しい風が送り込まれる。ひなぎく荘にも、あつーい夏がやって来た。

 夏の暑さにやられてる中、買い出しから帰ってきた四季と菜乃花は、クーラーがよくきいているまるで天国のようなひなぎく荘に飛び込んだ。


「ただいまです! 暑かった~」


 ふぅ、と腕で額の汗を拭う。すると、目の前に飛び込んできたのはソファに寝転がってダラけている住人達だった。


(あれ……これ、デジャヴ?)


 五月を思い出す。暑さにやられてる住人達の姿は、まるで五月病の時のようだった。


(この部屋、すっごく涼しいのに……。ちょっと寒いくらいだよ)


「皆さんご所望のアイス、買ってきましたよー?」


 四季の一言で、ダラけていた住人達は、アイス目がけて物凄い速さで食いついてきた。住人達の行動の速さに、四季と菜乃花は苦笑いをした。美味しそうにアイスを頬張る蘭や玲央。そんな中、部屋の隅で独りテレビを観ている心也が視界に入った。


(食べないのかな?)


 たぶん、この輪の中に入りたくないだけなのだろう。そう考え、四季はアイスを一本持って、心也のもとまで歩み寄った。


「心也ー、アイスいらないの?」


 首をかしげ、心也を見下ろす四季。何だか少し、気分がよかった。心也は、ゆっくり四季を見上げる。すると、口を開いて一言。


「いるって言ってねぇ」


 カチン。そんな音が聞こえた気がした。四季は、強く拳を握り締める。


(やっぱりこうだ。せっかく持ってきてやったのにぃ……!)


 ふんっ、と顔を背けて立ち去ろうとしたその時、心也は「でも」と再び口を開いた。


「いらないとも言ってねぇ」


「え……」と振り返った時には、もう既に手からアイスが消えていた。気づくと、心也がアイスを頬張っている。凄い早業だ、と感心した。


(……でも、心也って謎な人)


 そんな事を思いながら、菜乃花達のもとへ戻った。すると、なにやら菜乃花が一枚の紙を皆に見せていた。


「これ、皆で行きませんか?」


 蘭、玲央、智宏、四季は一斉に凝視する。その紙は、五日後に行われる花火大会について書かれていた。


「花火大会、ですか?」

「そう! 隣街の大通りを中心に行われるんだって。あんまり遠くないし、皆で行ったら楽しそうだなって」


 蘭の問いに、菜乃花は笑顔で答える。その答えを聞いて、蘭も「確かに楽しそうですね!」と乗り気になった。四季も、笑顔で頷く。


「ここらの地域のうちで最大規模らしいし、私も皆で行きたいと思うっ」

「でしょでしょ? 皆で浴衣とか着たら、もっと雰囲気出るんだろうな~」

「いいですね、浴衣!」


「じゃあ、当日は皆浴衣で~」と、女子三人楽しそうに話していると、「ちょっと待って」と智宏が口を挟んできた。


「ちょっと待って。本当に浴衣着るのかい?」

「え? 本当ですよ」

「俺達男子もっすかぁ?」


 若干嫌そうに、智宏と玲央は訊ねる。その質問は、蘭の「いいじゃないですか~」の一言で解決された。だが、ここでひとつ、四季は気になった。


「私、浴衣持ってないよ?」


 女子力が乏しい四季は、祭りといえども私服。浴衣を着ようだなんて、今まで一度も思わなかった。それは四季だけだろう、と四季は思っていた。


「私も持ってないよ?」

「蘭もです」


 それを聞いた瞬間、四季はあれ? となる。四季だけじゃなかったらしい。ホッと胸を撫で下ろす。と同時に、新たに疑問が生まれた。


「じゃあ、どうするの?」

「う~ん、呉服屋さんで借りればいいんじゃないかな。確か、隣街にあったし」


「おぉ! なるほど!」と、四季は手を打つ。


「確かに、買うのはお金かかるし嫌ですもんね。千寿さんとか、『絶対そんなものに大事なお金使わないわよ!』とか言いそうです」


 蘭が千寿の真似をして言う。玲央と智宏が「上手い!」と手を叩いた。


「じゃあ、五日後の花火大会、全員浴衣で行こう!」

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