#23
四季は、ずっとあの時の事が気になっていた。あの時の心也の表情、何故だか頭に焼き付いている。気遣ったのが間違い、と思ったはずなのに、やはり気になってしまった。
「ただいま~」
ひなぎく荘のドアを開ける。珍しく、既に帰ってきていたのは心也だけだった。
心也は、無言のままスマートフォンを弄る。そんな心也に、四季はおもむろに声をかけた。
「……今日は、友達は来ないんだね」
「……べつに、毎日来る訳じゃねぇし」
そりゃそうか、と四季は一人苦笑する。視線をスマートフォンから離さない心也に、四季は思いきって聞いてみる事にした。
「ねぇ、心也。あの人達といて楽しい?」
「……は?」
四季の言葉に、心也はたまらず顔を上げる。「……意味わかんねぇんだけど」と、心也は言い放った。
「意味わかんないって、そのまんまの意味だよ」
「は? 俺が、楽しくないのに一緒にいると思うか?」
「思わないけど……」
そう言われれば、確かにそう思わない。けど。
「……心也が楽しくしてなさそうなところ、見たから」
「……っ」
心也は息を呑む。何故気づかれた、といった表情を一瞬だけ見せる。でも、心也はすぐに不機嫌そうな表情に戻し、
「……気のせいだろ。ってか、なに見てんだよ。余計なお節介」
「余計なお節介」という言葉が四季に響いた。
(お節介? せっかく心配してやってんのに)
抑えていた怒りが今、わなわなと湧いてきた。
「お節介ってなによ! 私は、心也の事心配して言ってんだかんね!?」
「そーゆーのがお節介っていうんだよ。べつに、ダチでも何でもねぇのに」
「……友達じゃなかったらダメなの?」
強気な言葉でも、つらそうにしているのが伝わってくる。それは確かにお節介なのかもしれないけど。
「ひとつ屋根の下に住んでいるじゃん。友達じゃなくて、家族じゃないの?」
「……」
四季の言葉に、心也は何も言い返せなかった。正直、心也は嬉しかったのだ。心也はいつも強がりで、心配される事は少ないというよりゼロに等しい。だから、心配してくれる四季に、本当はすごく有難いと思っているのだ。
心也は、無言でソファから立つ。なにやらスマートフォンを少し弄ると、それを耳にあてた。
「……あぁ、俺だけど。今度の日曜の話、なしな。もう俺ん家も無理。――ってゆーか、もうお前らとはいいわ。じゃあな」
誰と話しているのだろうか。心也は話し終わった途端、振り向き四季に言った。
「これでいいだろ」
たぶん、話し相手は昨日と一昨日来た、あの友人達だ。内容は、もう一緒にいないという事だろう。心也は、その道を選んだのだ。
(……やっぱり、無理してたんだ)
そうわかった四季は、笑顔になった。
「心也がそれでいいなら!」
心也は照れ臭そうに、自室へ戻っていった。




